第三球 遅れてきた魔王たち

第21話 【八回オモテ】 ドラゴンスイング

『さて、八回のオモテ、ノーアウト一塁に対しまして、バッターはドラゴンとなったパステーク選手』


 ペシェも完璧には仕上がっていない。ランナーを一塁に出してしまった。


『DH、代打は出しません。勇者パステーク選手、自分で打ちます。さあドラゴンのパッティングはいかなるものか?』


 この世界の生物で最強を誇るドラゴンを相手に、ペシェはどう出る?


 会場は、これまでにない盛り上がりを見せていた。よほど、自信があるのだろう。


「長打に気をつけないとな」


「うむ。長打で済めばよいのだが」


 魔王ラバは、不安に包まれているようだった。


 オレはいつもと変わらず、チェンジアップを指示する。


『第一級投げた。ややスロー目のチェンジアップで、まずはワンストライク』


 なんて、スイングだ? 風圧で、ボールが飛んでいきそうだったぞ。


『続きまして、二球ほどボールが続きました』


 返球を受け止めて、ペシェがオランジェに指示を仰ぐ。モメているのか、何度も首を振っていた。


「タイム」


 一度、試合を止める。


「どうした、ペシェ」


「あのドラゴンと、勝負させてくださいませ」


 ペシェの発言に、オランジェが食らいつく。


「ダメよ! 貴重な一勝がかかっているのよ! 勝負なんでできるわけないわ。いつもどおりに戦ってちょうだい」


「ですが、ここで戦わなければ、一生後悔しそうですの」


 悲痛なペシェの気持ちはわかる。


 オレだって、勝負させてやりたい。あんな全力で、相手は来てくれているんだ。一度くらい、本気の投球で挑んだっていいと思う。


 しかし、この場は一点も相手に渡せない。点を取られたら、巻き返せるかわからないのだ。ここは、勝負すべき場面ではない。


 個人の主義を取るか、チームのためにガマンしてもらうか。


「やれ、ペシェ! 次はストレートだ!」


「はい!」


 オレが指示を送ると、オランジェが反抗してきた。


「ムチャよ監督! ここは絶対に落とせない局面でしょ!?」


「だからだ。責任は、オレが取る」


 フルカウントまで粘れと伝えて、ペシェもそのとおりにする。


『さて、スリーボール、ツーストライクのフルカウント! ペシェ選手が投げた。ストレートだ!』


 待ってましたとばかりに、ドラゴン・パステークがバットを振った。


 ドラゴンの持つバットに、ボールがヒットする。


「やばい。フェンスを超えちまう!」


 だが、ボールははるか左へと流れていった。


「ファール!」


 オレと魔王が、ホッとため息をつく。願わくば、ファールフライで打ち取りたかった。ペシェも、悔しがっている。オレと同じ気持ちだったらしい。


「次は打つよ!」


 ドラゴン・パステークが、本気でバットを構える。


 今度は、当てられた。


『あっと、これは大きいセンター前! ピッチャーの頭上を抜けてスコアボード一直線!』


 あのまま行けばホームランで、二点を入れられる。


「勝負は、ボクの勝ちだね」


 呆然とボールを見送るペシェの横を、ドラゴンが通しすぎていく。


 だが、ホームランを許さない選手がいた。


「ゴリラ、オイラを投げ飛ばせ!」


 レザンだ。彼女はまだ、あきらめていない。


「フンガー!」


 ゴリラに身体を投げてもらい、レザンは上空でボールを掴む。


「あっと、キャッチした! フライです! レザン選手が全身で受け止めて、犠牲フライ扱い!」


「なにい!?」


 一番驚いていたのは、勝負はついたと思ったパステークである。


 しかし、ボールの勢いが強すぎた。レザンは吹っ飛ばされる。


「やばあ!」


 フライ扱いにはできたが、あのままではフェンスに激突だ。


「任せて!」


「レザンしっかり」


 ハーピー姉妹が、クッションになってくれた。どうにか、直撃はまぬがれる。


 続いたバッターをペシェが三振で討ち取って、いよいよ八回のウラへ。


『さて、ドラゴンとなったパステーク選手のフライを受け止めるという、ファインプレーッ! 一点に抑えました。ですが、一点を取られて三対二。スリーズ学園が優勢となりました!』


 ここで、アクシデントが起きる。


 レザンの腕が、折れていたのだ。

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