第16話 【六回オモテ】 強打者シトロン

 わがフワンボワーズは、魔王城を寮にしている。


 ハーピーのイベール姉妹は、親から寮生活を反対された。しかし、魔王の説得によって事なきを得る。学生生活のうちは、自分たちのやりたいことをさせるよう約束させた。魔王の言葉とあったら、さすがに反対できなかったようである。


「じゃじゃーん。ポム特製のアップルパイだよー。めしあがれ」


「姉さん、お料理の寄り分けが先。きょうの料理はポトフとじゃがいものガレット」


 ポワールの作ったガレットは、お好み焼きかチヂミのようなクセになる食感だ。そば粉を使っているためか、風味もすばらしい。


 アップルパイは、ジューシーで酸味も効いている。


 といっても、二人はメイド服がお気に入りのようだが。妹のポワールは古風なメイド服なのに対し、ポムはミニスカだ。


「それでさー、イチゴー監督ちゃん。ウチらはどこへ配属されるん?」


 あ、ポジションの話か。


「ポムはライト。ポワールは、センターに入ってくれ」


 二人は、外野手として起用する。


「ライト?」とポムが、「センター?」とポーワルが聞き返してきた。


「共に外野手だ。ライトは右翼手。センターは中堅手だな」


「イチゴー、ホワイトボードを召喚しようぞ」


 魔王ラバが、ホワイトボードとペンを出す。口で説明しても、二人にはわからないと思ったのだろう。


「グラウンドがこうあるとする。二人のポジションは、こうだ」


 絵で見せてあげると、二人は軽く絶句した。


「結構離れてんじゃん!」


「これでは、抱き合えない」


 そっちで戸惑うのか。


「だが、二人のコンビプレーが活かされるのもここだ。よろしくたのむ」


 

―――――――――◇ ◇ ◇―――――――――


 

『さて盛り上がってまいりました、野いちごフランボワーズ学園対聖さくらんぼスリーズ女学院。六回オモテ! 八番が打ち取られてワンアウト。続きまして、ピッチャーのパステーク選手がバッターボックスへ。ここはフォアボール』


 歩かせたかったわけじゃない。ペシェはやはり疲れているようだ。

 肩に負担はかかっていない。

 おそらく、精神面で追い詰められている。


「タイム」


 オレは、試合を止めさせてもらった。


「ペシェ、平気か?」


「ええ。計算のウチですわ」


 顔や口調では、ペシェは余裕を見せている。しかし、疲れやプレッシャーに押しつぶされそうなのは目に見えていた。


「油断するなとは言わん。だが、ムリはするなよ。いざとなったら、ムロンに交代してもらう」


 元々相手チームだったムロンは、おそらく対策されている。それでも、まだ数ヶ月時期が開いた。ほぼ別物のピッチャーに、仕上げたつもりだ。


「おまかせを。手間は取らせませんわ」


 とはいえ、満塁のピンチに。三番は意地で抑えたが。


『現在ツーアウト満塁です。この状況で現れましたバッターはこの人! スリーズ学園の主砲、四番のシトロン選手!』


 ペシェの疲労が溜まっているときに、この剛腕打者が相手か。


「五回オモテではおとなしかったが、そこからペシェは五番に打たれておる。自分の打順を犠牲にして、ペシェの球筋を読んだ可能性があるのう」


 魔王が、状況を分析した。


「だな。そろそろチェンジアップが通じなくなってきたか」


 ここで打たれたら、逆転である。最悪、ホームランで一気に四点を取られてはヤバい。


 とはいえ、こちらも想定済みだ。「絶対に打たれないカーブ」を封じただけで、ペシェのスタミナ温存はできている。まだまだこれからといっていい。


 ボールカウント三ボール、二ストライクの場面まで、追い詰める。


 オレは、勝負しろとサインを送った。


 例のごとく、ペシェが赤面する。なにか変な電波を、受信したのだろう。


 ペシェが振りかぶって、ストレートを投げた。


 待ってましたとばかりに、シトロンがボールに食らいつく。


 金属バットの音が、ホームランを予感させた。


『打ったーっ! これは大きい! ライトを抜けていきそうだが……ああっと!』


 ハーピー姉妹が両方、ライト前まで集結する。

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