第18話 【六回ウラ】追加点をもぎ取れ

 スリーズ学院がタイムを出してきたので、フランボワーズも集合する。


「監督、当たりましたわ!」


 子どものように、ペシェがはしゃぐ。


「よくあんなの打てたな、ペシェ」


「相手ピッチャーさんがヘバッている上に、スッポ抜けた球をジャストミートできましたわ。運がよかっただけですの」


 勇者パステークといえど、バテ始めているようだ。


「はあはあ、身体が熱いよ」


 なんと勇者パステークが、おもむろにに脱ぎだす。


「ちょっとパスさんっ! 人前で脱いではいけませんっ!」


「だって、熱いんだもん!」


 勇者のスポーツブラから、胸がはち切れそうだ。それより、あの湯気はなんだ? スチームサウナみたいになっているぞ。


「殿方もいらっしゃるのですよ!?」


 シトロンが、一瞬オレを見る。直後、タオルで勇者の胸を隠す。


 といっても、オレには湯気でまったくといっていいほど見えないのだが。


「シャワーしたい。シトロン、水の魔法かけてよ」


「この回が終わってからになさい!」


「人の目なんて、どうってことないよ! だってボクは普段からハダカなんだし」


 マジか!? あのボディで全裸とか、犯罪的だ。


「あなたはよくても、周りが恥ずかしいのです!」


 どうやら、服を脱ぐ脱がないで口論になっているらしい。


「じゃあ、そろそろ本気出していい? 相手はオランジェくんだし」


「まだです! 九回までですよ! それまでは、力を温存なさい!」


 手から水を出して、シトロンは勇者の頭だけに水をかける。


「はあい」


 シトロンに諭されて、勇者パステークは引き下がる。


「これまで無失点で牽引していたチームにも、ほころびが出たわけか」


「そりゃあそうよ。ウチは全員野球よ。でも相手側は、実質二人だわ。疲労感が段違いよ」


 向こうはパステークのサブマリンと、シトロンのホームランに頼っている。あとは特に警戒しなくてもいいだろうとのこと。


「勇者はムロンさんのような、二刀流ではないようですわ。シトロンさんまでは、危なげなく抑えられると思いますの」


 とはいえ、打者としての活躍はこれまでだと、ペシェは自己申告する。


「よくやった。後はチームに任せよう」


 とはいえ、勇者にはまだ隠し玉があるようだ。本気を出せなくて、イラついているのか。


 なにが起きても、おかしくはない。


 先頭打者のチンパンが送りバントでワンアウトになり、続くレザンがセーフティバントで一塁に。

 オランジェの言う通り、全員野球でペシェを援護する。


「オヤジィ、『スライディングでオレの股に飛び込んでこい』って指示は、どうかと思うぞ」


「そんな指示、出してません!」


 オレのサインは正確ではあるんだが、副作用が強すぎるなぁ。


『ここまで二人連続バント。さて続きまして剛腕オランジェ選手だ。いまだそのバットは、グラウンドに響いていません』


 たしかにオランジェは、ドワーフにしてはパワーに欠ける。器用さに極振りしているのだろう。


「だからここは……」


 オレは、オランジェにサインを送った。


「えっ!?」と、オランジェが赤面する。


 なにを、そんなに焦る必要が? また変な妄想を受信したか?


『さて、勇者パステーク選手の第一球。あっと初球打ち! スクイズ!』


 打つ姿勢だったオランジェが、急にバントに構えた。


 ペシェが生還して、これで同点に。


 スクイズ……バントで走者を送って、追加点を勝ち取ったのだ。


 もともと、オランジェは打つタイプではない。

 練習でわかったが、彼女は全体を見回して何が最適解なのか分析する打者だ。

 強打で自分が目立つより、チームの勝利のために自分の仕事を優先する。

 ムリな勝負はしない。


 だが、レザンは二塁に残留する。追加点までは取れない。さすがにシトロンに読まれたか。


「ナイスプレイ、オランジェ」


「は~あっ」


 ハイタッチの用意をしていたのだが、オランジェの手は自分の頬から離れない。


「監督、あの指示はちょっと」


「またか。なんて読み取ったんだ?」


「『オレの金属バットを、ハーモニカみたいになめろ』と」


 なんて指示を送りやがったんだ、サイン中のオレは!

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