第23話 【九回オモテ】 オレはゴスロリがユニフォーム

『さて、魔王立野いちごフワンボワーズ学園対聖さくらんぼスリーズ女学院の試合も、九回を残すのみとなりました。とはいえ両チーム、手札をほぼ出し切っています。どう出るのか?』


 ライトではマントヒヒ召還獣の代わりに、魔王ラバナーヌがあくびをかみ殺す。本当にさっきのホームランで、すべてを出し切ってしまったのだろう。


『サードの選手も、変わったということですが……あーっとぉ! なんということだ!? サードのゴリラ召還獣選手に変わって、イチゴー監督です! 皆さんご覧ください。あの小さい寸胴体型の少女を! あれが、イチゴー監督が魔法で女性に変えられた姿だそうです!』


 人数がいないなら、監督が入ればいい。その理屈で、オレは女体化させられ、試合に参加している。服までゴスロリユニフォームに、着替えさせられて。


「こんなの聞いてない! 反則って取られたらどうするんだ!」


 ライトにいる魔王に、オレは抗議した。


「ちゃんとメンバー表には控えの選手として登録しておる! 『謎の美少女サード、イチゴちゃん』として!」


「はあ!?」


 名前まで変えられるとは! 


 マジか。メンバーとして戦うのは百歩譲ってよしとする。しかし、少女の姿に変えられるとは。


「よいよい。そのうちクセになる」


「いらん!」


 悪夢なら、とっとと終わってくれ。


「ほれみろ! 相手チームが審議を要求しているじゃないか!」


 すごい剣幕で、シトロンが審判に噛みついている。あれはいいのかと。


 約五分ほど、試合が止まった。ピリ付いた空気が、会場に漂う。


 女性審判からボディチェックを受けながら、オレは物言いが終わるのを見守った。


 男性の審判長が、マイクを持つ。


『えー先ほどスリーズ女学院から、男性が内野に立っていいのか、という物言いがありました。ボディチェックの結果、相手選手は正常であり、選手表にも事前に名前が記載されていることを確認しました。よって、選手として登録していると見なします!』


 厳選な審議の結果、試合は続行となった。


 観客席から、歓声とブーイングが交互に飛んでくる。


 悪い空気は続く。


 試合の方も、ワンアウトながらランナー一塁のピンチになった。三遊間に飛んできた球を、オレが一塁に悪送球してしまったのだ。


「身体が馴染んでないんだな。すまん」


 男の状態だったら、うまく投げられたかもしれない。自分の身体能力を、過信してしまったな。


「気にするな。取り返していこう」


 ムロンに励ましをもらう。


 そこから相手も、バント作戦にスイッチした。こちらのエラーをチャンスと見て、意地でも点を取りに来ているらしい。


「次から次と、妙な動きをなさるのですね!」


 逆転のランナーを抱えたまま、現れたのはシトロンだ。本日絶好調である。


「ですが、お身体はまだ慣れていないご様子ですわ……ねっ!」


『あっと打った! これは大きい!』


 しかし……。


「チンパン止まれ! ポワール! お前の前方に飛んでいくぞ!」


 

 二塁からライト前に走るチンパンを止めて、ポワールに前へ走らせる。


 やられた。ホームラン狙いじゃない。初めから犠牲フライが目的だとは。


 そうか。点を取れたらいいんだ。犠牲フライだろうと狙ってくる! うまく落ちてくれれば、センター前ヒットだ。

 

 もしや、やる気のない魔王のいるレフト前を狙ったのか?


 センター・レフト間は、ポワールがポムのいるライトに寄っているから、ガラ空きだ。


 ペシェの得意球が【遅いチェンジアップ】だと見越して、ホームランを捨てたのだろう。


 シトロンもオランジェと同じで、本来は自分を捨てて点を取りに行くタイプだったらしい。どこまでもシステマチックな野球をする。


「おっとっと。よし」


 ようやく、ポワールがボールをキャッチした。犠牲フライが成立する。


 じれていた三塁手のギアが、トップになった。こいつ、足の早いタイプか。


「こっちだポワール!」


「ほい」


 ポワールが放り投げた球を、ホームへ返す。


 相手チームのランナーが、足から滑り込んで帰塁してくる。


 あわや接触という危ない場面だが、はたして……。


「アウト! スリーアウトチェンジ!」


 オランジェが、選手の足を見事に抑え込んでいた。これで二対二の、同点で九回へ。

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