第11話 エピローグ そして、これから

「ほう!!これはまさに、猪肉ししにくじゃな!!」


「ああ、そうか。豚キムチ丼の豚肉は、いのししの肉と味が似てるんですね。」


「まあ、何でも良いんじゃが。極めて美味びみな食材…ん?あいや、しばらく…お主の母者の腕前も相当なものなんじゃろうが。」


「まあ、気を使ってくれてるんですね。有難うございます。」


 キョウヘイの母が、謙遜けんそんしてはしを持たぬ、左手を扇の様に顔の前で、せわしなく動かす。


「…いやいや、わしへりくだってなどおらぬ。矢張やはり,女子の価値は器量きりょうよりも、余人よりも数等すうとう、上等な朝餉あさげ晩餐ばんさんを、こしらええられる腕よなぁ!」


 鎌倉時代の盗賊は、感嘆たんそくして満足そうに、禿げ頭を上下している。


「…実は儂の頭領とうりょうが幕府と、仲違なかたがいし合戦になり、戦死し儂も敗走して,この坂…いや、当時はおかに着いて数年経っておったのじゃ。」


 当然、おのれが生きるために、殺し、奪い、さながら修羅道にちたであろう。


 黒岩程度の、悪人が道玄坂でギャング行為をしたところで、本物の盗賊にかなうはずもあるまい。


 ハッキリ言って、きたえられ方が違う。


 片や、食うや食わずで、盗賊行為をしているのだ。


 必死さの次元が天地の差ほどあるだろう。


「…なるほど、大変だったんですね。でも、本当に有難ありがとうございました。大和田さん…いや、道玄どうげんさん。」


 昨日まで2人でさびしく囲ってた食卓が、異常な程、にぎやかになったのは言うまでもない。


「しかし、道玄さん、なぜ俺があの廃墟のホテルの外壁に、行ったって分かったんですか?あなたが眠ってる間に、そっと玄関を出たのに。」


「ああ、あれは、実は儂は眠ったフリをしてただけで、怒鳴どなった声も聞こえてたし、薄目で、すぷれーかん?とかいう物も、上着のふところに大切そうに入れてたからな。お主は。まるで儂の「越中則重えっちゅうのりしげ」のように。だからじゃ。」


「あと、最初の出会いのとき、ぶつかりそうに、あやうくなりましたけど、あの時はまさか…。」


「その、まさかじゃよ。お主が前屈まえかがみになってくれたのも有るが、跳躍して頭上を越えたんじゃ。」


 やはり、黒岩などとは身体能力が、違い過ぎると少年は思った。


「これから、道玄さんはどうするんですか?」


「取りあえず、元の時代に戻っても、盗賊をするだけじゃろうから。しばらくはこの時代に厄介やっかいになることとするわ。帰り方も分からんしな。あの廃墟のの玄関に入っても、何も起こらんかったし、お手上げじゃ。入道にゅうどうでもして菩提ぼだいとむらおうかと思うわ。」


「じゃあ、丁度良ちょうどいいですね。」


「・・・なにがじゃ・・・?」


「道玄さんは頭がもう僧侶そうりょじゃないですか。」


「なるほど、お主、上手い事言うな!!」


 全員がどっとお互いの顔を見ながら、笑いあった。


 三人の楽しい夕食は深夜まで続いたのであった。



                  ― 了 ―
































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道玄坂アウトロー『カクヨムWeb小説短編賞2022』参加作品(エンタメ総合 部門) 田渡 芳実 (たわたり よしみ) @ruasu50

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