魔王山荘新築計画
七大魔将軍ビフロンス
第63話 北の台地にて
キートから北のアダマンタイトが採掘できる洞窟は山岳地帯にあるが、それよりもっと北に行くと台地状の広大な荒れ地が広がっている。見通しのいいその荒れ地の向こう、土埃の中に蠢く影の集団が見えてきた。
その数は凄まじいものだった。クニオはそれまで戦場というものを、実際にその目で見たことは無かったので、それがどれぐらいの数なのかは見ただけでは見当もつかない。
「1万以上はいるな」クニオの横でコルビーが呟く。
段々と影の集団が近づいて来ると、少しずつ個別の輪郭も見えるようになってきた。人間程度の大きさのものが半分くらいで、その二倍くらいのものや数十倍ぐらいあるものも混じっている。一番わかりやすいのはドラゴンだ。洞窟で出会ったエンシェントドラゴンを除けば、生きて動いているドラゴンを見るのは、クニオはグレゴリーと知り合った時に見たアースドラゴン以来だった。
いや、更に距離が縮まるとそうではないことが分かった。ドラゴンの体は腐っている。本でゾンビドラゴンという種類の魔物の絵を見たことがある。更に骨だけのものもいる。スケルトンドラゴンと呼ばれているものだ。
人の大きさをしているものも、体の何割かが朽ちているか、骨だけになって動いている。大きな個体もそれは一緒だ。元はオークやギガントと呼ばれる種類の魔物だろう。そうして人間よりも小さな存在もある。あれはクニオも良く知っている。きっとゴブリンだ。これもまたゾンビゴブリンとか、スケルトンゴブリンと呼ぶべきものだろう。
「この軍勢は一体?」クニオは隣にいるコルビーに問いかける。
「七大魔将軍ビフロンスとアンデッド軍です。あいつは戦いの犠牲になった魔族や、使役させた魔物や魔獣の死体をアンデッド化して従えているんです。聖魔法で浄化するか、再生できないほどに粉々にするか焼き尽くさない限り、彼らの魂が解放されることは無いんです」
その軍勢の前方の中心に、ゾンビオークが4体で神輿のようなものを担いでいるのが視認できた。神輿の上には椅子があって、黒いタキシード姿の男が座っている。顔には頭蓋骨のようなデザインで、上半分が隠れるようなマスクをしている。背中には柄の長い鎌のようなものを携えている。
ある程度距離が詰まったところで、軍勢の進行は一旦止まった。男は神輿の上で椅子から立ち上がるとこう叫んだ。
「魔王!お久しぶりでございます。このビフロンス妙な話を聞きました。魔王が人間との戦いをやめるおつもりだとか何とか…」そこまで言ってビフロンスはコルビーの方をじっと見つめる。そのマスクの下にある目は笑っていない。
「まさか今更そんなはずはございませんよね!?」
コルビーはクニオの横から一歩進み出ると。大きな声でビフロンスに向かってこう叫ぶ。
「ビフロンス!私はこの世界の真実を知った。今はもう人と魔族が戦わなくてもいい世界を作ろうと思っている!!」
それを聞いてビフロンスは黙っている。遠目にもその体がわなわなと震えているのが分かる。少し時間を置いてからまた声を発する。
「今更何をおっしゃるんですか?ここにいるものたちを見てください。みんな人間に殺されたんですよ。我々が殺した人間も混ざっていますがね…今更戦うのを止めて彼らはどうするんですか?」
「この世界の理(ことわり)に従うのであれば、死は死ではないのだ」コルビーの口調はいつのまにか魔王のそれに戻っていた。
「おっしゃる意味がさっぱり分かりません。こうして魂を縛り付けでもしない限り、彼らの存在はこの世から消えてしまうでしょう?それがなぜ死ではないんですか?」ビフロンスはやれやれといった感じで、吐き捨てるようにそう言ってから、首を二、三度横に振ってから続ける。
「…もういいです。完全体になるまでとお待ちしておりましたが、もう一度転生して頂いた方が良さそうですね…今のその体であれば、この数を相手に闘う事は難しいでしょう。誰に何を吹き込まれたかは分かりませんが、そこの人間も一緒に始末して差し上げましょう」そういうと男は右腕を高々と上にかざした。
「おい、コルビー、これはちょっとまずいんじゃないか?」
彼の後ろからそう声をかけたクニオの方をコルビーは振り返る。
「大丈夫ですよ師匠。この体でも彼らをチリ一つ残さないぐらいには燃やし尽くせます。但し今の体では限界は超えてしまうので、この体とはもうお別れですね。しかし次の転生でも、今までの輪廻からは外れる事ができると確信しています。久々に楽しかったです。何年か後にまたお会いしましょう」そう言って彼はニコリと笑ってから、また軍勢の方を向き直して一歩また一歩と足を前に進め始めた。
神輿の上のビフロンスが、掲げた右腕を下におろすと、万を超える数のアンデッド軍が土埃をあげながら、クニオとコルビーの方へと進行を再開した。
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