◆イルミネーション◆

「はい!?」

私は耳を疑った。


クリスマスを2日後に控えたある日の夜。

蓮さんのマンションで夕食を食べお腹がいっぱいで眠気に襲われかけていた私は、突然放たれた蓮さんの言葉に正直耳を疑ってしまった。

……てか、今のは私の聞き間違いだと思う。

……うん、そうに違いない。

そう思ったからこそ

「……今、なんて言ったの?」

私は聞き直したのに

「だから、出掛けるって言ってんだ。なんだ?寝ぼけてるのか?」

蓮さんは、きっぱりとさっきと同じ言葉を口にした。

「は!?」

「あ?」

「今から?」

「あぁ」

「こんな時間に?」

「こんなってまだ20時だ」

「外、真っ暗だよ」

「夜だからな」

「だよね!?」

「は?」

「この時期、昼間でもびっくりするほど寒いのに、夜だともっと寒いよね!?」

「……」

「ちなみにどこに行くの?……てか、それって絶対今日行かないといけないの!?」

矢継ぎ早な私の質問に蓮さんは困ったような表情を浮かべた。

「別に絶対って訳じゃねぇし」

「……」

「それほど重要な用事って訳でもねぇ」

「……じゃあなんで?」

「ん?」

「なんで出掛けるの?」

「……イルミネーション……」

「はい?」

「今、イルミネーションがすげぇ、キレイらしい」

「イルミネーション?」

「あぁ」

「それってクリスマスのイルミネーション?」

「あぁ」

「メインストリートの?」

「あぁ」

頷く蓮さんを見て私は

「……なるほど」

納得した。


確かに蓮さんが言う通りこの繁華街にはこの時期クリスマスのイルミネーションが施される。

メインストリートにある街路樹はクリスマスツリーに変身し、電柱や看板もクリスマスカラーの電飾に彩られいつにも増して華やかになる。

しかも、毎年テーマみたいなものがあるらしく、その年によってイルミネーションが醸し出す雰囲気は異なっていたりする。

この繁華街のイルミネーションは地元の人達にはもちろん近隣の県でも有名で遠方からもわざわざ足を運ぶ人達がいる程だったりするらしい。


……そう言えば昨年のクリスマスはあのゲームセンターの前で1人でイルミネーションを眺めてたっけ……。


寒さの所為で手足がかじかみ、感覚も無くなりながら

……なんでこんなに寒いのにわざわざ外に出るんだろう?

イルミネーションが放つ光りに照らされて幸せそうな表情を浮かべる人達を眺めながら私は首を傾げていたっけ……。

それに比べて今年はこんなに暖かい部屋で、しかも1人じゃないし……。


「美桜?」

「え?」

「どうした?」

「なにが?」

「なんかニヤけてんぞ?」

「えっ!? 私、ニヤけてた?」

「あぁ」

「……ヤバッ!!」

私は急いで顔を両手で覆った。


「美桜?」

「ち……違うの!!」

「違う?なにが?」

「ちょっと昨年までのクリスマスの事を思い出していただけで」

「……別に変なこととか考えてないから!!」

「……」


……あれ?

なんで蓮さんは無言なんだろう?

不思議に思い指の隙間から蓮さんの様子を窺ってみると


……えっ!?

なんで、笑ってんの!?

そう、蓮さんは笑っていた。

しかも普通に笑ってるんじゃなくてか声を押し殺し肩を震わせている。


……これは蓮さんの爆笑モードだ。

なんで?

どうしてこのタイミングで爆笑モードなの?

全く状況が読めない私は


「れ……蓮さん?」

オロオロと声を掛けることしかできなかった。


一頻り爆笑した蓮さんが漸く声を発したのは、私が爆笑モードだと気付いてから軽く5分以上経ってからだった。

十分に爆笑したらしい蓮さんの目尻にはうっすらと涙が溜まっている。


……一体、なにがそんなに面白かったのかと頭を捻ってみてもその原因は分からず、私はただひたすら首を傾げるしかなかった。


「……美桜」

蓮さんが目尻に浮かぶ涙を拭いながら私の名前を呼ぶ。

「え?なに?」

「誰もお前が変な事を考えているなんて思ってねぇーよ」

「え?そうなの?」

「あぁ。でも……」

「……?」

「そんなに全力で否定されたら」

「されたら?」

「実は変な事を考えてニヤけてたのかもって思うかもな」

「……!?」

……もしかして、私、自爆しちゃったの!?

