第7話 新拠点

「んなあああああああるほどおおおおおおおおおっ」

「シュバアアアアアアアアアアッ」



「うわっびっくりしたっ」


「なっ、あなたは、ニシオカっ?」


 全くけはいを感じさせずに我々の会話を盗み聞きしていたのは、ピンク頭の白衣の男、西岡優馬だった。隣にはあいかわらずアヒルのようなフィアーバードがつき従っている。


「おっと、つい興奮して声を上げてしまいました。失礼」


「こいつがいるって事はナイナメスもいるってことか」


「いえ、ここにはミーしか居りませんよ。お嬢さん。あの混乱でマケドニアの方々はお忙しそうでしたからね。ミーだけがこっそり後を付けてきたのです」


「クッ」


 シズカは槍を手に取ると西岡を槍で突いた。それを奴はヒラッヒラッと軽やかなステップで躱す。


 こいつ相当、身体強化をしているな。

 それにしてはマケドニア兵達は強化をしている様子がなかった。自分が優位に立つために仲間には教えていなかったのか。


「まあ、落ち着いてください。私はあなた達の話が聞きたかっただけなのです」


「それで盗み聞きか。行儀が悪いな」


「ふふ、それは失礼。そうそう、タケルさんが先程話していた、この世界が平行世界の一つだという仮説、間違っていますよ」


「なに?」


「所詮平行世界論など、二重スリット実験の結果を説明する仮説の一つに過ぎません。誰かが確認したわけではない。よしんば無限に平行世界が広がっていたとしても、偶然都合よくゲームと同じ世界がある確率なんて0%ですよ。0に何を掛けても0なのです。ま、同じ時空連続体の中ではるか遠い場所に似たような泡宇宙が存在する可能性はありますが・・・」


「じゃあ、お前はこの世界をどうみるんだ?」


「セカンダリー・カダスと同じ世界、つまりセカンダリー・カダスを知っている人間が作り出した世界にきいいいいいっまっていいいいるじゃないですかっ!!」


「な!!プレイヤーか開発者が関わっているってのか?」


「むしろ、我々のいた世界より上位の世界なのではないですかな。横方向の平行世界はほぼ存在は絶望的だ、しかし縦方向の上位次元は存在する公算が高い」


「ミー達がいた三次元の内側でも二次元の箱庭ゲームを作る事が出来る。上位次元ならその中に三次元の世界を作ることも可能ではないか」


「何が言いたいんだっ?」


「元の世界で聞いた、違う次元へアクセスしようとしていた組織の噂を思い出しただけでええええすよっ。聞きたい話は聞けまああしたっ。あでゆおおおおす」


「シュバババババッ」


「あ、待てっ」


 西岡はフィアーバードの背に乗るとものすごい速さで逃げ去った。追いかける暇もなかった。


「くそっ」


「どこまで聞かれたと思う?」


「少なくとも、ボスの話はナイナメスに伝わると思うわ」


「拠点も移動したほうがいいかもしれない」


「それならいい場所があります。ゲームと同じならって条件ですけど。洞窟なのですが、入り口が森で見えづらい場所で、資源も豊富にあります。PVPサーバーでも知る人ぞ知るって感じで攻略Wikiに載るまではほとんど襲撃を受けなかったとか」


「そこでいいわ。タケル、案内して」


「承知しました」


 仮拠点をクリスタルの機能で解体して痕跡を消すと、私は二人を記憶にある洞窟に案内した。一つ目の祭壇にも近過ぎず遠すぎず、ボス攻略にもちょうど良い位置だ。


「じめじめしているけど、安全という意味ではいい場所ね」


「エリカさん、褒めてないですよね、それ」


「あら、案外正直に言うじゃない。ちょっとした嫌味とかは気づかないフリをするタイプかと思った」


「私の経験だと、些少の事でも黙っている方が後々積み重なって人間関係悪化するものだと思います」


「ふーん、そうなんだ。でも、安全という意味で良い場所と言うのは本心から言っているわ。景色が良くて日当たりの良い場所っていうのは、広く見通せる見つかりやすい場所ってことだものね」


「それに暮らしやすい場所はナイナメス達も陣を張るために探しています。鉢合わせする可能性がありますよ、博士。私はこれくらい隠蔽されていた方が良いと思います」


 シズカさんは気に入ってくれたようだ。


「私も駄目とは言ってないです。ただ、文明的な生活が恋しいだけだわ・・・」


「それは私もですよぉ・・」




「クヌギ殿、洞窟内部の安全を確認したい、付いてきてくれるか?」


「分かりました。イェブ、ガースト、おいで。アヴァロスは食料の確保」


「博士は入り口で警戒していてください。何か近づいてくるものがいれば洞窟の内部に向かって大声で叫んでください。反響で聞こえます」


「了解したわ」


 シズカさんはオサタゴワにひらりとまたがると先行する。私はガーストに乗りイェブを肩に乗せる。


 私は松明をクリスタルで製作すると後ろから照らした。シズカさんは弓矢をバッグから取り出すと弦に矢をつがえて構えながら進む。手綱を引かないでオサタゴワをコントロールできるのは友好度が高いからだろう。長く騎乗して戦闘を繰り返すと怪物とのリンクが強化される。


「松明を手に持ったら勝手に火がつくのか。どういった理屈なのだろうな」


「物理法則自体がおかしい世界ですからね。考えるだけ無駄ですよ。高所から落ちても元の世界ほど衝撃を受けないとか・・・重力の働きも違いますし」


「それもそうか」


 曲がりくねった道を二人で進んでいく。この洞窟はそれほど広くなく地下に下っていくわけではない。


「道が分かれているな。どっちだ?」


「まずは左に行ってみましょう。拠点を作りやすい開けた場所に着くはずです。右も暫く行くと突き当りになるのですが、水晶とか素材が取れます」


「そうか後で掘りに行くか」


「そうしましょう」


 分かれ道を左に曲がったその時だった。


「ピュイッ」


 突然イェブが私の耳を引っ張った。


「なんだっ?」


「キィィイィィイイ」


 その直後、松明の光が当たらない天井近くの窪みから、コウモリの様な怪物が翼をバサバサとはためかせながら襲いかかってきた。


「うわああああああっ」


 私は間一髪で、それを躱す。


「クヌギ殿っ大丈夫か?」


「はい、あいつは「アド」です。ゲームでは噛まれたり引っかかれたりすると怪物病という状態異常になります。気をつけてください!!」


「分かった」


 シズカさんはアドにつがえていた矢を放つ。その矢は正確に頭部を射抜いた。

 アドは甲高い悲鳴を上げて絶命する。


「お見事っ」


「油断するな!!まだ来るぞ」


「キィィィィィィァッ」


「グギィィィィィッ」


 洞窟の窪みから新たなアドが三匹飛びかかってくる。


「ガースト、ジャンプだっ」


 私は騎乗しているガーストを飛び上がらせると洞窟の壁面を蹴って更に高く飛び上がらせる。

 そのまま一匹をガーストに食いつかせると、もう一匹の翼を爪で切り裂いた。


「グギッ」


 片方の翼が役に立たなくなり、一匹が地面に叩きつけられる。ガーストに咥えられていたアドはそのまま胴体を噛みちぎられ絶命した。


「とどめっ」


 私はガーストを地面に着地させるとその爪で先程地面に落ちて蹲っている方のアドの首を切り落とした。


 その間に最後の一匹はシズカさんが弓で射殺していてくれていたようだ。

 お互い会ってからそれほど時間が経ってはいないが、なかなかの連携だったように思う。


「イェブ、ありがとうな」


「ピュイ」


「クヌギ殿は怪物を操るのが上手いな。空中の敵を攻撃するなど難易度が高そうだ」


「ゲームと操作感が同じなのです。テクニックがそのままというか。しばらくプレイしていなかったのですが体が覚えているものですね」



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