第53話 野宿にて(その5)
「見えていても二方向から同時に攻撃されれば避けようがないだろう」そう言って男は2本の剣を振り回し始めた。1本でもかなりの重量がありそうに見えるが、物凄い腕力だ。グレゴリーはスキルの先見で、相手の攻撃軌道を事前に察知できるが、同時に別方向から来る二つの攻撃をかわすのは難しい。男の攻撃に1本の剣は避けて、もう一本は身体強化した腕で受け止めた。
「ほうこの攻撃も受けるか…しかし剣の攻撃力を強化したらどうなるかな?」大男は一旦剣を引くと、両方の剣に向かってまどろみの魔法に重ねて強化魔法をかけた。2本の剣は光り始める。グレゴリーの腕の光もあいまって、辺りは明るくなっている。
一方、魔導士と僧侶の二人は何やら騒いでいる。
「先ほど感知した魔族と全く魔力を持たない村人はいるが、もう1人の人質らしき少女の姿が見えない」横で聞いていて、グレゴリーが村人扱いされているクニオに吹き出しそうになったその時
「時間稼ぎご苦労さん」上空にコウの姿が照らし出された。
「逃げられても面倒ですからな、少々勝てそう感を演出しておりました。というか…」グレゴリーが説明する前に大男の剣が左右両方からグレゴリーを襲う。グレゴリーは左右の手を横に向けて、男の剣を両方とも同時に指で握って止めて見せた。剣の動きは止まったが、その風圧でコルビーから借りて羽織っていたローブの裾は翼のように舞い上がる。強化した両手が放つまばゆいまでの光に照らされたその巨体は、まるで魔王の様にも見えた。
「硬化させるだけが身体強化ではないですぞ」そう言ってグレゴリーはニヤリと笑う。
その上空でコウは地表に向かって両手をかざした。すると大男と他の二人の足元で地面は波打ち、一瞬のうちに三人の足は地面に沈んだ。深い水溜りを間違って踏んでしまったかのようだ。そうして更に体は徐々に沈んでいく。
「あ、魔法を詠唱できないように頭のまわりの空気は薄くしておこう」そう言ってコウが右手の人差し指をくるりとまわすと、三人の頭は逆さまの金魚鉢の様な空気のボールに包まれた。周辺とは気圧が違うのか、三人の顔面には血管が浮き出ている。そうして足をとられて身動きのできない下半身は地面に更に沈んでいく。しばらくすると三人は地表には胸から上だけが出ている状態になった。コウが左腕を水平に振ると、そこでやっと三人の沈下は納まった。
「体に触れている土の密度をとんでもなく上げてから沈めたんで逃げられなかったろう、沈下用に柔らかくした部分も固めたんでもう身動きはとれないよ」そう言ったコウの言葉に三人は反応しなかった。気絶している。
「あれ空気抜きすぎちゃったかな?」コウは舌を出してテヘッとかわいく笑った。
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