第52話 野宿にて(その4)
「師匠はアマリアの盾を拡張して、その影に隠れていてください」コルビーがそう言った次の瞬間また光の矢が飛んできた。今度はグレゴリーに向かってだ。しかしグレゴリーは体をひょいと横に動かして難なくかわす。
「しかしこの距離だと先見のスキルのある拙僧には当たらないでしょうな」そう言ってグレゴリーはガハハと笑った。
「この暗闇の中で、これだけ正確に狙えるという事は、あの僧侶の感知スキルもなかなかのもんだね」コウはいつの間にか起きてクニオの横に立っていた。敵がいるであろう方向を見ている。彼女には僧侶が見えているのだろうか?
「コウにも見えてるの?」
「まぁ風水師だからね。光が無くても温度や空気、地面の振動なんかで誰が何をしているかは丸わかりだよ」4人の中で何も見えないし、攻撃されていることも分からないのは自分だけかと、改めてその力の差にクニオは愕然とした。
「いえ、師匠もゾーニングで見えるはずです」コルビーに言われてはっとした。クニオのゾーニングはここに来るまでに洗練され、先だってのユキヒラとの一件でも空間と共に相対した敵との間合いを正確に感じ取ることができた。ならば後は距離だけの問題だ。クニオはコウやコルビーの視線の向く方向に集中した。
「分かった!」クニオが叫ぶ。
「ではその位置情報と拙僧の身体強化の俊足で、敵のところまで到達するプランをお願いします。なにせ私には敵の姿は見えていない」そう言われてクニオはグレゴリーにプランニングのイメージを伝える。
「しかと承知した」そう言い残して、グレゴリーは物凄いスピードで敵の元へとかけていく。数秒後には敵の元へと到着した。
身体強化スキルで光るグレゴリーの拳に照らされて、三人の姿が浮かび上がった。先ほどから魔法攻撃を仕掛けている魔導士、その後ろには僧侶らしき細身の男がいて、魔導士の背中に手を当てている。多分感知スキルでキュリオシティーズの位置を特定し共有しているのだろう。そうして最後の一人はグレゴリーに負けないほどの体格をした大男だ。背中に二本の剣を背負って他の二人の横に立っている。
「こいつは俺が相手をしておくから攻撃を続けろ」大男はそう言うなりグレゴリーの方へ歩み寄り、背中の剣を1本抜いて両腕で構えた。
「お前近くで見たら人間だな。なぜ魔族に協力しているんだ。人質をとられているなら我々に任せればいい。とりあえず少し眠っていてもらうぞ」そう言ったと同時に振り被ってグレゴリーに切りかかる。グレゴリーは身体強化した左腕でその剣を受け止めた。
「ほう、まどろみの魔法をかけた剣ですか、Sクラスとやり合うのは久々ですな」何かとてつもない勘違いをされているような気もするが、相手は強そうだし面白そうだったので、そのまま空いていた右腕で反撃を繰り出すことにした。それを大男は剣を握る両腕を動かして受ける。素手による攻撃とは思えないような低い轟音があたりに轟く。
「なかなかの身体強化だな」大男はニヤリと笑って、また剣で切りつけてきた。グレゴリーは今度は受けることなく体を動かしてそれをかわす。かわされた剣は振り切ることなくすぐさま軌道を変えて、またグレゴリーに襲い掛かった。腕力のなせる技だろう。しかしそれもグレゴリーの体捌きの前に空を切る。
「…てめぇ見えてんな」そう言ってから男は剣を右腕一本で持ち直すと、空いた左腕で背中からもう一本の剣も抜いてまどろみの魔法をかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます