第4話 花の魔女、北の要塞で試される

 門番に名前を告げると、すぐに中に入ることができた。

 招かれた場所は要塞の中ではなく、外の訓練場だった。

 そこに、ここの責任者であるグレゴリオ「閣下」がいた。案内してくれた人から事前に「閣下」と呼ぶよう指示されていた。

「おまえが花の魔女か」

 旅姿のまま、荷物を足下に置いて礼をした。

「花の魔女、フィオーレにございます」

 普通、着替えたり、荷物を置くくらいのことはさせてくれるのに。すぐに追い返そうと考えているのは見え見えだった。

「来て早々だが、おまえの魔法を見せてみろ。役立たずはこの要塞にはいらん」

 こういうのは、よくあるパターンなので、別に驚かない。ただし、他の魔法使いと同じと思われていたら困る。

「私の魔法はご存知でしょうか。花がないと魔法は発動できません」

「この北の地に花を所望するか。今は冬だぞ。冬は魔物が来ないとでも思っているのか」

 そんなことは、冬を選んで北の地に派遣したバカに言ってほしい。

 そう思ったところで、問答無用だった。

 目の前に魔法剣士二人が現れ、突然攻撃を仕掛けてきた。

 こういうこともあろうかと、手に持っていた花を一つ口に含み、反射の防御。

 ちょっと強すぎて、剣に水の魔法を乗せてきた男が、自分の勢いの二倍の威力の水に跳ね返されて、宙を舞った。

 まずい。

 もう一つ花を口に含み、剣士の着地点に上昇の風を起こし、ダメージがないようにした。

 その間にもう一人が竜巻を飛ばしてきた。

 花を咥えて、同じく竜巻を出し、相殺する。

 もう一人の、怪我なく着地した男が切り裂く風の刃を投げてきた。やっぱり助けるんじゃなかった。

 まずいな、花のストックがあまりない。何とか防御し、次は炎技で、と思っていた時、うっかり花を落としてしまった。

 そこに次の風の刃が来て、髪が頬の血と共に風に舞った。

「それまで」

 目の前の男は鼻で笑い、落とした花を踏みにじった。私を仕留めた後ろの男は、勝ちながらも、ばつの悪そうな顔をして目をそらせた。

「ふん。花がないとろくに戦えんとは。ここ、北の地に花を求めるなど、阿呆のすることだ。おまえ程度の魔法使いなどいらん。とっとと帰れ」

 そう言うと、赴任の書類に「不採用」と書かれて、手渡された。

 私はそれを受け取り、一礼をすると要塞から立ち去った。


 無職だ。

 …自由だ!


 初めはちょっとくやしかった。でもよく考えると、この北の要塞に来たくて来た訳でもないし、今まであちこちの戦いに派遣されていたのも、私の力を知ってる人に便利に使われていただけだ。


  魔法使いなら当然。


 こき使われるたびにそう言われていたけど、フリーの魔法使いだって世の中にはたくさんいる。薬作っている人も、治癒してる人もいる。誰もがみんな戦いの場に駆り出され、戦闘魔法を使わされている訳じゃない。

 婚約もなくなり、赴任もなくなり、さあ、自由だ。

 まずは、花のある所に行く?

 それより、もう魔法を使わなくていいように、花の咲かないところに行く…?


 ふと足下を見ると、この寒い中、小さな花が咲いていた。小指の先よりも小さな白い花…。

 どこに行っても、花は咲く。

 魔法から逃れることはできない。

 だけど、どんな風に魔法を使うかは、自分で考えていいんだ。

 王様に見つかってまたこきつかわれる前に、そっと暮らしていける場所を探そう。落ち着ける場所がなければ、この国を出てもいいかもしれない。

 駅馬車に乗ってここを離れようとしたけど、あいにく次の駅馬車は二日後だった。

 やむを得ず宿を取り、駅馬車が出るまでの間、この街で過ごすことにした。


 アイセル君と旅していた時も宿では部屋は別々だったけど、何か物足りない。一人で食べるご飯。慣れてたはずなのに、ちょっとつまらない。

 でもまあ、すぐに慣れるだろう。いい出会いだったことに感謝し、次行く街をどこにするか、いろいろ考えを巡らせていたら、いつの間にか眠っていた。


 明日からの旅にそなえて、花を探し、食べ物を買い、地図を買った。街にはギルドなるものがあって、登録すると街の求人情報も教えてもらえるらしい。次に行った街ではそういうのに入ってもいいかもしれない。


 はしゃぐ子供、物を売る人、行き交う旅人。

 普通の平和な街。

 私が壊してしまったフロレンシアの街も、少しは元に戻ってるといいな。


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