第5話 家の中

「おお、ここがお主の家か随分、豪奢ごうしゃな所に住んでいるんだな!!」


 キョウヘイはまた、眼を丸くしている。


「・・・どこがですか。誰がどう見てもオンボロアパートでしょ。」


 玄関の鍵穴を回し、扉を開け「どうぞ」と大和田に言い、そのあとをキョウヘイがついて屋内に進入する。


 2階建ての木造で2LDKの、間取りであった。


 キョウヘイの家は母子家庭で母が女で一人で彼を育てた。ゆえさびしさをまぎらわすために、ドロップアウトして不良の連中とつるんでいったのは、想像に難くない。


 今は彼女は付近の、コンビニでパートをしている時間だ。


「大したものは無いけど、そこのくじらのクッションに腰を開けたら?ケツが痛くないですよ。」


 「…ほう。これが鯨か…。」


 と、言うと大和田は黙ってしまった。


「今、お茶とお菓子でも出すから。」


「構わんで結構じゃ。・・・しかし、鯨とはこんな形をておったのか。」


 感慨深かんがいぶかく、ひとりごちた。


(相変わらず、わけかんねえ、オッサンだな。)


 と、キョウヘイは思ったが、良い退屈凌たいくつしのぎの相手が出来たのと、寂しさまで解消できて嬉しい部分も多々あった。


「しかし、さっきのマックとか言う食い物は、途轍とてつもなく美味うまかったのう。あれなら、あの猪を逃しても気にならんくらいじゃ。まあ、量では全くかなわんが。」


(100円より最近チョット高いといっても、ジャンクフードをおごっただけでこれだけ、喜ぶのもみょうなんだよな。)


 と思いつつ、台所で緑茶を2杯淹れ、、チーズ味のエアリアルを、小皿に2つわけ、大和田の居るリビングに、ゆっくりと持って行った。


「ほほう、これは出涸でがらしでも、結構なのにそのまま飲んで良いのか、こちらの茶菓ちゃがはううむ、岩塩がんえんがふんだんに使われてないか?物凄い素封家そほうか(金持ち)なのだな、お主の家柄は。まあ、苗字がある時点で名のある武家なのであろう。…しかしな。」


 少年は、辟易へきえきしながら鸚鵡返おうむがえしに


「…しかし?なんですか?」


 と聞き返した。


わしいおりを結んでいる三角州には、川魚が豊穣ほうじょうでな。下手な川漁師、顔負けに儂もやすで突いたり、糸を垂らして釣ったりしとるので4日に一度は魚が食えるのだ!!」


 上気じょうきして自慢げに言った。


「4日に一度か。うらやましいですね。魚はそれ位の頻度が良いですよね。」


「そうじゃろう。羨ましかろう。おかげで滋養じようがついて、儂はいつも元気一杯じゃ。」


(・・・・・・。)


奇妙な沈黙が流れた。

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