第11話 カルカロドントサウルス
「ここに門を置いてください」
「なるほど、崖の下で上の坂からは見づらくなっているな、そこから誘導すれば急に門が現れた形になるから不意をつける」
「門の大きさは中でお願いてあった思います、アヴィドの身長より低くてなおかつ跨げないくらいは大きい」
「ああ、作業台で作ってある。設置するぞ」
シズカさんが門を隙間が無いようにコノ字型に設置した。
「では真ん中にトラップを置いて」
私はクリスタルを使って門の中央に設置した。トラップは有効化されるまでアイドリングタイムが必要なため先に埋めておく必要がある。
「じゃあ、誘導してきます。トラップにかかったら門を設置するのをお願いします」
「この間も思ったが、君は率先して危険な役割を負おうとするな。それは尊敬するが、私も兵士だ、戦闘力もある。いい加減信頼して任せてくれ」
「私もよ。ゲームでの経験があるだろうからあなたがやった方が早いのかもしれないけど任せられる部分は分担しないと潰れちゃうわよ」
「そこまで無理はしているつもりはないのですが。でもありがとうございます。たしかに生身での戦闘はシズカさんにおまかせしたほうが良いでしょうし、調査はエリカさんの方が得意ですから」
率先して囮を引き受けるのは、私がリスポーンできるから。死に戻りの事はまだ二人には話していない。なぜ私だけが復活できるのか理由がはっきりするまでは不用意に公表しない方がいい気がした。
「それでは行ってきます」
「ええ。頼むわ」
「注意深く行動しろ」
私はガーストにまたがってアヴィドの探索を開始した。
幸い奴が拠点の門に体当たりをしに来た時の足跡が残っている。これを辿っていけば場所が分かるかもしれない。
洞窟から離れると鬱蒼と木々の生い茂る森林になっている。このあたりは資源の採掘に来た事があったな。
足跡は木々の生えていない獣道になった場所を通っている。アレだけの巨体が往来していれば植物も生えなくなるか・・・。
獣道は小高い山の山頂へ上がっていた。
それを私はガーストで上がっていく。元の世界に比べ、肉体は疲れにくくなっているが、元のセカンダリー・カダスと同じ様に行動に対してスタミナの消費がある。ステータスで上限値を上げることもできるが私は必要最低限しか上げていない。
今回のように怪物に乗ればそちらのスタミナ値で行動できるからだ。
ドォーン、ドォーン
遠くで巨大な生物の足音が鳴っている。
「アヴィドの足音か?いや、足跡の方向とは違う」
山の中腹あたりまで来た私は、遠方が見渡せる。そこで森の木が揺れて木の葉が飛び散っているのが見えた。
「洞窟からはまだ離れているけれど、なにか巨大な怪物がいるのか?アヴィドのタームがスムーズに行くといいのだけれど」
この世界に安全や絶対など無い。幸いまだ遠い場所にいるらしいので今はアヴィドのタームに集中すべきだろう。アヴィドをターム出来れば大型の怪物でも追い払うこともできるかもしれない。
私は更に坂を上がっていく。
「アヴィドの奴どこまで行ったのか」
「ガアアアアアアアアッ」
「なっ」
坂道の脇に生えた広葉樹の間からアヴィドの顔が飛び出してきた。枝が生い茂って奥が見えなかった。
私はとっさにガーストを横っ飛びにジャンプさせる。
「くそっ、追跡に気づいていたっ」
逆に待ち伏せされていた。イェブをエリカさんたちの警戒のために置いてきたのが仇になった。
ガーストは獣道から飛び出して、斜面を滑り落ちていく。
私はガーストの姿勢を何とか立て直しながら斜面の上を見る。
「グガァ」
アヴィドがドスドスと足音を響かせて器用に斜面を降りてくる。
「ちょうどいい。どうせ誘導するつもりだったんだ」
元の世界でも義経の逆落としじゃないが馬ですらかなりの斜面を下れたんだ。ガーストは馬より更に踏破性が高い。
「いくぞっ」
