第10話 アヴィド

「タームした怪物のやったことを私のせいにされてもなー」


 私は洞窟の外、少し離れた場所にあるタームに必要な素材、緑縞瑪瑙をピッケルでガリガリ削りながらひとりごちた。


 削った分は素材としてバッグに勝手に入ってくれる。しかし、まだアヴィドが近くにいるかもしれないため罪滅ぼしを兼ねて危険な任務を買って出たのだった。


 しかし、エリカとシズカは残りの恐竜全部を護衛にして、近くの川で水浴びをしている。いい加減体を洗いたかったそうだ。


「ペットのした事は飼い主の責任ですって言われてしこたま殴られたよ」


 私は隣にいるアヴァロスに話しかける。アヴァロスは聞いているのだかいないのだか野草の実をモッシャモッシャと食べている。


「そのせいで、弁償っていうか二人の装備を私が大急ぎで作ることになってしまった。まあ、お陰で一気に文明は進んだけど」


 彼女たちの服に見合うものを作るとなると、作業台というアイテムが必要だ。それを製作するためには金属が必要になるため、私はしばらく洞窟の奥で鉱山労働者をしていた。更にその作業で採れた金属鉱石を精錬する炉も必要でそれも製作した。


 もちろんそれらの設備を使用するには素材を放り込んでクリスタルからアクセスすれば自動で生産してくれる。ホント、ゲームと同じ便利な世界だ。


 まあ、リアルに一から文明を起こしていくとなると、炉や作業台を作るレベルでも私の人生が終わるくらいまで時間が掛かりそうだから不満はない。

 そろそろ、石油を見つけられれば旋盤も作れそうだな。銃火器の製作には必須の施設だ。


「タケル、服はできたの?」


「ふんっ」


 水浴びが終わったのか、体をすっぽりと覆う大きなタオルにくるまった、エリカとシズカがこちらにやってきた。


 このタオルも私が作業台で制作した。シズカさんは少しふてくされているようだ。


「お召し物はこちらに、お姫様方」


 私は少し気取った物言いで二人に装備を渡した。


「そういう寒い物言いがぎりぎり許されるレベルの見た目をしているかなタケルは」


「厨二病的な発言もそれを言う人間次第と言ったわけですか」


 なんか私ディスられてないですか?後、未来でも厨二病って言葉残っているのですね。


「なかなかいいじゃない。ファッション的な意味じゃなくて実用性ってことね」


「うん。動きやすいな」


 二人は私が渡した装備に着替えた。


 綿の服をベースに胴体や脛、肩、手の甲からひじを厚めの革鎧で覆い、胸など急所の部分は金属で補強されている。関節部分には装甲が干渉しないようになっているので動きやすくなっている。


 軽装鎧という装備だ。

 ボス戦に行くにはもっと重装甲のものが必要だが、長く移動するにはこちらの方が楽だろうというチョイスだ。


 二人はひとしきり体を動かして納得したようだ。

 するとススっとシズカさんが近寄ってきて私の耳元に口を寄せた。


「ちょっと意固地になってしまったようだ。命を助けてくれてありがとう。感謝する」


 そう言うと彼女はサッと体を離して行ってしまった。

 私は少し暖かいものが胸にやどりました。


 しかしその時だった。


「キュィキュィ」


 警戒に周辺を回らせていたイェブが鳴きながら私の肩に飛び乗ってきた。


「またあいつか」


「急いで拠点に戻りましょう」


「分かりました」


 私たちは洞窟の拠点に戻ると、新たに入り口に設置した金属の門を閉め、協力して巨大なカンヌキを刺した。


「ちょうどぴったり入り口に嵌るサイズの門を作れて助かりました」


 元になったセカンダリー・カダスではゲームデザイン的に大きさを合わせていたのかもしれないが。


「洞窟の中で鉄鉱石を採掘できるようになったのも大きいわね。金属系設備の製作がはかどるわ」


 ドンッ!!ドンッ!!


 外から扉に巨大な生物がぶつかる音が響く。

 外から扉を破ろうとしているのはウルムが顔を焼いたアヴィドだ。


 逃亡した翌日から一日に何回か襲撃してきてはしばらくすると諦めて去っていく。


「すぐに扉を付けて立てこもれるようにしたのは正解でしたね」


「服よりも扉を優先した時はクヌギ殿の新手のセクハラかと思ったぞ」


「勘弁してくださいよ。あいつがこっちに恨みを持ったのはなんとなくわかりましたからね。復讐しに来るだろうから防備を整えるのが先だと思ったのです」


「優先順位を間違えないのは優秀ね」


「会社員時代からそうですよ。僕は」


「なあ・・・」


 シズカさんが神妙な顔で私に話しかけてきた。


「なんです?」


「あいつタームできないか?」


「え?」


「ナイナメス達もあの怪物を二匹持っていた。タームにはずいぶん犠牲を出したみたいだけどな。こちらも手なづけていないといざ戦闘になった時に対抗出来ない」


「ちょっとむちゃはやめてよ、アレだけ大きくて動きが早い相手に攻撃を避けながらタームするなんて無理だわ」


「いえ、無理とも言えないかもしれません」


「どういう事?」


「巨大な怪物をタームするにはハメ技があるのですよ。ゲームの仕様上一瞬で建築ができるので、鉄の門で四方から囲んで檻にするのです鉄の門は今、拠点の入り口を抑えられているように殆どの怪物には破壊できませんからね」


「なるほどね」


「実際にはコの字型に門を配置しておいて、中央にワイヤーネットトラップを置いてそこに怪物を誘い込む。トラップが発動して動きを止めたところを最後の一辺を塞いで動きを封じるのです。そうすれば後はマテリアルを打ち込み放題です」


 ゲームの方では建築罠を多用すると難易度がかなり下がるのでゲームが得意でない人向けの救済措置として本来意図しない使用方法でも修正されずに残されていたものだ。元から建築を戦闘方法の一部として取り入れているゲームデザインな事も理由の一つだろう。


「それなら、行けるかしら」


「危険がゼロというわけでは無いがな。ボスに挑むなら強力な怪物も必要だろう」


「分かりました。やりましょう」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る