第二球 選手《キミ》がいて監督《オレ》がいる風景
第9話 【四回ウラ】ネコ耳族のスリ
『さあ、始まりました四回の裏。星王杯一回戦、魔王立フランボワーズ対スリーズ女学院も、四回の表まで終わりました。フワンボワーズの攻撃です。両チーム、いまだ得点なし。さてフランボワーズ、この膠着状態を抜けられるか?』
これまで、どちらの学園も三者凡退が続く。ランナーすら出していない、静かな立ち上がりである。
ペシェのチェンジアップに、対戦相手は思いの外苦戦しているようだ。鍛え抜いてよかったな。
「どう見る、イチゴー。我々に、あやつを倒せそうかの?」
監督用ベンチで、魔王ラバと会話をした。
「さあな。ここまで勇者が強いなんてな。想定外だった」
思っていた以上に、勇者が手強い。フォアボールすら出してない。
打たせて取るタイプのムロンとは、別の怪物だ。
「他の学園との練習試合で、ノーヒットノーランを達成したこともあるそうだぞ」
魔王ラバが、情報をくれる。
ペシェさえ達成していない、大記録じゃないか。
「今回も、狙っていそうだと?」
「さあのう。その成績も、結果論であろう。我々は、その牙城を崩すために、仲間を集めたのだ」
「ああ。仲間を信じよう」
これまでは様子見だ。勝負は四回から。
相手が四回も見逃しているのが、不気味だ。シトロンという強打者がいるってのに。七回から勝負を仕掛けてくるつもりか?
その前に、ここで点がほしいな。
――二番 ショート レザン・ダイリンさん
ウグイス嬢の声に、会場が沸き立つ。
『さて、第一バッターが三振でワンナウト。二番打者、ネコ獣人族のレザン選手に打順が回ってきました。レザンさんは、ダイリン監督が商人から引き取って養女にした、元トライアウトの少女です』
トライアウトって言っても、日本で言うところの派遣のような扱いだったな。
『打力は非力ながら、バツグンの守備を見せてくれました。果たして、今度は結果を出せ――あっとバントの構え!? ランナーはいません! なのにフォームはバントです! セーフティバント狙いとは』
それでいい。お前ならできる。
トライアウト選手の実力、見せてくれよ。
―――――――――◇ ◇ ◇―――――――――
翌日の夕方、オレたちは街へ出てめぼしいメンバーを探しに向かう。
元チームメイトとも話をしてみた。が、彼女たちは揃って「先代魔王以外の指示は聞かない」と譲らない。元々野球が好きではなく、指示されていたから動いていたと主張してくる。
イヤなことをムリヤリさせても、意味がない。
他の生徒とも話をしてみた。
チア部にまで顔を出し、ハーピーの双子姉妹とも話し合う。
「えーっ。めんどくさそうじゃーん」
ギャルっぽい姉から、速攻で断られた。
「ワタシたちは、ラグビー部相手のチアで忙しい。他をあたってもらいたい」
勤勉そうな妹からは、やんわりをスルーされる。
「これは、街へ繰り出すしかないのう」となり、繁華街まで顔を出したのだ。
「目星はあるのか?」
「ある。まあ、お主のような感覚の人間からすると、不快感を持つであろうが」
「どういう意味だ?」
「これより、選手を買う」
その言葉を聞いて、彼女の言う通り胸がざわつく。
「倫理に反する、といいたいのであろう? まあ、現状を見て判断すればよかろう」
魔王と道徳について議論するつもりはない。オレだって、背に腹は変えられん状態なのだ。ここで自分から辞めれば、オレも何もわからない異世界で路頭に迷う。
この魔王が言うんだ。そうそう悪いことでもなかろう。
いい加減、この世界にも慣れないとな。なんでも試す必要がある。
屋台で買った肉まんを食いながら、オレはあちこちをキョロキョロする。
食べては見たが、いたって普通だ。ただ、ちょっと味気ないかな。
調味料の店を見つけたので、カラシを購入する。
これこれ。これがうまいんだ。
「それ、おいしいんですの?」
カラシを付けた肉まんを見て、ペシェが眉間にシワを寄せた。
「オレの地元では、こうやって食うんだぞ」
「お前もカラシ入り、一つどうだ?」
オレが思考していると、肉まんの入った袋がかっさらわれてしまう。
スリをしたのは、猫耳の少女だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます