第63話 異世界建築家の弟子(その2)

「でね、ここで知り合った大工さんたちには、この後タリヤ島から来る途中に寄った宿場町で、温泉場を作ってもらったらいいんじゃないかと思ってさ、さっき声を掛けておいた。元気な若い労働力が現地にいるから色々教えてやってくれとも頼んでおいたよ」クニオは言う。


「流石は師匠、抜け目がないですね。でもその資金はどうするんですか?」そう聞くコルビーにクニオはポケットからアダマンタイトのカケラを取り出して見せた。

「いや、あんまりたくさん転がっていたんでもう一つ拝借しておいたんだ」そう言ってクニオは頭を掻いた。


「…バレていたらもう一度蒸発していたかもしれませんね」コルビーの言葉に二人とも大笑いする。そうしてしばらく笑った後コルビーは真顔に戻るとこう言った。

「しかし、スポンサーも買って出るとなると、その温泉場の設計に関わらない手は無いですね」どうも彼も建築の楽しさを知ってしまったようだ。


「ま、とりあえず次は刀がどうなったか見に行こうか。グレゴリーもコウもアダマンタイトを届けに行ったきり、さっぱり戻ってこないし…途中宿場町に寄って、若者たちには大工さんの件も話していこう。あ、ギューズとマーズへも、刑期を終えたら北に行けば魔物がいるって伝言をお願いしとかないとね」そういうクニオに

「多分コウさんとグレゴリーさんはタリヤ島で飲んだくれているんでしょうね。私も早く成体になってみなさんと一緒に飲んだくれたいです」そういってコルビーは、まるで10歳児の様な笑顔を浮かべた。


 実はエンシェントアニマが言っていた、コルビーが大昔に言ったという言葉には、表現は違うがクニオには聞き覚えがあった。それは前世でのクニオの師匠にあたる建築家の思想だった。コルビーは異世界建築士である自分の弟子かもしれないが、自分はここから見ればまた異世界建築家の弟子だったんだなと思うと、クニオは笑ってしまった。コルビーには転生前…転生ではなく前世の記憶だが…は一切戻っていない様なので、まだ内緒にしておくことにした。

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