第8話 洞窟
私とシズカさんは更に洞窟を進むと広いドーム状になっている場所に行き当たった。
入り口に出っ張っている岩場に二人で身を隠しながら中を伺う。
「ここでこの洞窟は終わりのハズです。この広場には鉄鉱石や黒曜石なんかの製作に必要な素材が採れます」
「・・・・・・」
「しかし昆虫型の怪物が結構いますね」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・どうしました?シズカさん」
「駄目だ・・・」
「えっ?」
シズカさんが私の肩をキュッと握ってくる。なんかかわいい。
「私は虫が駄目なんだ。居住区の農業エリアにも生息しているのは知っていたのだが、私は父親の輸送船で育てられたようなものだったから殆ど見たことないのだ。映像で見たことがあるけれどあんなにデカくて気持ち悪いものだとは・・・」
「いや、あれはゲームの怪物なので大きく作られているだけです」
広場の方を見るとヤスデを巨大化したような節足動物やアトラク=ナクアを小さくしたような蜘蛛が合わせて十匹ほどうごめいている。
ヤスデの方はウームスルプローラ、蜘蛛の方はナクアの子供とかそんな名前だった記憶がある。
「それにアトラク=ナクアを見た時は大丈夫だったじゃないですか」
「あれくらいデカいともう昆虫には見えないのだ。それに関節とか気持ち悪い腹部とか甲殻に覆われて見えなかったし・・・・・・」
「とにかくあいつらを排除しないと拠点として使えません。それほど体力は多くないはずなので二人でやればすぐ終わりますよ」
「でもっ、でもっ」
「分かりました。大丈夫ですから・・・、ね?」
ここを諦めてもどのみちセカンダリー・カダスには安全なところなど無い。洞窟や比較的安全な場所にも少なからず虫型怪物がいる。
それに私が死んでもどうせリスポーンだ。
「私が狩ってきます。シズカさんはここで待っていてください」
「えっ?ちょっとまって・・・」
私はシズカさんの静止を振り切ってガーストに乗って飛び出した。
ガーストの頭部に軽く触れる。セカンダリー・カダスではプレイヤーだけではなく、怪物のステータスを上げることもできる。ただし、伸び幅は人間よりだいぶ低い。レベルキャップが設定されているのだ。
私はガーストの移動速度を上げた。
【ガーストがLV35になりました】
こちらの足音にドーム内の怪物たちが反応した。そしてナクアの子供達が蜘蛛の糸を吐きかけてくる。
私は松明を振って糸を焼く。こいつに絡まれると移動速度が低下する。数の不利はスピードで撹乱しなければ勝ち目がない。絶対に喰らうわけにはいかなかった。
そのままガーストで蜘蛛たちの真ん中に突っ込む。そして松明を放り投げ、それに当たったナクアの子どもたちに火が移る。やはり虫の甲殻を構成するキチン質はよく燃える。
松明は予備を含めてかなりの数を作っておいた。それをバッグから次々と取り出して投げつけていく。
「――――――――ッ!!」
ナクアの子どもたちは声にならない悲鳴を上げてのたうち回る。このまま放っておけば焼け死ぬだろう。
その炎をかき分けるようにウームスルプローラが突撃してきた。
「くそっ」
私はガーストを先頭のひときわ大きいウームスルプローラに強化したスピードを乗せた体当たりさせると吹き飛ばした。
ガツンッという音とともにそいつは壁にぶつかると気を失ったのか動かなくなった。
通常、昆虫ははしご状神経節を持っていて脳みそが無いはずなのだが、頭を打って気を失うことがあるのか?怪物だから別物の生物になっているのか?
という疑問を私は抱いたが残りのウームスルプローラがこちらに向けて鎌首を持ち上げて何かをしようとするのを見てそれどころではなくなった。
「やばいっ!!」
ゲームではウームスルプローラは酸性の溶解液を吐く攻撃方法を持っていた。それを吹き掛けるつもりか。
「ガーストっ横へ飛べっ」
ブジュルルッルルッ!!
ウームスルプローラが一斉に液を吐き出した。それを間一髪躱す。
ジュッ。
避けきれなかった数滴が服の肩口を溶かす。
「行けっガーストっ」
溶解液を吐き終わって一瞬硬直したウームスルプローラ達をガーストの爪と牙が襲う。体節の隙間を狙った攻撃はウームスルプローラを輪切りにしていく。
一匹は三等分に、もう一匹は真っ二つにされた。分断されたパーツはそれぞれ気味悪くうごめいていたが、やがて力尽きたのか動かなくなった。
こういったパーツ単位で制御されて動くっていうのは梯子状神経節があるような感じなのだけどな・・・。まあ、ゲームを再現したようなルールで生息している怪物達に普通の生物を当てはめても意味のないことか。
後は気を失っているひときわ大きい個体だけか。寝ているところにとどめをさせれば楽だな。
その願いも虚しく振り返るとその個体は既に目を覚ましていたのか、しっぽの辺りでその細長い体を支えるとゆっくりと頭を持ち上げていた。
「来るかっ」
私はガーストをいつでも動かせるように身構えた。
しかしいつまで経っても攻撃をしてこない。こちらをじっと見つめているようだ。
【食料を渡してください】
頭の中にアナウンスの指示が響く。そういえば食料を渡すだけでタームできるパターンもあったか。
「とは言ってもゲームじゃウームスルプローラはタームしてなかったからなあ。なにを渡せば良いのかわからん」
私はインベントリにアクセスするとバッグを漁る。
「食料は・・・あ、腐った肉しかない」
私の手にはバッグからあからさまに色が変色した生肉が転送される。
「グヒュウ」
「わっ」
腐った肉を見た瞬間ウームスルプローラがそれに食いつく。ベタベタの粘液が手に付いて気持ち悪い。
【ウームスルプローラ Lv95をタームしました】
「レベル高っ」
ウームスルプローラはタームしたにも関わらずその場にとどまってこちらを見ている。
【ネームドにしますか?】
なんだ、それ、知らない仕様だぞ。ゲームをプレイしていたときには気づかなかっただけかな?
ネームド、名前をつけろってことか?
「ウームスルプローラじゃ長いから、そうだな、ウルムでいいか」
「オオオオオゥ」
ウルムと名付けたウームスルプローラは口の周りの繊毛を蠢かせながら立ち上がった。
喜んでいるのか?
「く、クヌギ殿、そいつは・・・」
怪物を倒し終わったのを見てシズカさんが近づいてきた。
「なんかターム出来てしまいました」
ウルムがキイキイと挨拶する。
「ヒイッ」
私がウルムを連れて近づくと目に見えてシズカさんが怯える。それをみてウルムはシュンとしたように首を下げた。
「ほら、こいつ嫌われて傷ついちゃったみたいじゃないですか」
私はシズカさんの怯えっぷりが少し可笑しく感じてからかうように言った。
「あ、いや、その、君がどうとかじゃなくてその生理的に受け付けないというか」
「それ余計ひどいこと言っていますよね」
「そ、それよりこれだけ怪物が多いと拠点としてはどうなのだ?」
シズカさんはごまかすように話題を変えた。
「インベントリから建造物を置けばその周辺は怪物がリポップしなくなります。資源のある場所を避けて床を敷き詰めて様子を見ましょう。元のゲームでは資材のあるところに怪物が多いのが常識みたいなところがありましたから別の場所でもそんなに変わりませんよ」
「そうか」
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