第22話 【八回ウラ】思わぬ助っ人

「負傷退場なんてイヤだ! オイラは、まだやれる!」


 控室で、レザンが暴れている。その腕には、痛々しい包帯が巻かれていた。


「でも、あなたのケガは治癒魔法では間に合わないレベルだわ。大事を取ってもらわないと」


 チームリーダーのオランジェが、レザンをなだめる。


「腕がなくなってもいい! 今はピンチなんだろ!? オイラがやらないと!」


「一人の選手が犠牲になって成り立つ勝利なんて、このメンバーの誰も望んでいないわ!」


 オランジェが、駄々をこねるレザンを黙らせた。


「そんな形で勝利を手に入れたって誰も喜ばないわ。それは、あなたが一番良くわかっているはずよ!」


「う……」


 それでも、レザンはあきらめきれない様子だ。


 治癒魔法と言っても、一時的に傷を塞いだり骨をつなげたりするだけらしい。治療院と呼ばれる場所で、適切な処置を受ける必要があるという。


「なんとかならないのか?」


 オレは、魔王ラバに助言を求めた。


「……奥の手を、使うしかあるまい」


 ラバが、腰を上げる。


「勝利を確実にするため、選手を交代させるぞよ。二人」


 二本指を立てて、魔王が宣言した。


 レザンが、うつむく。


 魔王が、マントヒヒとゴリラを呼び出した。


「なんザマしょう、お嬢様?」


「お前の力をあの子に、レザンにやれ」


 うつむいていたレザンの頭が、上を向く。


 魔王に呼ばれて、マントヒヒがレザンの腕を取る。


「承知したザマス。ワタシは野球では対して役に立ちませんでしたザマスから。お役に立てて何より」


 マントヒヒが、レザンの手に自分の手を添えた。


「ワタシの全パワーを送り込むザマス」


 それで、残りのゲーム回数分はもつだろうとのこと。


「でも、あんたは」


「別にワタシは死ぬわけじゃないザマス。召還獣ザマスからね」


 この試合中には、マントヒヒを呼び出せなくなるだけだとか。


 マントヒヒの霊圧が、消えた。


「手を動かしてみるがよい」


 レザンが魔王の言うとおりにすると、手が元に戻っていた。


「ありがとう、魔王!」


 これで、レザンの方は大丈夫なようだ。


「オレからも礼を言う。マントヒヒにも、ヨロシク言っておいてくれ」



「うむ。あやつも役に立てて喜ぶだろうて」


 魔王が「さて」と、腰を上げた。


「ゴリラの方には、もっと大事な用事がある」


「フンガー」


 魔王とゴリラが、綿密な打ち合わせをしていた。


「ですが、次の打席はマントヒヒさんですわ。打者はどなたになさって?」


「そんなの決まっているだろう」


 なんと、魔王がヘルメットをかぶる。


「余、自らが出る」


「冗談でしょ!? あなたにバッティングの能力なんて」


「見ておれ。ゴリラ」


「フンガー」


 ゴリラが光となって、魔王の体内に吸収されていった。



「今のは?」


「まあ、ベンチで見ておるがいい」


 魔王が、バットを持ってボックスに立つ。


『ああーと! なんと八番打者は魔王です。魔王ラバナーヌ自らが、バットを握っております。選手表を受け取りましたが、レザン選手の治療に際して、選手交代があったそうです。とはいえ、魔王はマネージャーではありませんでしたか? 一応、控えの選手として登録はされておりますが』


 ナメられたと思ったのか、パステークが怒りをあらわにする。


 どうせ打てるわけがないと、甘い球が放り込まれた。


 だが、ラバは初球すらも見逃さない。


『なんということだ! 非力と思われたらラバナーヌ選手、ソロホームラン! 本試合初ホームランは、マネージャーの魔王ラバナーヌから! これで同点! 勝負はわからなくなってきた!』


 興奮するラジオが流れる中、魔王がホームベースに帰還した。


「魔王様、なんなのあれは!? 反則です!」


「いや。反則などしておらぬ。余は、ゴリラから腕力と、あのドラゴンの戦闘データを手に入れただけぞ」


 それを、反則っていうんだがな……。


「それにもう、余は疲れた。守備はポンコツ化するゆえ、期待するでない」


 続くランナーで追加点と行きたかったが、そうもいかない。レザンお得意のセーフティーバントも対策され、勝負は九回までお預けとなった。


「ここからは、本気を出し放題、って言っていたな」


 最悪、なんでもありなルールになると。


 ただ、できるだけフェアプレーにはなるだろう。


「ですが、相手チームはドラゴンという隠し玉を出しています。恐れるのはパステークさんと、強打のシトロンさんでしょう」


 九回は、シトロンにまで打順が回ってくる。あの強打者さえ止められれば。


「ちょい待て! 守備も足りねえ。ゴリラの穴はどう埋めるんだ?」


「は? 交代選手なら、おるではないか。目の前に」


 えっ? なんでオレを指すんだ?

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