第61話 洞窟にて(その6)
コルビーは急に明かされたこの世界の真実にはもちろん困惑していた。しかし世界の成り立ちという大きな話では無くて、目の前にある今一番知りたいと思っていることを聞いてみる。
「で、魔王軍が人類との戦いをやめて、魔王も勇者と戦わないとして、私はその場合他に何をすればいいんでしょうか?」今まで気の遠くなるような年月を繰り返してきたことを仮にやめられたとして、その後一体自分はどうすればいいのか?
実はクニオに弟子入りしてから、今までの戦いの輪廻からは、抜け出すことができるような予感は薄々感じていた。しかし本当にそれができたとして、自分の存在をどう考えればいいのかが分からないでいた。
「だから建築なんだろう?」フェアリーは答えた。
「建物を作るんですか?」聞き返したコルビーに対して、クニオは後から彼に話そうと思ったことをフェアリーが代わりに答えてくれた。
「建築家は建物を作るんじゃなくて、経験や体験を生み出す装置を作るんだって言ったのは大昔の君じゃなかったかな…よく知らんけど。とにかくここで何を作るのかを楽しみにしてるよ。要するに好きにやればいいって事。じゃあそんな感じでよろしく」そう言ってフェアリーはまた上に上がって行く。
クニオはそれを引き留めて、もっと聞きたい事があるような気もしたが、話が大きすぎてすぐに考えがまとまらなかった。それはコルビーも同じだった。二人が躊躇している間に光の塊は更に上の方に移動し、ある高さまで行ったところで消えてしまった。
フェアリーの光が消え去っても、二人は動けずにその場に立ち尽くしていた。クニオの灯したあかりの魔法だけが、二人の顔と周囲を薄暗く照らしていた。
そこから、来たルートを戻って洞窟の出口にたどり着くまで、二人は終始無言だった。出口付近でアダマンタイトの破片を二つほど拾って、外から差し込む光の方へと進み、洞窟から外へと出た。そこには楽し気にドラゴンと話すコウとグレゴリーの姿があった。
「あの二人も誰かの意識が転生した存在なんですかね?というかこの世界そのものが偽りの存在なんでしょうか?」やっとコルビーが口を開いた。
「私の前世…いや、やはり前世だ。そこに存在していた宗教や物理学の考え方で、世界には実体なんてものはないんじゃないかというのが既にあった。でも実体が無くても存在はしているんだから、実体なんかあっても無くてもどっちでもいいという考え方もあった。更にその両方ともが真理で、実体が無いと理解しながらも存在は楽しめばいいっていうのが、自分にはしっくり来たかな。エンシェントアニマが言った、結局は好きにしたらいいっていうのが真理なのかもしれないね」クニオの話が長かったので、歩いているうちに二人はコウとグレゴリーの所まで来てしまった。
「お、それがアダマンタイトですな」グレゴリーはクニオとコルビーが、その手にひとつずつ持っているカケラを見てそう言った。
「このドラゴン、私なんかより全然歳上で話が面白いんだよ。やっぱり新酒の季節になったら、またここに来て二人も一緒に一杯やろうぜ。あ、コルは飲めないか」コウは上機嫌だった。
「知りたかった答えは聞けたかな?」コルビーはドラゴンにそう尋ねられた。
「自分で探せと言われました」コルビーはアダマンタイトを持ったまま、両腕を上に上げてお手上げのポーズをした。しかしその表情は洞窟の外の天気と同じぐらい晴れやかだった。
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