第7話 果たし合い

 フランボワーズの面々がシトロン選手とにらみ合いを続ける中、オレはまず話を聞くことに。


「たしか、イチゴー監督でしたね? 地球では立派なご活躍だったとか」


「もう情報が出回っているのか?」


「教会の情報網を、なめてもらっては困ります」


 スリーズ女学院は教会が運営していて、選手も全員シスターだとか。勇者は知らんが。


 彼女たちは神通力で、オレの情報を掴んだという。


「オレの実力なんて、それほどでもないが」


「とんでもない。あれだけの成績を残しておきながら、ろくな待遇ももらえず、こんな弱小野球部の監督までやらされるなんて」


 弱い、ねぇ。


「我々は、あなたがたフワンボワーズに辞退を提案します。こんなメンバーも揃っていない学校で、まともな野球ができまして?」


 女子野球は元々、差別的な意味合いがあったらしい。「弱くて戦場で邪魔になる女は、野球で競ってろ」と。


 だが長い歴史の中で、女子野球のほうが戦争より重要な要素を帯びてきた。戦争で疲弊した人々の心を癒やし、活力を与え続けてきたらしい。


 その歴史・ドラマを作ってきたのが、フランボワーズだったという。


 中でも最近、教会が運営するスリーズ学院が頭角を現し始めたとか。


「あそこにいる勇者のピッチャーと、聖女のキャッチャーが、強いのだ。実質あの二人が、チームを引っ張っていると言っていい」


 ムロンが、苦々しく語る。


「前は、あたしたちフランボワーズが常勝していたの。けど、『野球は人間のスポーツ』とうたいだしたのよ」


 オランジェが、話に割って入ってきた。


 で、前の魔王が病没し、守備が崩れてしまう。


 そこを教会に狙われたそうだ。


「跡継ぎをしてくれ」と、ラバは以前から先代魔王に言われていた。が、インドア派なので断っていたという。


 知識はあっても、他の部員たちは前魔王のカリスマで付き従っていただけだ。


「先代魔王が亡くなった今、フランボワーズにかつての輝きはありません。弱いフランボワーズなど、我々の敵ではない」


「随分な言い草じゃないか」


 小さい身体ながら、シトロンはこの場にいる全員を相手にしそうな強い言葉を放つ。


「おとなしく、地球で挽回なさってください。送還装置なら、こちらでご用意いたします。あなたならば、地球に戻っても十分にご活躍が――」 



「断る」



 笑顔のまま、シトロンが固まった。


「あんたらが何を言おうと、オレはコイツらを見捨てない」


「なぜ?」


 シトロンから、笑顔が消える。


「オレならメンバーを揃えられるって、みんなが信じているからだ。それでもって、スリーズに勝てると」


「バカな。我々優勝校に、あなたたちが勝てると? たしかにフワンボワーズは無敵でいた。ですがそれも過去の話。先代魔王の采配があってこそ、この学園は生きていた。今はもう、面影すらないではありませんか」


「それを、オレは蘇らせることができるって、フランボワーズは信じた。期待されているからには、応えないとな」


 深くため息をついて、シトロンは腰に手を当てる。


「わかりました。星王杯で我々に勝てなかったら、フワンボワーズの野球部は廃部ということでよろしくて?」


 その提案には、現魔王であるラバが答えた。


「よかろう。我々が勝てば、貴君らもそれ相応のペナルティがあるのだろう?」


 魔王の気迫に、シトロンの碧眼が曇る。


「え、ええ。もちろん」


「ならば、考えておこう。今から楽しみぞ」


「フランボワーズの存続がかかっていますのよ! どうしてそんなに余裕が?」


「決まっておろう。余裕で勝てるからぞ」


 それ以上会話する気がないと言いたげに、魔王はベンチに戻っていく。


「後悔しても、遅いんですからね」


 シトロンは、立ち去ろうとした。しかし、すぐに用事を思い出す。


「ムロンさん! あなたも帰るんですよ!」


「私の居場所はここだ。もう手続も済ませた」


 オレたちにも見せた書類を、ムロンがシトロンに見せた。


 なるほど。正当な手続をしていなければ、この少女は折れなさそうだ。


「本当に、よろしいんですね?」


「ああ。オレはお前たちを叩き潰す。だろ、ペシェ?」


 急に話題を振られ、さっきまで棒立ちだったペシェが我に返る。


「も、もちろんですわ!」


「ヤツもああ言っているぞ。ハッハッハッ」


 続いてムロンの視線は、勇者に向けられる。


「勇者! 私が抜けたことを後悔させてやる!」


「えー。自分がやめただけじゃーん」


 やや少年っぽい口調で、勇者は頬を膨らませた。


「うるさい! 試合を楽しみにしていろ」


「ハーイ。今から楽しみだね!」


 ムロンの怒りなど我関せずといった感じで、勇者は心底楽しげに振る舞う。


「では、失礼いたします。約束を、お忘れなく」


 スリーズの集団が、退散した。


「して、監督イチゴーよ。余に弱点があるとな」


「ああ。マントヒヒをレフトに。今回入ったムロンには、ファーストに行ってもらう」


 ムロンが「なっ!?」と絶句した。

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