第15話 ハーピー、加入!

 こんなわずかな仕掛けを見抜くとは、さすがドワーフである。


「おっさん、これはどういうことか、説明してもらえないか?」


 オレは、サーカスの支配人を引っ張り出して、問い詰めた。


「なんのことかな?」


「とぼけるな。ここにいる観客全員が、証人だ」


「フン! 証拠はあるのか!」


 支配人はとぼけている。


「あるよ!」


 ピエロの一人が、急にしゃべりだす。


「ボクの目は、ごまかせないよ!」


 意外な人物が、おっさんを縛り上げた。


 女ピエロの正体は、勇者パステークだったのである。


 ピエロが続々と、会場に入ってきた。


 彼女たちが手にしていたのは、サーカスの小道具だ。


「これ以外にもさあ、サーカスの団員にケガをさせる道具がいっぱい出てきたよ!」


 証拠を突きつけられて、支配人はとうとう観念する。


「ありがとね、イチゴー監督に、フワンボワーズのみんな。コイツは、ボクたちが懲らしめるからね」


 勇者は、支配人を連れて帰っていく。


「イチゴー監督、偶然とは言え、ご協力には感謝します。ですが、グラウンドでは敵なので、お忘れなきよう」


 渋々といった感じで、聖女シトロンも去っていった。


 一応、勇者って仕事もちゃんとするんだなぁ。


 

 後に、支配人は団員を保険に入らせて受取人を自分にしていたことが判明した。


 演舞だけでは、サーカスをやっていけなくなっていたらしい。


 支配人の使い込みも発覚して、サーカスは廃業となった。

 

「ほんとにありがとー、イチゴーセンセ。あのままサーカスにいたら、使い潰されていたよ」


「過酷な労働環境だったが、バイト代がいいから続けていた」


 ハーピーたちが、練習会場までお礼を言いに来ている。


「野球のメンバーが足りないって言っていたね? 手を貸すよ」


「バイト先がなくなったので、時間はたくさんある。でも、お金が欲しいからまた次のバイト先を探さないと」


 それまでは、協力してくれるという。


「そこまでして、どうして金が必要なんだ?」


「コスプレには、お金がかかるんだよー」


 サーカスの他に、二人はコスプレの読者モデルもやっているらしい。それで、衣装代などで出費が出っ張っているという。


「撮影は、月に一度しかない。その一度にすべてを掛ける」


「お前たち一応は、貴族だろ? どうしてバイトなんて」


 結構、スクールカーストの上位だったような。


「親からは、反対されてるんだー。コスより花嫁修業しろって、うるさくてー。ヤになるよねー」


 イベール家は魔物たちの中でも特にプライドが高く、家族間でも厳しいルールを設けているそうな。


「サーカスの仕事も、自分たちで取ってきた。結局世間知らずで、危ない目に遭ったけど」


 足元を見られたわけか。


 きっとあの支配人も、貴族を負傷させるリスクよりも、ふんだくれるというリターンを優先したのだろう。自分たちから入ってきたことが、アダになったか。


「では、マネージャー業を兼任してもらいたい。金は払うぞ」


 魔王ラバナーヌが、二人に提案してきた。


「ちょっと魔王ラバ、いいの? 学内で賃金の受け渡しは、NGよ?」


 オランジェが懸念するが、魔王は問題がないという。


「魔王が個人で、二人をメイドとして雇うには問題なかろう」


 なるほど。城で給仕として働いてもらうわけか。さすが魔王だ。


「メイドさん! やった。食いっぱぐれないよ」


「洗濯も料理も得意。その代わり、野球のメンバーになれと?」


 ポワールの質問に、魔王ラバはうなづきで答える。


「改めまして、ポム・イベールだよ。イチゴーのおっさん、よろしくね」


「妹のポワール。コンゴトモ、ヨロシク。イチゴーのおっさん」


 双子と握手を交わす。


「おっさんはないだろ」


 オレは、苦笑いをした。


「そうよ。イチゴーさんは監督として、来てくれているのよ」


 オランジェも双子を叱る。


「イチゴーのおっさんは、学校の先生ではない。わたしたちと同じ雇われ」


「うんうん。おっさんじゃん」


 たしかにそうだけど。


「じゃあねー。監督ちゃんで」


「監督ちゃん、よろしく」


 まあいい。



 こうして、二人は魔王のメイドとなり、野球のメンバーにも加入してもらえた。

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