第17話 【六回オモテ~ウラ】ホームランを阻止せよ

「姉さん!」


 ポワールが、中腰になった。


「あいよ! それ!」


 ポムが、ポワールの肩に乗っかる。


『あっと、外野手センターとライトが接触か? 違う、肩車です! ナイスなコンビネーションだ! さすがチア出身!』


 あんな技、いつ覚えたんだ? オレは教えてない。


「持ち上げる、せーの!」


「ほっ!」


 中腰の状態から、ポワールが立ち上がった。


 その勢いをもらいながら、ポムが羽を広げて上昇する。大きく手を伸ばし、ボールを捕らえた。


『間に合いました、ハーピー姉妹。これはフライとなりますでしょうか……ああっ!』


 ボールは、グローブからこぼれた。


「しまったよ!」


「姉さん」


 ポワールもフォローに回るが、対応が遅れて落球する。作戦が失敗し、動揺しているようだ。


 ホームランは阻止した。だが、ヒットにはなるだろう。


 一塁にいたランナーが、ホームベースを踏んだ。これで、一点を返される。


 さらにランナーが帰って来た。このままでは、追加点を与えてしまう。


 そう思われた。


 小さな影が、こぼれ球をキャッチする。レザンだ。いつの間にライト前まで。


「でも、間に合わないぞ!」


「任せろオヤジ!」


 まだレザンは、あきらめない。


「はあっ!」


 自分の肩が弱いと見越したレザンは、なんとボールを持ちながら三塁へ垂直跳びした。


 ボールより早いのかよ、コイツの足は。


「頼む!」


「フンガー」


 レザンは三塁手の魔王ゴリラに、ボールを託した。


 ゴリラの強肩から、大砲のような速球が放たれる。このために、三塁手はいるのだ。


 オランジェが、とんでもない速度のボールを難なくキャッチした。滑り込んできたランナーを抑える。これがドワーフの足腰か。危なげがない。


「スリーアウトチェンジ!」


 だが、さしものオランジェでもギリギリだったようだ。地面にへたり込んで、しばらく動けなくなる。ペシェの肩を借りて、ようやく立ち上がった。


 六回のウラへ。


「ごめーんペシェ!」


 戻ってきたポムが、ペシェに詫びる。


「いえ! ナイスプレイですわ!」


 そうだ。ポムが抑えてくれなかったら、ホームランだった。満塁の走者が一掃され、絶望的な局面になっていたのである。


「レザンさんも、ありがとうございます。あの俊足があったからこそ、一点だけで抑えられました」


「でも一点取られたじゃん! どうすんだよ!」


「それは、みなさんで取り返しましょう」


 ペシェは、成長したなと思う。普段のペシェなら、「自分がなんとかする」と言っていただろう。自分で全部背負い込んで。


 その気迫を、チームも感じているようだった。


『さて六回のウラ、勇者パステークがマウンドに立ちます。得意のサブマリンの調子はまだ健在。対抗するフランボワーズ、最初のバッターは投手のペシェ選手。おや? 打ちに行く様子です!』


 たいてい、ピッチャーの打撃は適当である。先頭打者に回せばいい。しかし、ペシェは気合が入っているようだ。


 気合が、から回っているのか?


「ペシェ、無理すんなよ」


 心配になり、オレはペシェに声をかける。


「いえ。わたくしにも考えがありますの」


 投手として、勇者のサブマリン投法に対策を練っていたわけか?


 しかし、これまで打者は一点を取ってから、ずっと五回まで凡退でヤラレている。


 ピッチャーが打てるのか?


 背筋をシャンと伸ばしながら、ペシェはバッターボックスで投球を待つ。高め狙いか?


「舐めるんじゃ、ないよ!」


 力んだ状態から、勇者が球を放つ。


「ヤバイ、しくった!」


 勇者が苦い顔をする。


 変な方角へ、サブマリンが浮かび上がった。甘い球のようだ。


「しくじりましたわね!」


 そんな球を見逃す、ペシェではない。バットの芯に、見事ボールを当てる。


『あっと! 打ちました! ライト前ヒットです! ペシェ選手一塁へ!』

 

 なんと、ペシェが一塁に出られた。

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