第20話 呉越同舟
「すごーーーいっ。きもちいいーーーー」
「これは、速いな」
「落ちないでくださいよ」
祭壇から拠点への帰り道、私たちは幸運にももう一匹のナハトゴーンをタームするとこが出来た。
今は計二匹になったナハトゴーンで、最初の一匹が私、もう一匹にエリカさんとシズカさんが乗って空の旅と洒落込んでいるところだ。
「それにしても祭壇の間で怪物の転送ができるなんて便利ね~」
「正確にはデータにして預けているだけですがね」
私は飛行怪物が二匹になったことでもしかしたら、ゲームで祭壇に実装されていた機能が使えるのでは?と考え、祭壇に取って返した。
祭壇のコンソールから「怪物をストレージに格納」を選ぶとそれぞれ連れていた怪物が粒子の様に崩れ、吸い込まれた。
「しかし、ナイナメスにこの機能が気付かれて祭壇にアクセスされると怪物を奪われてしまうのではないか?」
「いえ、格納はユーザーごとに紐付けられているので他のプレイヤーからは引き出せないはずです。この世界の仕様がゲームと同じならという条件付きですけど・・・」
「その辺はもう信じるしかないわね。というかなんで第一の祭壇で使わなかったの?」
「地上を移動する以上は怪物に乗らないと危険ですから、預ける必要が無かったのです」
「空中を移動できるなら、危険はだいぶ減少する上に速いですからね。次の祭壇まで一気にいけます」
「ふーん。それにしても綺麗な世界ね・・・。地上はあんなに危険なのに」
「そうだな、こう見ると美しい」
シズカさんも同意する。
私はエリカさん達が見ている方角の景色を見た。
遠方に海が見え、それが朝日を反射して輝いている。
太陽の光を反射する木々が黄色味を帯びて複雑な世界の重なりを感じさせる。
そして環境汚染などない澄んだ空気が清々しい気分にさせてくれた。
地平線までつづく景色は無限の広がりを思わせるが、ゲームと同じ設定が再現されているならば、ある一定範囲より外の風景は映像だ。
「確かにセカンダリー・カダスはマップの景色の美しさを売りにしていましたね」
「ゲームの事を言っているのじゃないわ。デリカシーがないのね。減点」
「それは、すみません」
どう答えればよかったのだろう。
「もうすぐ第三の祭壇に到着します」
「もう?さすがに速いな」
「雪山が大変すぎたのよ。凍死するかと思ったわ」
私たちは第三の祭壇に到着した。
コンソールから怪物たちを呼び出す。
祭壇の周りに私達の怪物が勢ぞろいしている状況だ
この戦力があればゲームと同じ難易度なら撃破出来るだろう。
「では行くか」
「ちょっと待って下さい。後ろからなにか来ます」
「祭壇への道は一方だけだな、やり過ごすことは出来ないか」
祭壇の周りは岩に囲まれている。逃げ場はない。
後方から十数匹の肉食獣がやってきた。その上には見知ったマケドニア兵が乗っている。
先頭のひときわ大きな獣にはナイナメスが騎乗していた。西岡は相変わらずフィアーバードだった。
何頭か飛行型の怪物も見られる。
「これはこれはエリカ博士とシズカ殿。それとこの間邪魔してくれた男だな」
「ずいぶんこの第三の祭壇まで早くこられましたね」
「君たちが今、した事と同じだよ。西岡がアトラク=ナクアの祭壇を調べていてね、君たちがあの蜘蛛を倒してくれたのだろう?御蔭で調べることが出来た。そして怪物を格納できることを発見した。あとは飛行型で飛んできたというわけだ」
「何の御用ですか?私達はこれからボスに挑むので忙しいのですけれど」
エリカさんが問いかけた。
「ああ、【ゲーム】という物がどういうものか私には良くわからぬが、何をなさねばならぬかはニシオカから聞いて知っている。つまりは神へ供物を捧げて挑戦をするということだな」
「どちらがボスへ挑むのか、戦って決めるつもりですか?」
「まさか、たとえ勝ったとしても疲弊した状態であの化け物に挑めば共倒れになりかねん。あの蜘蛛との戦いで我々の半数が殺され撤退を余儀なくされた」
「では、私達が戦い終わるまで隠れていれば良かったのでは無いですか?。どちらが勝つにしろ漁夫の利をえられたでしょう」
「そうはいかんのだよ、ボスの紋章を使用するには一回はボスフィールドという所で戦わなければだめらしい。化け物が勝てば良いが君たちが勝利すれば元の世界への道が閉ざされてしまう」
エリカが、えっ?という顔をしてこちらを見る。そういえば言っていなかったな。
「確かにそういう仕様が有ったとは思います。怪物に乗った状態での一撃でも大丈夫です。私達三人で戦う分には条件を自動的に満たすから言わなくてもいいと思ったのです」
「今度から、説明は正確にしてよね」
エリカが咎めるように言う。
「申し訳ありません」
しかし西岡は俺が言わなかった仕様を知っていたのか?