「……まっ、冗談だけどな」

「は?冗談なの!?」

「だって、お前は嘘なんてついてねぇーし」

「……?」

「敬語になってなかっただろ?もし、お前が変な事を考えていたとしたら

『変な事なんて考えていません!!』って、絶叫したはずだしな」

小さな笑いと共に紡がれる蓮さんの言葉に私は絶句し、それと同時に私以上に私という人間を理解している蓮さんに驚きを隠せなかった。


だからなのかもしれない。

他人と一緒にいる事が苦手な私が蓮さんと一緒にいる事は全然苦痛じゃない。

もしかしたら、それは蓮さんが私の事をとても深く理解してくれているからなのかもしれない。


そう考えるとなんだか心がくすぐったいような……それでいてふんわりと温かくなるような不思議な感覚に包まれた。

その時、不意に腕を掴まれた私は次の瞬間には蓮さんの膝の上に座っていた。


「今日はニヤける日なのか?」

「……もしかして、またニヤけてた?」

「……」

蓮さんは肯定も否定もしなかった。


だけど、笑いを抑えているその表情に私はガックリと肩を落とした。


◆◆◆◆◆


「行こうぜ」

「行かないってば」

さっきから蓮さんと私は幾度となくこの言葉をロにしている。どうしてもイルミネーションを見に行きたいらしい蓮さんと100%寒いはずの外になんて出たくない私の意見はずっと平行線を辿っている。


