第6話 ライバル校と対面
「イチゴー監督。あなた、ペシェに何を伝えたの?」
オレの発言に、キャッチャーのオランジェも首をかしげている。
「別に。オレはただ、『握り方を変えろ』って言っただけだ」
ペシェのフォームを見て、なんとか魔法を使わずに魔球的な投球ができないか考えていた。小細工なしで。
「でも結局、思いついたのは握り方を変えた小細工だったがな」
ペシェがやっている通りの小細工を、オレはオランジェに披露した。
ストレートのように、二本の指で握らない。手をパーの状態にして球を握った。
「なんだか、シンカーに近いわね。なに、その握り方? そんなので、投げられるの?」
「ペシェならな」
「あの子がシンカーを投げられるほど、器用だなんて」
「まあ見てろよ。プレイ!」
ゲームを続行し、オレはペシェにサインを送る。
再び赤面して、ペシェは球をグローブの中で握り込んだ。今度はまた別の遅い球を。
「クソ! 当たらない」
タイミングを狂わされ、ムロンのバットは空を切った。
「ストレートが沈んだような感じがしたぞ!」
「今のは、サークルチェンジだ」
手をOKサインのようにする、ボールの握り方である。変な回転が入って、球が沈むのだ。
「よし、あと一球! これで」
オレはサインを送った。
「なんですって!?」
ペシェがボールを手放す。両手で顔を覆った。
「どうした、ペシェ。さっきから何を読み取っているんだ?」
オランジェと共に、ペシェの様子を見にマウンドへ行く。
「だって、すっごいセクハラめいたコトばかり要求するんですもの!」
「はあ?」
意味がわからない。
「最初は、『遅い球を投げろ』ですわよね」
通じていたじゃないか。なにが問題だったんだろう?
「続きがありまして、『撃ち落とせなかったら、オッパイを揉ませろ』と」
言っていない言ってない。
「二球目も遅い球のリクエストでしたが、『打たれたら、オレのバットを磨かせる』と」
ないから! 生徒に手を出すとかありえないって!
「さっきのは?」
ペシェにサインの内容を聞いて、ちゃんと理解していると認識できた。
「それと『見事とらえることができたら、かわいがってやる』と」
「いやそこまでは言ってないぞ。とにかく打ち落とせ」
オレは「一・二塁間へ向かい」、プレイを続行した。
「タイム!」
ムロンが待ったをかけて、構えを変える。
「逆手持ち?」
「あれよ。あのフォームで、ムロンはペシェのストレートからヒットをもぎ取ったの」
なるほど。では、練習にうってつけだ。
「準備ができたぞ。イチゴー監督」
「わかった。プレイ!」
オレは、プレイ再開の合図を出す。
ペシェが、文字通りのストレートを投げる。
「これを待っていた!」
ストレートの軌道に、ムロンが飛びついた。
金属バットが音を鳴らし、ボールは一・二塁間へ。
ムロンは左打ちだ。そこへ飛ぶのは読んでいた。
「打たせてよかったの?」
「いいんだ。オレの方は、これを待っていたんだから」
一塁手のマントヒヒ召還獣のグローブが、ボールをかすめる。
やはり、取りそこねたか。
カバーに入り、オレは一塁へ放る。
ギリギリのタイミングで、ワンアウトを取った。
「やっぱりか。ペシェの得意技と、『魔王の弱点』がわかった」
「なんですって? だから、わざと打たせたの?」
防御マスクを取って、オランジェがオレに尋ねる。
試合形式でないと、緊張感が出ないからな」
オレの狙いは、みんなの長所短所を肌で理解してもらうことだった。
「余の弱点とは?」
それは……と魔王に言いかけたときのことである。
「ムロンさん! あなたはなにをやっているのです!?」
青と白のストライプ柄という、わが校とは対照的なユニフォームを着た生徒数名が、乱入してきた。
「あなたはうちの生徒のはずです。どうして他校にご迷惑をかけていらして!?」
先頭に立つ金髪碧眼のチビが、ムロンを叱り飛ばす。
そのすぐ後ろにいる黒髪ショートカットの巨乳が、例の勇者か。
他の生徒が全員ゴリマッチョなのが、気になるけど。
「うるさい! 貴様が私より勇者などを選ぶからだろうが!」
ムロンも反論する。
「フランボワーズの監督さん、うちの生徒が、ご迷惑をおかけしました。わたしは、聖スリーズのキャッチャーで、シトロンといいます」
金髪碧眼のロリ少女が、オレに頭を下げた。
「その上で、監督さんにご忠告を」
「なんだ?」
聞くと、シトロンがオレを真正面に見上げる。
「夏の高校野球選手権、【星王杯】を辞退なさってください」
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