やつを見るとニヤニヤして黙っている。
「でもそれならば、もう一度供物を捧げて第一、第二、どちらでもボスフィールドへ行けばよかったのではないですか?」
「試してみたのだがね。供物を捧げても転送?というのかね。それはおこらなかったぞ」
第一、第二とも私達が倒してしまったから気が付かなかったが、この世界はゲームと違って何度もボスに挑戦することはできないのか?
それとも長大なクールタイムがあるのか?もしかして、あの私の中に入った黒い球がリスポーンするべきボスの源だったのか?
「そこで提案がある。我々と共闘しないか?」
そうナイナメスが切り出した。
「な、あなた達が私の仲間に何をしたか覚えていないの?」
エリカが、そう叫ぶ。殺された大学生たちのことだろう。
「あの時のあなた方は非力だった。力がなければ略奪したほうが早い、収奪されるのみだ。だが今の貴方は見たところ多くの巨獣を従え、戦力がある。十分交渉をするべき価値がある」
「そんな、勝手な」
「ならば先程あなたが言った様にここで戦って相手を殲滅するかね?気に入らないか?ならば、元の世界へと戻れる事が確定した後で私達を倒せば良い。優先順位を間違えるな」
駄目だ、倫理観がマケドニア過ぎてエリカさんと致命的に話が噛み合わない。とはいえ彼の提案には一理ある。
「エリカさん、落ち着いてください。出口押さえられている状況です。怪物を祭壇にしまって逃げる間に襲われます。ずっと仲間になる必要は無いですから今だけ気持ちを抑えて貰って同盟を組んでみては?」
「そうだなエリカ博士、私もコイツラは気に入らんが、今はボスを倒すのが優先だ。しかし、元の世界へ帰れぬとわかればカルの牙で八つ裂きにしてやる」
シズカさんが助け舟を出してくれた。
「そう、あなた達がそう言うならば……分かったわ、一時的に手を結びましょう」
「ふふふ、そちらでの話はついたかね?では、一時停戦と言うことにしよう。共闘とは言っても急に連携など取れまい。我々はあの化け物の左側面から攻撃をかける。君たちは右側面から攻撃を掛けたまえ。そうすればお互いの行動を阻害することもないだろう」
「わかった。それが良さそうだな」
そうしてエリカさんは不満そうだったが一時的にナイナメスと同盟を組む事となった。さすがにいろいろな国の兵士を吸収して大きくなったマケドニアの将軍、混成軍の運用には説得力が有った。
マケドニアの兵士たちはさすがに全員は転送範囲に入れなかったので一部の精鋭部隊、アヴィドとアティスが祭壇の周りに集まった。
そして供物を捧げると私は紋章に触れ、辺りが閃光に包まれた。
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