「ちょっとだけでいいから」

「無理!!」

「なんで?」

「寒いから」

「寒いのなんて服をたくさん着てれば大丈夫だろ?」

……ダメだ。

蓮さんは私のことは理解してくれているけど、寒さの恐怖は全く分かっていない。


寒いと動きまで鈍くなるのに……

動きが鈍くなるとコケる確率も高くなるのに……

てか、どんなに服を着込んでいても

マフラーを巻いて

モコモコ靴下を履いてその上にムートンブーツを履いたとしても手足の指先からジンジンと襲って来る冷えには太刀打ちできないのに……。

寒さに強い蓮さんにはその恐怖が分からないらしい。


「行こうぜ」

「行かない」

いつまでも終わることのない押し問答。


……何か良い言い訳が無いかな……。

そんなことを考えていると


「じゃあ、ジャンケンで決めようぜ」

蓮さんが不敵な笑みを浮かべて提案した。

「ジャンケン?」

「いつまでもここでこうしていても埓があかないだろ?さっさとジャンケンで決着をつけようぜ」


……確かに……。

ジャンケンで勝てば行かなくていいんだ。

そう思った私は

「分かった」

頷いた。


「よし、最初はグー。ジャンケン」

「ポイ!!」

気合満点で私が出したのはグーで

蓮さんが出したのはパー。


「イヤ~!!」

頭を抱えて絶叫する私の横で蓮さんは小さくガッツポーズをした。


◆◆◆◆◆


結局、ジャンケンで負けた私は得意気な蓮さんに急かされて着替えをする羽目になった。

着替えながら、いつもは家でごはんを食べる時は、先にお風呂に入る蓮さんが今日お風呂に入らなかったことを思い出し

出掛けるから湯冷めしないためだったことに漸く気付いた私は、こんなことになるならさっさとお風呂に入っておくべきだったと心底後悔をしたりもした。


ジーンズの下に裏起毛のレギンスを履き靴下はもちろん2枚重ね。

トップスはダボっとしたパーカーを選び、こちらも下に裏起毛のカットソーとハイネックの薄手のセーターを着込む。

最後にダウンジャケットを羽織って完成。

いつもに比べると二回りぐらい横に大きく見えるような気がしないでもないけど……

そこは仕方がないと瞬時に諦め女子力の低下から目を逸らした。


着替えを終えリビングに戻った私を見て、蓮さんは一瞬目をまるくしたけど

「それも可愛いじゃん」

と、言ってくれた。


だけど、また爆笑していたからこの言葉も社交辞令に違いないと思う。


普段、出掛ける時と殆ど変わらない格好の蓮さんに

「そんなに薄着だったら凍死するよ」

って、教えてあげたのに

「凍死する程寒くねぇーよ」

って、また笑われた。

やっぱり蓮さんは寒さの恐怖を分かっていないらしい。


しかも

「寒くて死にそうな時にはお前がいるし」

って、私を見るので

「私の服は貸せないから!!」

そう断言したら

「誰もお前の服を貸りようなんて思ってねぇーよ。第一、サイズが違い過ぎて着れねぇーだろーが」

って、呆れ果てたように言われて、そう言われてみれば確かにそうだと妙に納得してしまった。


……じゃあ、蓮さんは私に一体なにを求めているんだろう?

