第13話 【六回オモテ 直前】チア姉妹を再勧誘

 前半戦五回までを終えて、昼休みとなる。


「さあ、ウチの旅館で手分けして作ったお弁当よ。好きなだけ食べてね」


 オランジェの実家が、昼食を用意してくれた。


 控室で弁当を広げ、がっつく。


「みんなすっごいよねー。がんばってる」


 双子ハーピー姉妹の姉、赤毛ロングのポムが、みんなを激励した。姉妹揃って、瓶入りのジュースをチームにお酌している。


「ポムさんたち姉妹の、応援があったからですわ」


 ジュースをもらいながら、ペシェも感謝を述べる。


「あんたたちも、食べろよ。ほら」


「ありがとう」


 ハーピー妹、青髪ショートのポワールが、レザンから卵焼きを口に入れてもらった。


 チアガール部から引っ張ってきたためか、この二人の衣装だけはチアっぽい。


「でもさー。間近で応援するってすごい興奮するねー」


「これは貴重な体験。試合をするって聞いて不安だったけど、こちらに球は飛んでこないから安心」


 これまでオレたちは、五回まで無失点で抑えた。


 とはいえ、こちらも追加点はなしだ。油断はできない。


 セーフティバントの対策も、されているるだろう。


 なんせ、豪打者のシトロンも控えている。ホームランの常連らしい。まだペシェ相手にヒットも出ていない。


 五回オモテになって、ペシェは打たれる場面が増えた。疲弊しているのか。内野手である魔王の召還獣によるゲッツーがなかったら、同点にされていたかも。


「不甲斐ないですわ」


 屈指のお嬢様が、もっとも食っている。やはり、疲労が溜まっていたのだろう。


「とんでもない。ここまでよく無失点で抑えた。ペシェ。しっかり回復しておいてくれ」


「心得ていますわ」


 これだけの自信があったら、シトロンまでの打者は打ち取れるだろう。


「次は、剛腕のシトロンが相手だ。ライトのポム、センターのポワールは警戒してほしい」


 オレは、ハーピー姉妹に指示を出す。


「あーい」


「承知」


 姉妹は揃って返事をする。


 この二人は我がチームに、最後に加入した。


 一度断られたから、二度と入ることはないと思っていたが。


 

―――――――――◇ ◇ ◇―――――――――



 レザンが加わって、初めての練習時間となる。


 オレは、教師や講師ではない。野球以外何も教えられることがないので、チームの授業中はグラウンドの整備ばかりをしている。


「オ、オヤジ、似合うか?」


 フランボワーズのユニフォームを着て、レザンがはにかむ。父親と呼ばれるのは、なんだか照れる。


「ああ。すごい似合っているぞ」


「えへへぇ」


 レザンも、まんざらでもない様子だ。


 全員揃ったので、練習を始める。


 盗塁のキレが、昨日とは違っていた。レザンも本当は、野球がしたくてたまらなかったのだろう。


「それにしても、チア部も熱心だな」


 オレは、隣で練習しているチア部に目が行く。


 練習を仮想試合に見立てて、チア部はダンスを披露する。


 チアのセンターにいるハーピー姉妹の動きに、オレは目を奪われた。


 姉のポムは赤毛で、妹のポワールは髪が青い。


 双子のハーピー姉妹が跳ねるたびに、お互いのピッグテールがピョンピョンと跳ねる。


 あの脚力やバネは、ほしい。野球に活かしてくれないだろうか。


「イチゴーよ。我々は、一度拒否されている。再び勧誘しても、同じだろうて」


「そうかー。絶対、戦力になるんだが」


 やりたくないことをムリヤリやらせても、意味がない。それが、オレの教育方針だ。


 オレたちのために、応援してくれているんだもんな。


 それにしても、あのハーピー姉妹の視線が気になった。


 断った割には、興味津々という様子である。


「えっと、ポムと、ポワールだったな?」


 オレは、観客席で踊る二人に声をかけてみた。


「野球をやる気になったのか?」


「え!? ぜぜぜ、ぜーんぜんぜーんぜん。ままま、まーったく興味ないよー」


 姉のポムは、明らかに動揺している。

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