第9話 乱闘

 眼をつむって頭を抱え込んだまま、孤独な少年は、うずくまっていた。


 しかし、絶対に来るはずの理不尽な暴力と、それにともなう激痛が襲ってこない。


 周辺を見渡すと、黒岩の手下が何人も倒れていた。


「誰だ!!?てめえは‼ハゲオヤジのくせに!!」


 大男の声が飛散していた。


「安心せい。皆、峰打みねうちじゃ。…誰だと!?誰何すいかするなら、まずみずから名乗るのが道理じゃろう。しかし、この火付け石を摩擦で着火する、?だかは、難しいのう。猪肉ししにくが焼けづらいわい。」


 キョウヘイが声の主を見ると、あの藍色あいいろあわせを着た、時代がかった言葉をしゃべる、中年男性であった。


「あ、あなたは!!なんでここに!??」


「なんなんだてめえは!ようし名乗ってやる!!聞いて驚け!!俺達はここ、渋谷・道玄坂どうげんざか界隈かいわい牛耳ぎゅうじる、ギャンググループ「セブン・キングス」のメンバーで、俺はそのリーダーよ!!」


 周囲数百メートルの人間の鼓膜を動揺させるような、かねのような大音声であった。


 和服の中年男性は黒岩の、長広舌ちょうこうぜつの途中で、一瞬ライターを着火しようとする、手が止ったがまた、先程と同じように動かし始めた。


「よし、名乗ったな。わしの名は大和田という。」


「大和田さん、あんたはここに来る必要は無かったんだ!今からでも遅くない!帰るん・・・。」


「気にするな!!こんな鉄火場てっかばとも呼べぬ、ぬるい生き方はしてこなかっんじゃ。儂は。」


「なんだお前は、変なしゃり方しやがって!!そんな偉そうに聞くから、大層たいそうな奴かと思ったが、ちょっと珍しい名前なだけで、別に聞いたこともねえぞ!!ハゲオヤジ!!」」


「…無知とは怖いものじゃな…!」


 背後から一人、ヒップホップのダンサーのダボダボの服を着た、中分けの男がかしの木刀で、近づていき、やにわに中年男性の頭蓋骨ずがいこつ目掛けて、振り下ろした!!


 しかし、大和田は懐から、「越中則重えっちゅうのりしげ」の匕首あいくちを、紫電一閃しでんいっせんさせ木刀を真っ二つにして、裏拳を中分けの男の鼻頭はながしらに炸裂させ、昏倒こんとうさせた。


 さながら、サーカスの軽業師の如き、太刀捌たちさばきと身のこなしであった。


 それを目にした、黒岩は戦慄せんりつし、


「お前は一体何者なんだ!?その身のこなし、只者ではあるまい!」


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