私はガーストを斜面に垂直に立たせると一気に麓に向かってかけ降りさせた。
私は逃げながらチラチラと後ろを確認する。追ってきているアヴィドの顔は醜く焼けただれていた。
「確かにウルムが溶解液を吐きかけた個体だな」
「ガアアッ」
アヴィドが首を伸ばして噛みついてくる。私はガーストを左右ジグザグに操ってそれを躱す。顔のすぐ横でガチガチっと牙の噛み合わされる音に肝を冷やす。
「もう少しだ」
この先の段差になっている地形の下に門のトラップがある。うまく上からは見えなくなっているな。
ブンッ。
アヴィドの爪が私の肩口をかすめる。
くそっ、完全には避けきれなかった。
パっと血が飛び散る。しかし致命的なダメージじゃない。
かといって、アヴィドを引き離すと罠がバレるかもしれない。ギリギリに付いてこさせないと駄目だ。
ガーストを右左に飛び跳ねさせながら躱す。隙を見てマテリアルを塗った矢を放って挑発する。
何発からは頭部に当たっているのでターム値が僅かには上がっているはずだ。
「よしっ間に合った」
坂をガーストをスライディングさせて滑り落ちると隠れていた門が現れる。
門は枠だけが設置されているのでその間をすり抜けられる。枠だけでもアヴィドが通り抜けられる高さではない。
中央にはトラップが設置されているのでそこを飛び越える。
私を追いかけてきたアヴィドは見事に中央のトラップを踏みつけた。
バシュッと中央から無数のワイヤーが飛び出し、それぞれが絡み合ってネット状になった。
そして、アヴィドの動きを止める。
「シズカさんっ」
「わかった」
近くの茂みに待機していたシズカさんがアヴィドの退路を断つために門を建設しようとしたその時。
「キシャアアアア」
「なんだコイツ」
シズカさんの後ろから突然人間の半分ぐらいの大きさの鳥が襲いかかってきた。
ミクラ鳥だ。隠蔽性能に優れている。くそっ、こいつはイェブの探知にもかからない。
こんな時にっ。
そういえば、セカンダリー・カダスではターム中にこいつに不意を突かれてプレイヤーが死ぬのはよくある事だった。シズカさんやエリカさんには大体のテクニックを教えてはいたけれど、細かいあるあるネタなんて教えてなかった。
それに不意を突かれればどのみち対処ができない。
シズカさんは攻撃をうまく軽装鎧の革鎧の部分で受けた、爪による引っ掻きに大きく傷は付いたが肉体まで届いてはいない。
しかしミクラ鳥は動きが速い。二撃目をシズカさんの首筋を狙って爪を振り下ろす。
「シズカさんっ」
次は躱しきれない、と思われたその時。
「グヒュッ」
草むらからウルムが飛び出すと、溶解液をミクラ鳥に吹きかけた。お前そこにいたのかっ。グッジョブだ。
ブシュッという音とともにミクラ鳥が落ちる。そこをウルムがガリッと噛みついてトドメを刺す。
「グルワワアアアアア」
低い唸り声と共にアヴィドが立ち上がる。
「くそっワイヤートラップの制限時間が切れたか」
ミクラ鳥の対処に時間を取られている間に、門の建築のタイミングを逃してしまった。
アヴィドはシズカさんとウルムを見つけると、特にウルムの事は覚えていたのか瞳に怒りをともして襲いかかる。
「不味いっ、逃げてっ」
その時だった。
ドンッドンッドンッ
かなりのスピードで近づいてくる巨大な怪物の足音が聞こえた。私達の索敵範囲外から一気に移動してきたようだ。
「キュアアアアアアアアア」
針葉樹の隙間から姿を表したそれは、甲高い鳴き声とともにアヴィドに噛みついた。
「ガアアアアアアアアッ」
アヴィドがたまらず悲鳴をあげる。噛みついている怪物はアヴィドより一回り大きい近い体長を持ち、猛禽の顔を持った大型獣足類の恐竜だった。
「カルカロドントサウルスサウルス―――」
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