第47話 花の魔女、手紙を送る

 草原の集落に行ってから半年ほど過ぎた頃、久々に王都から元草原の国と草原の集落、サウザリア国境付近の調査隊が出ると聞いた。

 今回はアイセル君は行きたいと言わなかった。まだいろいろ拗らせていて、疑われるようなことはしないという強い意志がひしひしと感じられる。まあ私も素直にいってらっしゃいとは言いがたいながらも、行きたいと望むなら反対はしないくらいの気持ちはになっていたけど…。

 それとは別にちょっと気になることがあって、文章を書くのは得意じゃないんだけど、草原の花の魔女に宛てて手紙を書いた。


 草原の花のま女サマへ


 お元気ですか。私わ元気です。

 草原の集らくのみなさんわ元気ですか。

 草原の集らくからフロレンシアに戻ってきたミアさんのところにあかちゃんが生まれました。男の子です。花のま女でわなかったけれど、元気に育ってます。かわいいです。

 草原のま女サマにありがとと言っていました。

 私わちょーさたいの人が帰ってこなかった時わ悲しかったけど、幸せになった人もいてよかったと思いました。

 花のま女が生まれていたら、元気になかよくおっきくなってほしいです。

 おおサマのちょーさたいの人がきたら、子どもたちわちょーさたいの人の前で花お食べないようにしてください。おおサマわ花のま女がほしいです。花のま女お、おおサマが連れて行くのわいけないと思います。

 お守りの石お入れます。

 花のかごがありますように。


       フィオーレ


 フロレンシアから参加する騎士隊のパウロさんに、草原の花の魔女に会うことがあれば手紙を渡してもらえるようお願いした。手紙の中に花の魔法で作った加護の石を五つほど入れ、パウロさんにお願い用の賄賂として一つ渡すと、喜んで

「フィアの頼みだ。まかせとけ!」

と言ってくれた。

 草原の魔女の名前さえ聞いてなかった。宛名も不確かな失礼な手紙だったけど、調査隊が戻ってくると、返事を持って帰ってくれた。



 親愛なる我が花の魔女 フィオーレ様


 お手紙拝領致しました。ご助言いただきありがとうございます。

 今、草原の集落では花の魔女と思わしき子供が三人ほどおります。生まれ月はまちまちですが、花の魔女様を悲しませたせいでしょうか、祭で授かった者はいないようです。力のほどはまだ未知数ながら、花で遊びながら、花を食べ、小さな魔法を放ちます。花の魔女様のご助言通り、花の魔女もそうでない者も皆分け隔てなく同じように育てています。どの子もかわいく、我が子のようです。

 調査隊がいる間は子供達から花を遠ざけ、戯れにも口にすることがないようにしました。おかげで花の魔女と悟られることなく、子供達に関心を持つ者はいませんでした。今後も気を配り、全ての子供達を守る所存です。


 花の加護の石を頂戴し、感謝しております。

 集落の周辺に異変があると、この石が光って知らせてくれます。男性も多く集落に住むようになり、自衛団を組織しました。魔法を使える者は多くありませんが、今のところ平穏に暮らしています。石を使うようなことがないことを祈る毎日ですが、この石があることを心強く思っています。お心遣いに感謝します。


 お越しいただいた時に名乗るのを忘れていました。

 私の名はアマリアと申します。養護院にいた時、私は十一歳で、あなた様は三、四歳くらいに見えました。あの頃のあなた様は誰の名前も言えず、用があるときはスカートをつかんで引っ張っていたことを思い出しました。幼いのに川に入って素手で魚を捕ったり、誰も見つけられない珍しいきのこを取ってきたり、そういえば花を口にしていたこともありました。魔法は使っていなかったので、花の蜜を吸っているのだと思っていましたが、今思えば花の魔女の片鱗を見せていたのかもしれません。

 私は今二十六になりますので、あなた様は今、十八、九歳位のお年になるのではないでしょうか。その位の年齢で生き残れた者は多くないようです。残念ながらあなた様に関わることを知る者には会えていません。ですがあなた様は確かに草原の民であり、我らが誇る花の魔女様です。

 機会がありましたら、是非我らが集落へお越しください。共に住むことまでは求めません。軽く、里帰りの気持ちでお立ち寄りいただけると、集落の者も喜びます。

 今のお暮らしが心安らかであることを願いつつ。


   敬愛を込めて

      アマリア



 花の加護の石が光るというのは聞いたことがない。魔法攻撃を一度だけ防げる物なんだけど…。草原の国が近いから、私の知らない新たなパワーを得ているのかも知れない。お役に立てているならいいかな。


 その後も、調査隊が出る時には手紙をやりとりし、簡単な近況を伝え合った。

 アイセル君は草原の花の魔女と私がつながることには少しわだかまりがありながらも、黙認してくれていた。

 そっちは黙認してくれたんだけど、パウロさんにお願い事をするのはあまりいい顔をしなかった。アイセル君も知ってる人なのに。変なの。

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