異世界建築家の弟子

第62話 異世界建築家の弟子(その1)

 アダマンタイトを入手してからは早かった。領主に報告をし、刀強化の許可をもらってグレゴリーとコウには、先にタリヤ島のサダヒデの工房までアダマンタイトの欠片を届けてもらった。


 キートの街に残ったクニオは、コルビーを指導しながら物見やぐらの実施図面を一緒に描いた。図面が完成したところで、必要な材料の寸法と本数を割り出して領主に用意してもらった。


 このあたりは魔法を使えばもっと早かったのかもしれないが、設計から工事に至るまでの手順は、コルビーに一度経験してもらった方がいいと思ってそうした。


 一番最初に物見やぐらの中心部地中にアダマンタイトを埋めて、柱は何節かに分けて上に伸ばすことにした。一節ごとに支えとなる結界をコルビーの魔力で展開し直した。こうすることで、仮に工事中に地震が起きても被害を回避できるからだ。


 キートの大工さんのレベルは高くて、きちんと図示して加工形状を伝えれば完璧にその通りのものを作り上げてくれた。いや、形の持つ構造的な意味を伝えれば、材料の向きや使う方向に対しては逆にアドバイスをもらえるほどであった。そうして数週間のうちに物見やぐらは完成した。


 検査を兼ねてクニオとコルビーは、やぐらの最上部の見晴らし台まで登り、そこに二人で並んでまわりの風景を見ていた。


「どうだいコル?自分が携わった建築が完成した感想は」クニオは聞く。

「確かに私と師匠、そうしてたくさんの方の協力でこの物見やぐらという『建築物』は完成しました。でも、本当に出来上がったのは『建築物』ではなくて、ここから街を眺めるという体験ですね。それは人々の暮らしを守るという事でもある。そうして私自身はみんなで一つの物を一緒に作り上げるという経験ができました」そう言いながらコルビーは気持ちよさそうに風の中、眼下に広がる街並みを見ている。


「ここの大工さんはみんな凄いよね。トラスを構成する斜め材の考え方なんかはもう自分のものにしていると思う。多分どんどん応用していくんじゃないかな」クニオが言った。


「建築と聞けば『モノ』だと思ってましたが、体験や経験を与えたりもらったり共有する行為、そう『コト』だったんですね。そうして『コト』には根が生えているわけではないから広がっていくし終わりもない」


 そう言葉にして、コルビーにはこれからの生き方が見えたような気がしていた。同じ終わりのない事でも、魔王対勇者の戦いとは随分違う。

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