4.意味のない計画
対策チームではロボトミー計画が持ち上がった。
きっかけはカルト宗教の一件だった。
意思統一によってイーレムブートの生成物が強大になるなら、『イーレムブートは存在しない』という発想を持ってして、この禍を消し去れるのではないか。
私たちはそう考えたが、これはかなり揉めた。
初期構想は非人道的でコストも高く、現実的とは言えなかったからだ。
まずイーレムブート初期症状者にある種の洗脳を行い、発症させることが必要だ。
なおかつ影響を広範囲、理想的には全人類に到達させるためには犠牲者が多いことも問題だった。
そもそも莫大な人数の洗脳をどうするのかというリソースの問題、そしてチーム内でも犠牲を許容出来ないグループからの猛反対もあった。
また発症を防ぐ目的で薬物が蔓延していることも障壁となった。
今や街を出れば、中毒者だらけだ。
そんな中でどう”適切な生贄”を集めきれるのか。
行き詰まっていた。
何も話が決まらないまま、日々被害報告とその後処理をしていた。
仕事が終われば、中毒者が倒れている街路を行き、家へ帰った。
できるだけ目立たず、人と目を合わせず、腰の銃に手を掛けたまま。
数ヶ月だったか、一年だったかはそんな生活だった。
正直、時間の感覚が無い。
この頃になると同僚の埋葬をすることも増えていった。
葬儀屋なんてもうやっていないし、行政からの処理人員もいない。
誰かが適当な広場に作った遺体置き場に、かつての仕事仲間を運んだ。
頭が割れた同期を死体袋に詰め、イーレムブートの生成物に殺された上司を穴に埋めた。
自殺をした者もいた。
遺体処理は誰もやりたがらない。
手伝ってくれる者もたまにはいたが、基本的には私が行った。
それで何か役に立っているように感じた。
イーレムブートに対して何も出来ていない事実を少しの間だけ忘れられた。
チームから抜ける者もいた。
『家族と過ごしたい』『地元に帰りたい』というのが主な理由だ。
私にはそういうのは無かったから、チームに留まり、去る者を見届けた。
彼らが未練を残さないように『よくやってくれた』と声をかけ、『こっちは大丈夫だから』と嘘を言った。
様々な理由で対策チームから人が居なくなり、ついに私を含めメンバーは三人となった。
だが他の二人はやがて職場に来なくなった。
住所は知っていたが、様子を見には行けなかった。
死者数が世界人口の80%に達したことを伝える声が、ラジオから聞こえたのを覚えている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます