第3話 初めての仲間
「よしっ。回収したっ」
緑の燐光が拳に吸い込まれる。これが重要だ。緑縞瑪瑙の遺物、あれを削り取ると手に入る【マテリアル】と呼ばれるアイテム。先程どうしても柱を殴らねばと思ったのはゲームの記憶がわずかに蘇っていたからだろう。
そのまま私は、ガーストが隠れていそうな茂みに直行する。
「グギッ?」
捕食対象で有るはずの私の方から向かってくるとは思っていなかったのかガーストはひどく驚いたようだ。うまく不意を突けた。
そのまま燐光をまとった拳で頭を殴りつける。
「ググッガッ」
ガーストは煩わしいっといった感じで前足を振るって反撃をして来た。私は後ろから後ずさって回避する。
ブシャっという音とともに胸から血が吹き出す。完全には爪を避けきれなかったようだ。
またもう一度ガーストの頭を殴りつける。
「グッ」
ガーストの頭がわずかにふらつく。だがその直後。
「グアアアアアアアッ」
大きく口を開き飛びかかってきたガーストに首を噛みちぎられた。
【あなたはガーストLV 25に殺害されました。】
「つっ」
意識を取り戻した途端、飛び起きると私はガーストに殺された場所へ走った。ここ数回の試行で復活は殺された直後だということはわかっている。
マテリアルを装備して攻撃すると、その怪物の意識を侵食することができる。そして一定値を超えると怪物は昏倒し、特定のアイテム(主に食料)を与えると使役することが出来るようになる。
"ターム・システム"
セカンダリー・カダスの売りの一つだ。特定のボスキャラクター以外のほとんどの怪物を配下にできる。
マテリアルによる影響は時間が経つにつれて薄れてくる。急がなければ。
ゴッ、ゴッ。道中、緑縞瑪瑙の柱を僅かに殴ってマテリアルを補給する。
アイテムを死体から回収している時間はない。
前回死亡した場所へ着くとガーストは私の死体を貪り食っているところだった。
うまい具合にこちらに背中を向けていた。
私の足音に気がついて振り向くも、遅い。最初の一撃はこちらが先制できた。
一発殴る。
「グオオオッ」
ガーストの頭がふらつく。だいぶ侵食が進んでいるようだ。
しかし頭を振って気を取り直すと私の方に飛びかかって来る。
私は頭の中に尿意のように溜まっているものが有るのに気がついた。出口を求めて私に解放を求めている。
これはもしかして経験値なのか?
セカンダリー・カダスでは経験値はそのままステータスに振ることができた。私は頭の中にある欲求を身体、その中でも脚部に向けた。
すると、放出の快感と共に体が軽くなった気がする。
前回の死亡時はなすすべのなかったガーストの攻撃を間一髪躱すことができた。
その後はスピードを生かしてヒットアンドアウェイ、ガーストの攻撃を交わしながらその頭を殴り続ける。
「グッ」
「ゴッ」
「アオッ」
ドゥーーーーン。
ついにガーストは気を失って倒れた。
「確かゲームのシステムでは肉を与えるんだったか?」
私は前回の死体からアイテムと肉を回収するとガーストの口に無理やりねじ込んだ。
自分の肉を与えるのは抵抗があったがこの際仕方がない。
「はあああああああああ」
大きくため息を付くとガーストのそばにへたり込んだ。
そのまま疲労から動けなくなる。本来なら他の怪物に備えなければいけないが、そんな気力は残ってなかった。ゲームとは違うのだ。
そのまましばらく静かな時が流れる。スピーというガーストの寝息だけが聞こえていた。
【ガーストLV25:ターム完了】
突然頭の中にアナウンスが流れる。するとガーストが飛び起きた。
「グルルルっるっるる」
ガーストは私に対して忠誠を誓うように頭を垂れる。
「よしよし。随分手間をかけさせてくれたなお前」
私はその頭をなでながら立ち上がった。
そしてガーストの背にまたがると、指示を与える。こいつは移動の足にも使えるのだ。
「行こう。拠点を作れそうな場所を探すぞ」
だいぶゲームの内容を思い出してきた。
拠点にするにはなるべく視界の開けた高台で、接近する怪物に気が付きやすい場所がいい。
ガーストとの間にはタームによる精神的なパスが繋がっているのが感じられる。
私が跨るとそれは走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます