第21話 第3のボスそして裏切り
第三のボスフィールドは、ジメジメとした海辺の洞窟といった環境になっていた。
一部は海水が溜まって海へとつながっているようだ。
その海中への入口からゆっくりと第三のボス、ブル=ドラグが浮き上がってきた。
巨大な、カルカロドントサウルス以上の体長を持つ頭足類、つまりタコのような外見をしたそれはダークブルーの体色をしていて、ぬらぬらと海水と粘液の滴りを体に纏っている。
また一〇本の巨大な触手を持っている。
私たちはナイナメスとの打ち合わせ通りに右側面に攻撃をかけた。
このフィールドでは飛行怪物が使用禁止なため(転送が出来ない)、私はミ=ゴに乗り攻撃の機会を伺う。エリカさんはオサダゴワだ。
シズカさんはカルカロドントサウルスをブル=ドラグに噛みつかせる。
しかし粘液と柔らかい体のせいであまりダメージを受けていないようだ。
そのうち、ブル=ドラグは煩わしそうに触手を振り回した。
「わっ」
私はかろうじてミ=ゴのミィちゃんをジャンプさせて躱した。
「きゃあああっ」
しかし、エリカさんはその攻撃をまともに喰らって吹き飛ばされる。
「エリカさんっ!!だいじょうぶですか」
「大丈夫、オサダゴワがダメージを吸収してくれたわっ」
更に触手はエリカさんをつかもうとその先端を伸ばしてくる。
「くそっ」
私はバッグのインベントリからRPG-7を取り出した。
元の世界でもあるベストセラーの対戦車ロケットランチャーだ。
モンロー/ノイマン効果で一点に集中した燃焼ジェットが戦車の装甲板に当たると、ユゴニオ弾性係数を超えて装甲板に穴を開ける。
生物、つまりソフト目標相手でもこれだけ大きければその貫通力は発揮されるだろう。
「あたれっ」
エリカさんへ伸ばされた触手に照準を合わせて引き金を引く。
元の世界で会社の同僚などはハワイ旅行で銃を撃ってみたなどと言っている人間はいたが、私はそういった経験は無かった。
しかし、ステータスを上げて向上した身体能力と目は完全に私の指先をコントロールしてブレなく発射をする事が出来た。
漫画やアニメなどでイメージするより遥かに速いスピードで弾頭が飛翔する。目で追えないぐらいだ。
そして、うまく触手に命中してくれた。
ドウッ。
鈍い爆発音と共に触手が引きちぎられる。
ちぎれた断面からすぐに再生が始まるがこれでいい。ゲームと同じなら見た目は治ってもダメージが蓄積されているはずだ。
「ありがとっ、タケル」
「本体にロケランを当てましょう、その方がダメージが大きい」
私はシズカさんが攻撃している箇所に爆発が届かないようにタコの頭、後ろの長く伸びた後頭部にRPGー7を発射する。
味方にもダメージを与えてしまうからだ。
エリカさんもRPGを取り出すと、私の意図に気がついたのか同じ箇所に発射する。
反対側を見ると、ナイナメス達が攻撃を仕掛けていた、アヴィドを前に立ててアティスで炎攻撃をしている。
前に見た布陣だ。
RPGが外れると向こうに当たりそうだったが、まあ当たっても知らね。
後はルーチンワークだった。死なない程度にダメージコントロールをしてRPGを撃ち込みつづける。
ナイナメスたちは人数が多い分攻撃が当たる頻度も高かったのか少なくない犠牲を出しているようだ。
それにしても、第二ボスのアルク=ウィト=タウィルにしろこのブル=ドラグにしろゲームそのままのパターン化した動きだ。
他の野生の怪物はちゃんと生物として生きて脳で考えているような動きをしていたが、ボスだけはまるでAIだ。
いや、アトラク=ナクアだけはまるで生きているというか人間が操っているような動きをしていたような気がする。
「よしっやったぞ」
シズカさんが歓声を上げる。かなり時間はかかったもののブル=ドラグは倒れるというより元から地面に張り付いているのでグチャリと潰れたと表現するのが正しい状態になって絶命した。
そしてボスはまたも黒い球にになって私に吸収された。
シズカさんが紋章を拾う、それと同時に私たちはまた祭壇へと転送された。
「ふう、案外被害もなく倒せましたね」
その時だった。突然私の胴体に投げ縄が掛けられると。引き摺られ、ナイナメス中型獣の鞍につりさげられた。足の速い偵察用のタイプだ。
「ナイナメスッ!!あなたはっ」
「タケル殿っ」
私が何か言う暇もなかった。私をつりさげたナイナメスの部下はあっという間にその場を離脱した。
「今は追ってくるなよ。この男がどうなってもよいのか?夜明けまで待つ。祭壇から北一キロの野営地にその紋章を持ってこい」
遠くでナイナメスが叫んでいる。さらわれつつある私にも声が届くという事は将軍の資質なのだろう。
私は、脳内のターム済み怪物とのリンクで、ミ=ゴに距離をとって追跡するように指示を出すのがやっとだった。
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