一応、確認の為に聞いておこうかと思ったけど

「行くぞ」

蓮さんの声に


……まぁ、いいか。

私は、早々に諦めた。


◆◆◆◆◆


マンションのエントランスを抜け外に出た瞬間

「さむっ!!」

私のロからその言葉が飛び出した。


冷えきった空気が肌を突き刺し、どんどん体温が奪われていくような気がする。

小さく身震いをした私は隣にいる蓮さんにピッタリとくっついた。

そんな私に気付いたらしい蓮さんは、腕を私の首の後ろにまわし肩を抱くと私の身体をぐいっと抱き寄せた。

奪われ続けていた体温が蓮さんの体温でゆっくりと上昇していくような気がして

「……あたたかい」

思わず呟くと

「どっちだよ」

苦笑まじりの声が頭上から降ってくる。

確かにそうだと思い私も笑ってしまった。


繁華街のど真ん中にある蓮さんのマンション。

エントランスを一歩外に出れば目の前に広がるのはイルミネーションで彩られた光の世界だった。

この頃は寒いという理由で必要最低限にしか外に出ていなかった私がこのイルミネーションを見るのは初めての事だったりする。

昨年までのカラフルなイルミネーションとは違い今年は白い光が数多く目に付く。


『ねぇ、美桜。今年のイルミネーションのテーマ知ってる?』

数週間前に尋ねられ麗奈の言葉がふと頭を過ぎった。

『さぁ?知らない』

『“聖夜に降る雪”なんだって』

『聖夜に降る雪?』

『うん』

ニコニコと楽しそうに笑う麗奈の顔を見ながら私は首を傾げた。

カラフルなイルミネーションと白い雪。

私の中でその2つがどうしても結び付かなかった。


だけど今なら

「……だから白なんだ……」

素直に納得できる。


街路樹にも電柱にも看板にも……

至る所に施された白い電飾は、まるで辺りを覆い尽くすように降り積もる雪のようだった。


イルミネーションに全く興味が無かった筈の私も外に出て数分後にはその白く輝く世界に夢中で視線を彷徨わせていた。


10分程歩いた所で

「ちょっと休憩していこうぜ」

蓮さんが足を止めた。

その声に現実に引き戻された私は

「休憩?」

蓮さんの顔を見上げた。

「身体が冷えただろ?なんか温かい飲み物でも……」

「まだ見たい」

「ん?」

「イルミネーション」

自分でも子どもみたいだと思った。

あんなに外に行きたくないと駄々をこねたにも関わらず、こんなことを言って……。

だけど、そんな事を気にするよりも、ただ素直にもっとこの光の世界を見ていたいと思った。


「心配しなくても、あそこからならちゃんと見える」

「え?」

蓮さんが指差したのは駅前にあるカフェだった。

私も何度か訪れたことのあるこのカフェは駅側に面した壁一面がガラス貼りになっていて駅前の広場が一望できる造りになっている。


「イルミネーションのメインは駅前の広場だ」

蓮さんのその一言に私がカフェに行くことを速攻で了承したのはいうまでもない。


◆◆◆◆◆


店員さんに案内され、いつもと同じ席に座る。

外とは全然違う体感温度に全身から力が抜けていく。

イルミネーションに夢中になっていて気付かなかったけど外はかなり寒く私の身体は芯から冷え切っていたらしい。

……ということに暖かい店内に入って改めて気付かされた。


注文したホットココアのカップで指先を温めながらも、私の視線の先にあるのはやっぱり窓から見えるイルミネーションだった。


駅前の広場は、流石にメイン会場なだけあってメインストリートの何倍もの光で溢れていた。

キラキラと輝くその光はどれだけ眺めていても飽きることはなく、私は時間が過ぎるのも忘れていた。

「美桜」

「なに?」

「そんなに気に入ったか?」

「うん」

「そうか」

蓮さんの満足そうな声にふと視線を移すとやっぱり声と同様に満足そうな表情があった。

テーブルの上にある灰皿の上には数本の吸い殻が入っている。


……あれ?

いつの間にこんなに吸ったんだろ?

