第10話 正体

 黒岩の質問には答えず、


和主わぬしたちの様な、平和な時代でぬくぬくと生きてきた、者とはわけが違うわ。和主、黒岩とか申す者、もう弱冠じゃっかん(20才)よりも而立じりつ(30才)に近い年齢じゃろ。そのような年まで、こんなことをしとるとは情けない。わしら十三、四歳で大将首を取った者などいくらでもおるのに。」


 よく見れば、年齢は不惑ふわくに近く頭は確かに青く無く、赤いのでっているのではなく、禿げているのだろうが、総身は鉄片てっぺんを叩きこんだような筋肉である。                 

       


 「おい、アレを出せ!!」


 黒岩が側近のキャップの男に、何かを要求した。


「あれですか・・・、わかりました!!」


 近くのギターケースから、黒い一本の棒を取り出した。


「・・・なんだ・・・!?」


 大和田とキョウヘイが怪しい視線でにらむ。


「フフフ・・・これはスタンガンの中でも最強クラスのショックを与える、代物でな。さっきの女が持ってたのとはわけが違う。20万ボルトで触れただけで金属バットで殴られたような衝撃がくるんだぜ!!」


 舌なめずりしながら、黒岩が大和田に近づいていく。


 その棒状のスタンガンの長さは1メートル弱は有るだろう。



 それに対して、大和田のもつ「越中則重えっちゅうのりしげ」は。九寸五分くすんごぶの名の通り、約30センチほどである。


 間合いは、黒岩の方が有利であり、加えて五尺五寸(約167センチ)の大和田に対し腕のリーチも、巨体の男にとってプラスである。


 黒岩が間合いに入ったと、思って黒い、禍禍まがまがしい得物を振り落とした、が石火の早業で、「縮地歩しゅくちほ」という下半身を前に出し、上半身をのけ反らせ、距離感を錯覚さっかくさせ、先に不良グループのトップに攻撃させたのである。


 更に、宮本武蔵みやもとむさし顔負けの「一寸の見切り」で皮一枚でかわし、耳の下をしたたか「則重のりしげ」のみねで打ちえた。


 黒岩の脳に一瞬、頸動脈からの血流が止まり、彼の視界は完全に暗転あんてんした。


 巨木が倒れるように前のめりに倒れてきた、彼を大和田は肩で扶助ふじょし、抱えるようにゆっくり地面に寝かせた。


「儂の正体はもう和主が言っておるよ。儂の正式な名は,『大和田太郎道玄おおわだたろうどうげん』・・・道玄坂どうげんざかの名の由来のようじゃ。」


 ボストン・レッドソックスのキャップの男がスマホで検索を掛けると、鎌倉時代、道玄という盗賊が出没したところからの名と伝える。と、発見した。


 キャップの男は目深まぶかにかぶっている状況からも、明らかに顔色が蒼褪あおざめ、そのページをスマホごと、健在してる仲間に見せた。


「なにい!!?なんで鎌倉時代の盗賊がここに!!??」「じゃあ、奴は幽霊かなにかか!!?」


かく、黒岩さんがやられたんだ!!ずらかるぞ!」「ああ、そうしよう!!」


「…知らねーよ!!、今。流行りの異世界転生じゃね!?」


 キョウヘイは不敵ふてきな笑みとともに、嫌味いやみを言ってやった。ざまあみやがれだ!!


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