第14話 ハーピーチア双子の副業

「ワタシたちチアは、会場だけではなく、選手も盛り上げる必要がある。だから、試合に集中するのは当然」


 饒舌に、妹のポワールは語り始めた。


「ごめんねー。この子、嘘つくとおしゃべりになるんだよー」


「ちょちょちょ、姉さんは余計なことを言い過ぎ」


「えへへー」


 茶化されたポワールが、姉を叱る。


 もしかすると、ポワールは案外素直な子なのかも知れない。


 ポワールが、腕時計を確認する。


「姉さん、お仕事の時間。帰らないと」


「そうだった!」


 いそいそと、ハーピー姉妹が帰り支度を始めた。


「仕事って、なにをやっているんだ?」


「サーカス団! 花形の空中ブランコをやるんだー。今度見に来てよ!」


 だったら、今すぐ見に行こうか。


 野球部の面々で、サーカスを見に行った。


 レザンはサーカスの演舞より、周囲の屋台の方が気になる様子だ。こっちで夕メシでもいいかもな。


「それにしても、あの姉妹の家って、そんなに財布事情が危ういのか?」


 観客席でピエロの演技を見ながら、オレはオランジェたちに聞く。


「イベール姉妹のこと?」

 

 オランジェが、返事をした。


 あのハーピー姉妹は、イベールという名字なのか。


「そんなことないわ。モンスターの間では、ハーピーは名門よ。お金には困っていないはずだわ」


「でも、サーカスなんて」


「貴族様のやることなんて、あたしたちにはわからないわ」

 

 ちげえねえ。



 メインイベントの、空中ブランコが始まる。


 ポムとポワールが、バニーガールのようなレオタード姿で現れた。離れたそれぞれの足場で、向かい合っている。


 背中に羽があるハーピー族だから、空中で落下しても平気だろう。そう思っていた。


 だが、入場した二人を見て愕然とする。


 二人は背中の羽を、包帯でぐるぐる巻きにされていたのだ。


「ケガをしているのか?」

「違いますわ。羽を使わせないようにしているのですわ」


 ペシェが、ヒザの上で拳を握る。


「あんなので、演舞ができるのか?」

「観客は危険な技を、観に来ているのですわ! 趣味がいいとはいえませんわね」


 それにしては、危険すぎるだろう。下に落下防止用ネットも、敷かないなんて。


 背中に羽を生やしている人の生態は、わからない。が、身体の一部を固定された人間は、必ずバランスが崩れる。オレも昔、経験があった。腕を折ったときは、やはり体幹が乱れる。


 きっとあの二人だって。


 ドラムロールが鳴り、会場に緊張が走る。


 ポムとポワールが、同時にブランコを揺らす。


 姉のポムが、ブランコから手を放した。ポワールの両手を掴み、宙吊りに。また反動をつけて、自分のブランコに戻っていった。


 ポワールも、姉と同じ演舞をする。


 今度は、お互いがブランコの上で立ち上がった。


「あれで、わざとブランコが切れて、包帯が解けて飛び上がるという演出ですのよ」


「凝っているんだなぁ……!?」


 順序よく、演舞は行われているように見えたが、二人がよく見ると動揺している。


 包帯が、解けない様子だ。


 真下にネットはない。あのままでは、地面に直撃する。


 オレはすぐに動いた。観客席から飛び出し、ステージに上る。落ちてくるポムの方へと、手を伸ばす。


「ひゃん」


 どうにか、ポムをキャッチした。しかし、ポワールの方は……。


「オヤジ、やったぜ!」


 ポワールの方は、レザンがキャッチしてくれたようだ。ダイブして、自分の身体をクッションにしたのか。


「レザン、ポワール、大丈夫か?」

「お腹に直撃したから、さっき食った串焼きが出そう」


 ポワールを横へズラして、レザンが起き上がった。


「ありがとー。二人とも。助けてくれなかったら、大ケガしていたよー」


 ポムが、オレに抱きつく。


「感謝の言葉もない。今後、何かあったときは言ってくれるといい」


 ポワールも、頭を下げてきた。


「監督、見て!」


 オランジェが、二人の背中を縛っていた包帯をオレに見せてくる。


 包帯に、細工がされていた。

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