灰皿の中にある吸い殻は蓮さんが吸っている銘柄のもの。

……そう言えば、手の中にあるカップもぬるくなっているような……。


恐る恐る店内にある時計に視線を移してみると

「……!?」

……ここに来て1時間近くが経っていた。

「美桜、どうした?」

「ごめんなさい!!」

「は? なにが?」

「私ったらイルミネーションに夢中になりすぎて蓮さんの存在をすっかり忘れて……」

「へぇ~、俺は忘れられていたのか」

「え!? いや……そうじゃなくて……いや……そうなんだけど……でも……違うくて……」

オロオロと言い訳にもならない言葉を並べていると

「別にいい」

蓮さんは苦笑気味に言った。


「蓮さん?」

「イルミネーションを見に行こうって言ったのは俺だ。時間を忘れるくらい夢中になって貰えるなら本望だ」

蓮さんの言葉に私はホッと胸を撫で下ろした。

それから蓮さんはぬるくなった私のココアと自分のおかわり分のコーヒーを注文してくれた。

新たに持って来て貰ったココアを飲みながら私はふと浮かんだ疑問を口にした。


「ねぇ、蓮さん」

「うん?」

「繁華街のイルミネーションって毎年テーマがあるんでしょ?」

「あぁ」

「それって誰が考えるんだろうね?」

「繁華街の自治会が決めるんだ」

「自治会?」

「まぁ、簡単に言えばこの繁華街に店や土地を持っている奴らで作られたグループみたいなもんだ」

「へぇ~、その人逹が決めるんだ」

「あぁ」

「今年のテーマは“聖夜に降る雪”なんだって」

「……」

「なんかすっごいロマンチックだよね」

「……」

「一体どんな人が考えたんだろうね?」

「……」

「あれ? 蓮さん? なんか顔が赤いけど大丈夫?」

「……大丈夫だ」

「そう? それならいいんだけど。……てか、蓮さんは知らないの?」

「あ?」

「今年のテーマを考えた人。 どんな人が考えたんだろう? 女の人かな?」

「……俺」

「え? なに?」

「だから今年のテーマを考えたのは俺だ」

「はぁ!?」

「……んだよ?」

「蓮さんが?」

「あぁ」

「今年のテーマを」

「あぁ」

「考えたの!?」

「あぁ」

「……」

「……」

「マジで!?」

「……マジで」

驚きのあまり開いた口が塞がらない私と居心地の悪そうな表情で私から視線を逸らす蓮さん。


「な……なんで、蓮さんが自治会!?」

「親父が役員なんだよ」

「お父さんが?」

「ウチも、昔から繁華街を縄張りにしているし、商売も数多く手掛けていて土地も持っているから自治会に参加するのは別に不思議なことでもねぇ」

「そ……そうなんだ」

「あぁ、いつもなら親父が話し合いには出るんだけどその日はたまたま別件で外せない用事があって」

「う……うん」

「代わりに俺が出た」

「う……うん」

「テーマなんてさっさと案を出して決めればいいのに、案すら出ねぇ。こっちは次の仕事があるから時間がねぇーのに」

「う……うん」

「1時間待ったけど何も出ねぇから俺が案を出した」

「う……うん」

「そしたら、それに決まったってだけの話だ」

「そうなんだ」

「あぁ」

「じゃあさ、なんで蓮さんはそのテーマにしたの?」

「……」

「……?」

「……お前が積もった雪を見た事が無いって言ってただろ」

「え!? 私?」

「あぁ」

「……」


……そう言えば、いつだったかそんな話をしたような気がする。

「本当は今年中に雪を見に旅行に連れて行きたかったんだけど、時間が取れなくて」

「うん」

「だから本物の雪は年が明けてから見に行こうな」

「うん!!」


寒い冬の夜。

キラキラと輝くイルミネーションは神秘的な美しさと優しさに溢れ見る人の心を温めていた。

もし、今日聞かなければ蓮さんのイルミネーションに託した思い遣りに気付くことはなかった。

控えめ過ぎで分かりづらい蓮さんの優しい想いは私をふんわりと優しく温める。


……ここは人が多くて恥ずかしいから……。

帰ったらお礼のキスでもしようかな……。

密かに企む私の顔はまたニヤけつつあった。


◆おまけ◆


家に帰った私は、すっかり冷え切った身体を蓮さんと一緒に入ったお風呂で温めた。


2人で入ってもまだ余裕のある大きなバスタブに浸かりながら

「……綺麗だったね」

「そうか?」

「うん」

「気に入ったか?」

「うん。とっても」

「そうか。」

話題はさっき見たばかりのイルミネーション。

大満足の私とそんな私を満足そうに見つめる蓮さん。


「蓮さん」

「うん?」

「……ありがとう」

小さく呟いて、私は蓮さんの唇を塞いだ。


お礼のキスは触れるだけのもの。

だけど、唇を離すと

「……」

そこには驚いたように目を丸くして固まる蓮さんが私を見つめていた。


微かに赤く染まった耳は、お風呂で温まった所為か……。

それとも……。


「蓮さん、耳が赤いよ」

「……うるせぇ」

ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、大きな手が私に伸びてきて

ゆっくりと背中へとまわされる。

そして、私は優しく抱きしめられた。


「喜んでもらえてよかった」

蓮さんの安心したような声が耳に響く。


「……でもさ」

「うん?」

「もし私が聞かなかったら、蓮さんは自分がテーマを考えたってことを言わなかったでしょ?」

「だろうな」

「なんで?」

「うん?」

「私が気付かなかったとして……それでもよかったの?」

「あぁ」

「なんで?」

首を傾げて見上げると、蓮さんは少しだけ困ったような表情を浮かべた。


「……ただ、お前の喜ぶ顔を見たかっただけだから」

……うん。

そうだ。

蓮さんはこういう人だ。

さりげない気遣いができる人。


大きな見返りを求めず、当然ともいえる小さなことでも純粋に喜べる人。


そんな蓮さんを私は尊敬すると共に愛おしく思う。

その想いを少しでも伝えたかったけど

上手く言葉を見つけることができず

私は手に力を込めて

蓮さんの身体を抱きしめた。


顔を蓮さんの胸に埋め摺り寄せると

頭上から小さな笑い声が降ってくる。


「……すごく嬉しかった」

「そんなに喜んでもらった上に、こんな褒美までもらえるなら、俺もあのつまらねぇ会議に出た甲斐があったな」


蓮さんの言葉に私も笑いを零した。


今年の繁華街のイルミネーションの設置には、お父さんからの寄付金の他に蓮さんの名前で多額の寄付金があったらしく

実行委員のおじさん達は例年よりも盛大なイルミネーションが設置できると大喜びをしたらしい。


いつもより、盛大なイルミネーションの噂はクチコミで広がり

テレビの取材が何件もあったらしい。

その効果もあり、繁華街のイルミネーションを見に訪れた人は史上最高記録となったらしい。


蓮さんのあたたかい思い遣りと多額の出費は多くの人の心を温めるささやかなプレゼントとなった。


その事実を私が知るのはずっと先のことだった。


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深愛3 Forever Love 桜蓮 @ouren-ouren

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