第55話 野宿にて(その7)
「もう二つ名は温泉開発請負人でも何でもいいよ。近くに川も無さそうだし、源泉かけ流しがいいけど難しいかな…熱い分には冷ませばいいから、深いところを探せばなんとかなるか」そう言ってコウは地面に手を当てて周辺の地下水脈を探り始めた。更に立ち上がってウロウロとしながら、最初に野宿をしていた焚火の方へと戻っていく。
「ん~…」そう言ってコウが足を止めた。
「見つかりましたか?」クニオが聞く。
「水脈じゃないんだけど、地下のかなり深い所に大きな空洞があって水溜りがあるな。地底湖ってやつだ。そこから先は魔力が拡散して探れない。この間行ったズワ湖と一緒だな。でも地中にある事で温度は高くなってるよ」コウが言った。
そこからの温泉を掘りだす手順はもう慣れたものだった。クニオのプランニングとコウの水脈感知、今ではコウの魔力を借りなくてもグレゴリー単独の土魔法の組み合わせで、かなりの深さまで掘削できるようになっていた。
吹き出した温泉はやや温度が高かった。またお湯の近くでは魔法が使えないために、少し離れたところに湯だまりを設けて、お湯が吹き出した場所から溝を掘って繋げる事にした。溝を流れるうちにお湯の温度が下がる効果も期待できる。
状況をごまかすだけのつもりが、4人は露天風呂づくりが楽しくなってしまって、ついつい余計なところまで作りこんでしまった。みんなでアイデアを出し合い、クニオのプランニングでイメージを共有しては、それぞれの魔法や魔力と材料の組み合わせで形にしていく。材料が土や岩石系なので純和風とは行かなかったが、最終的にはなんでこんなものがここにあるんだという、ちょっとひいてしまうぐらいの完成度になった。
最後に溝を開放して湯船に源泉を流し込む。十数人でも入れそうな大きな湯船が一杯になるころには、すっかり夜は明けていた。
気絶した状態で、更に睡眠魔法をかけておいた北の国の冒険者パーティーの3人は、裸にして湯船に座らせた。湯船の中には腰掛けるのに丁度いい段も設けてある。もちろん短期記憶は事前に消してある。探し物は見つからなかったが、代わりに温泉を見つけて入浴中という記憶を付け加えた。服も適当に温泉で洗って岩の上に広げてある。そこはクニオの『早く洗濯物が乾く魔法』が活躍した。火系の魔法は出力の調整が難しいので、生活魔法は結構な使いでがある。
コウは男女の区別などは気にしない性格だったが、一応体には薄布をまいてもらいキュリオシティーズのメンバー全員も裸になって湯船につかった。そうして準備がすべて整ったところでクニオは三人を揺り動かして目覚めさせようとする。
「こんなところで寝てたら溺れますよ」
クニオの声に呼応して魔導士の男がゆっくりと目を開ける。
「…ああ、スイマセン。ちょっと寝てしまったようで…」目覚めた魔導士は、あたりを見回すと他の2人も眠っているのを見て、何の疑いもなく起している。程なく全員が目を覚ましたが、特に何かを疑う風ではない。
「しかし朝から入る露天風呂は最高ですな」そう言ってグレゴリーはガハハと笑った。
「おじさんたちは、こんなところに何しにきたの?」コルビーは子供のふりをして、北の国の冒険者三人に尋ねる。コウは笑いを堪えている。
「おじさんたちはな、北の国から来た冒険者パーティー『アカギツネ』ってもんだ」
そう言ったのは双剣使いの大男だった。そう言ってから他の2人を見て何かを確認する。
「別に隠密ってわけでもないからいいんじゃないか?」僧侶らしき線の細い男が言う。
「このあたりに古代種のドラゴンがいるって噂を聞いて調べに来たんだよ」最後は魔導士の男が答えた。コウの予想は見事に外れていた。アダマンタイトは関係なかった。しかしドラゴンといえば洞窟の前にいるという事だったので、古代種かどうかは別としてあながち不正解とも言えない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます