第11話 トライアウト、始動!

「かかか、監督! ハレンチですわ。初対面の女の子とキキキ」


 ペシェが、錯乱している。


「キスなんて直接してないだろ?」


「しているようなもんですわ!」


 人の食ったやつを食うと、口づけと同じ意味合いになってしまうのか? どんだけ乙女だよ、この異世界は。


「とにかく、レザンをフワンボワーズの新メンバーとして加入するかどうかが大事だろ? 反対のヤツはいるか?」


 ソレに関しては、誰も手を挙げない。


 おっと、本人が手を上げたぞ。


「オイラは別に、フランボワーズに入るなんて言ってないぞ!」


「どうしてだ?」


「あんな名門で、オイラのできることなんてねえさ。学費も払えないし」


 本業が、スリだもんな。


「フランボワーズの責任者である魔王は、別に犯罪者だろうが受け入れるらしいぜ。成績を出せばだが」


 魔王本人に直接聞いたんだ。間違いない。


「でもオイラ、別に野球が好きってわけでもなくて」


「じゃあ、なんで球場にいる?」


「あったかいからさ。おいしいスープだって出るんだよ」


 聞くと、ここはフワンボワーズなどの強豪校が寄付をしているらしい、スープも、学校が提供するのだとか。


「その割には、いいトマトのキャッチだったじゃないか」


 ここに来る前、背後から飛んできたトマトを、レザンは見事にノールックキャッチした。


「ずっと見ていればね。覚えたんだ。オイラはエアプ勢。ヤジを飛ばすだけでいいんだよ」


 いや、覚えられると実際にプレイできるとは違う。ただの野次馬に、あんな動きはできない。レザンは野球ができる。


「どうしてもイヤだってんなら、勝負しかないよな」


 オレは、レザンを一塁へ立たせた。


「ここにいるペシェから、二塁を盗んでみせろ。見事盗塁ができたら、お前の好きにしていい」


 まだバッティングを見ていないオランジェに、バッターを頼む。


 キャッチャーはオレがやる。


「負けたら、あんたのチームに入れってこと?」


「そういうこったな。その代わり、本気でやれ。よしプレイ!」


 ペシェが二度、けんせいをした。


「ところで、なんでスリなんてやってんだ?」


 レザンは、動きが曲者そのものだ。あのキレで「自分はエアプ」だなんてよく言える。


「両親が早くに死んで、親戚をたらい回しにされて」


 典型的な孤児か。


「親御さんたちは野球を?」


「そうだよ。それで、覚えた」


 遺産は親戚が使い潰したという。


 それで世捨て人になって、小悪党まで墜ちたと。


「チームに入れたって、どうせ使い潰すつもりだろ?」


「いや。オレが養うつもりだ」


「はあ!?」


 レザンは困った表情を浮かべた。


「戸籍が問題だってんなら、オレの養女になれ。妻ってのはムリだが、食わせるくらいはしよう」


 誰がなんと言おうが、オレは本気だ。コイツは手に入れたい。絶対、野球で成功する。


「ど、同情すんな! オイラは可哀想な子じゃない!」


「ああ。合理的に考えた結果だ。養女にすればチームも手に入り、お前はメシと寝床が手に入る。万事解決って判断しただけだぜ」


「オイラなんて養ったら、あんた後悔するよ?」


「していいよ。お前が手に入るなら」


 レザンは、オレの言葉に戸惑いを抱いているような顔をした。


「オレは野球で勝つことしか、考えていない。野球以外のことは、お前の好きにしろよ。世の中に不満があるんなら、スリを続けたっていい。オレが世間様に頭を下げまくってやる」


 ガキが面倒を起こすなら、親であるオレの導きが足りないってだけ。


 その不満を、野球で解消してくれたら。


「さて、本気を見せてくれ。プレイ!」


 再開早々に、オランジェのバットが快音を鳴らす。


 しかし、一塁手のムロンがファインプレーで塁を踏む。ワンアウト。あとは二塁にボールを送ればゲッツー成立……。


「ひゅう」


 オレは、口笛を吹く。


 二塁に行けば勝ちって言ったのに、レザンは三塁にまで到達していた。


「負けたよ。お前は、自由だ」


 と言っているのに、レザンは帰ろうとしない。


「どうした?」


「オイラに選択権があるんだよな?」


「おう」


「じゃあ……オイラをっ、お、お嫁さんにしてくださいっ」


 急に、レザンから手を差し伸べられる。


「いや養女な! 結婚とか早すぎるから!」


「いや養女な! 結婚とか早すぎるから!」


「愛人からでいいんで!」


「違うったら!」


「じゃあ、チームに入れてくださいっ」


 オレは、レザンの手を受け取った。


「ようこそフランボワーズ野球部へ」

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