第6話 危機

 またスマホが鳴り、充電器のコードを付けながら、キョウヘイは一瞥いちべつする。どうせアイツだろう。


「…お主、さっきからその手文庫てぶんこ(手近において文具や手紙などを入れておく小箱)みたいなものを、しきりに気にするな。」


(手文庫??ああ、文庫本のサイズって事か??)


「まあ、嫌な奴から連絡がきてるだけですよ。少し経ったら返信しますから、気にしないで下さい。」


「ああ、そうか。得心とくしん(十分に承知すること)したわ。」


「…あの、さっきからずっと気になってるんですが…。」


 キョウヘイは勇気を振りしぼって切り出した。


「なんで、大和田さんは時代劇みたいな口調なんですかね?」


って何じゃ?」


「あ、もういいっす。」


「いや、しかし今日は贅沢三昧ぜいたくざんまいさせてもろうとるわ。儂は本当に果報者かほうもの(しあわせもの)じゃて。お主に出会えてよかったぞよ。キョウヘイ。」


 何故なぜか良く分からないが、こんな当たり前の事をしているだけなのに、満足されて有難ありがたがられてることはこの孤独な少年にも理解出来た。


 鯨の形のクッションに、毛布を掛けて大和田は居眠りをし始めたので、キョウヘイはスマホのLINEを確かめた。


【五万で良いから今日の夜八時に、道玄坂のいつもの所に持ってこい 黒岩】


「ふざけんな!!クソ野郎!!」


 あっと思った。つい怒りに我を忘れて声に出してしまったのだ。しかし、正体不明の中年男性の方を見ると、いびきをしている。


(危ねえ!起こすところだった・・・。)


 とはいえ、金額は半減したとはいえ、上納金じょうのうきんの期限が今日の夜になってしまった。


 金をりるあてもない。


 どうしたものか。

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