第29話 花の魔女、白狼に連れ去られる
治癒だけで帰るつもりだったんだけど、どうも状況がよくなさそう。何か手伝えることがあるかもしれない。討伐隊に紛れて、様子を見に要塞の砦に向かった。
向かう途中、下っ端騎士達に聞いた話によると、いつもなら砦まで来た魔物を討伐し、守りを重視しているのに、やって来た三匹のうち一匹を倒せたことで残り二匹も倒さねばならん、と森の中に逃げた魔物を深追いしてしまったらしい。
森は魔物のテリトリーだ。
魔法を使える騎士が多いとは言え、魔法自体必ずしも遠距離の技が放てるとは限らない。大弓も大砲もすばしっこい魔物には効かず、一旦要塞に戻り、仕切り直そうとしたら、二匹が砦まで登って来て、補給もそこそこに戦うしかない状況に陥ってしまった。閣下は砦での魔物退治に慣れていないのかもしれない。
砦に着いた時には、ようやく二匹目の討伐が終わったところだった。
閣下も討伐隊のみんなもかなり疲弊しているけど、まだもう一匹砦の上にいる。このまま放置はできない。
白い狼の魔物は、大柄な閣下より更に二回りほど大きい。ずいぶん怒らせていて、魔力が瘴気になって背後から炎のように湧き立っているのが見える。仲間二匹をやられたんだから当然だ。
閣下自身もかなり剣が使え、魔法も確かそうだけど、何分長期戦になっていて、みんな疲れてる。
「閣下、後援が来ました。一旦下がってお休みください」
「休憩はあいつを倒してからだ」
部下の進言を退けるけど、男気で魔物は倒せないよ?
指揮官自ら動く姿勢は嫌いじゃない。実戦は高みの見物で、やられたら部下を見捨て、自分だけ逃げていった人を何人か見たことがある。
話している間に、白狼が
…あえて当てなかった?
魔物が脅し?
次の氷柱を落としてきた時、氷の花で防御した。
天に向かって繰り出した氷の結晶が傘のように地面と平行に広がり、白狼の落としてきた氷柱が突き刺さった。大半はそこで止まって落ちて来なかったけれど、最後の二本を受け止める前に結晶は砕けた。残った二本を雷の魔法で砕くと、雪のように砕けた氷の破片が降ってくる。
十本を受けきれないなんて、やっぱり私の花の魔力だけでは氷魔法はいまいちだ。
ふとアイセル君が思い浮かび、頭を振って消す。
白狼が私に気付いた。こっちを見据え一歩前に出る。やる気とみた。
「全員待避!」
私の号令で、抵抗する閣下も誰かが引っ張って無理矢理後方に連れて行った。
私との一対一を受けてくれる。…この魔物、ただの魔物じゃない。
とっておきのをあげるか。
小さくしておいたバラの花を口に入れる。おじいさまからの頂き物だ。
雷撃に水魔法を加えて、雷の雨!
さっくりよけても範囲が広く、完全によけきれない。そこへ最後に雷の集中攻撃! この雷撃はしびれはしても、大した怪我にはならない。
向こうもわかっているらしい。私が追い払いたいだけで、倒す気がないことを。
「あんなものか。もっと威力があるように見えるんだが」
閣下が余計なことをつぶやく。
続いて花を補給し、炎球を九つ白狼の足下に連続で向けると、軽いステップでよけながら、後方に下がっていく。
目くらましの光と炎で、このまま逃げてくれれば…
光のシールドを放ち、続けて炎球を出そうとしたその時、横から来た何かに体当たりされた。
討伐完了と言われていた黒い狼だ。
そのまま弾き飛ばされて、黒狼と私は砦の崖下の森へと落ちていった。
まずい。花を…
落ちる勢いで、花が腰の袋から散らばった。手に掴めた小さな花一つ、でももう地面が近い!
気がついたら、私は宙に浮かんでいた。
白狼のナイスキャッチで、私の体は白狼の口にしっかりと咥えられていた。上手に噛んでくれてるおかげで、犬歯は体に刺さってないけど、このまま巣にお持ち帰りで喰われちゃう?
おいしくないよー!
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