第27話 花の魔女、魔物討伐の噂を聞く
ノストリアに来て十日目のことだった。
少し寒さが戻ってきた日、要塞の近くに狼の魔物が出たと噂になっていた。三匹で現れ、うち一匹は毛並みが白いらしい。
要塞の閣下達が頑張って追い払ってくれたけれど、討伐までは至らず、近日討伐隊が出るとかで、ノストリアの街も少しざわついていた。
もちろん、私はここにいることも知られていないから、何の要請もない。閣下達のお手並み拝見といったところだけど、何となく習慣的に討伐と聞くと漏れ聞く情報を集め、いつ出動命令が出ても対応できるように身構えてしまう。
今までも討伐に駆り出されても詳しい情報を与えられることの方が少なかった。どこそこに行って、なんとかの魔物を倒せ。これだけの情報で騎士隊と一緒に出向く。現地で気の利く人がいれば追加情報をもらうこともあるけど、大抵は下っ端騎士の噂を拾い、あとは現地で何とかする。…今思えば、結構雑だ。ちゃんと把握していた人はいただろうに。
数日後、要塞の砦で第一討伐隊が三匹のうちの一匹を仕留めた、という情報が入ってきた。しかし、その戦いで魔法使いが二人やられ、うちの一人が治癒魔法使いのうちでも一番魔力が強い人だったらしい。怪我人の回復が遅れていて第一討伐隊の復活はかなり時間がかかりそうだ。
一番手っ取り早いのは、治癒魔法使いを回復させることだと思うんだけど、閣下はそれを後回しにし、すぐに第二討伐隊を繰り出し、自身も現地に赴いた。
…やばいんじゃない? それ。
一般市民は要塞に入れない、とおばあさまから聞いた。
「昔は市民が登録されていて、有事には慈善活動に要塞に行ったのよ。炊き出しとか、物資運搬とか。特に治癒魔法を持つ人は重宝されてね。でも最近になって市民には頼らないという風潮が強くなって、今のグレゴリオ閣下は一般市民の出入りなんてもってのほかって人だから」
外部の人の出入りを制限するのは軍事施設にはよくあることだけど、領主と要塞との関係も良好だったノストリアで一方的にその関係を断つなんて。閣下は助けてもらうことを恥と思っているのかも知れないけど。
私は役に立たない、と一度のテストで切り捨てられた身だ。おかげで随分助かったけど、今の私は一般市民だから、ストレートに助けに行っても拒絶されちゃうだろうな。でも閣下が要塞の砦に出兵してる今なら、こっそり潜り込んで手を貸してもばれないんじゃないかな。
「あらあら、何か悪巧みをしようとしてる顔ね」
おばあさまはにっこり笑ってる。
「要塞の討伐隊のことで…。怪我人が続出してるって。治癒魔法使いが怪我したって聞いたんだけど、その魔法使いを回復すれば状況はずいぶん良くなるんじゃないかな」
「普通はそうよねえ」
おばあさまと意見が一致した。
「フィオーレさん、治癒魔法、使えるの?」
そう聞かれて、自分が「元」花の魔女設定になっていることを忘れていた事に気がついた。
「…多少、ながら」
ふふふ、と笑うおばあさま。何だか、おばあさまにはとうの昔にばれてる感じだな、私が「元」のつかない現役バリバリの花の魔女だって事。
「王都でひどい目に遭ったんでしょう? 要塞は王都管轄よ。それでも助けに行くの?」
…この人は、どこまで事情を知ってるんだろう。侮れないなあ。
それでも、管轄がどこだろうと、要塞の皆さんが誰かを守る仕事をしていることには変わりない。国を、ノストリアを守ってくれている。
「ちょっと、治癒魔法使いを回復させて、後はまた様子を見るつもりで、行ってこようかな」
「そう。それなら…」
おばあさまは要塞の衛兵の制服を出した。それに身分証も。
既に準備済み…。できる人、素敵。おばあさま、かっこいい。
ここノストリアは常に要塞の世話になっている。要塞を見守り、時に手助けをするのもノストリアの仕事って訳だ。今は閣下が頑なで、相互協力が崩れているようだけど、基本は困った時にはお互い様。
おばあさまにこくりと頷いて、制服を受け取った。
「ちょっと、行ってきます」
「頼んだわね」
すぐに制服に着替えて要塞に向かった。
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