第5話 転校生は、ライバル!?

 銀髪サイドテールの少女が、背を向けた。ユニフォームに『夢龍』と書いてある。

 口には、ハーブらしきものをくわえていた。

 魔王に聞くと、あれは食べるタイプの薬草らしい。根っこの食感が、グニグニしたミントなんだとか。オレたちの世界で言う、ガムに該当するのか。


「スリーズ女学院の二年、ミカゲ流剣術準師範。夢龍ムロン御影ミカゲだ。そこの男、お前は何者だ?」


「イチゴー・ダイリン。ここの監督になったもんだ」


「お前か。たしか、監督が亡くなったと聞いてたな。真実を確かめに、見学させてもらいに来た」


 ムロンが、野球部見学許可証をちらつかせる。許可証ももらってきたのか。


「スリーズ女学院って?」


 オレは、魔王ラバに尋ねる。


「優勝候補の一角だ。我らはあの学校に一回戦で当たって、敗退した」


 直前になって監督が亡くなり、チームがバラバラになっての試合だったという。


「あいつ、強いのか?」


「ああ。いわゆる『二刀流』ってやつだ」


 ほほう。ピッチャーでもバッターでも結果を出す役ね。


 異世界にも、そういうタイプがいるのか。


「しかも、ペシェが乱闘した相手でもある」


 暴投されて、お互いにキレて殴り合いになって退場処分にされたらしい。


「仲がいいんだな」


 オレがいうと、「どこが!?」とペシェとムロンの両名から罵声が飛んできた。


 ホントに仲が良さそうだ。 


「なにしに来たの?」


「こっちに転校してきた」


 またムロンが、別の書類を見せてくる。

 本当にムロンは、この学園に編入してきたらしい。


「実は部に女勇者が入学してきてな。そいつにポジションを取られたんだ!」


「単にクビじゃないの!」


「あの勇者め、聖女と幼なじみってだけで私のポジションを! 許せん!」


 ムロンが、地団駄を踏む。


「おい、あいつってそんなに実力者なのか?」


「スラッガーとしては一流だけど、ピッチングは平凡よ。投げる人がいなかったから採用していただけって感じね」


 オランジェから、実に手痛い意見を聞いた。


「だから、そいつの鼻を明かしてやらねば気がすまん! しかし、有能な野球部と言えばここフランボワーズしかない。そこでだ」


 散々まくし立てた後、ムロンが自分を親指で指す。


「お前ら、私を雇わないか?」


「どういう意味よ?」


「そのままの意味だ。この学園のピッチャーになってやると言ったのだ」


 偉そうに、ムロンは自分をアピールした。


「なんですって!?」


「こんな日和ったカーブしか投げられんペシェより、二刀流の私を雇え。よほど仕事をするぞ」


 ムロンが、ペシェを挑発をする。


 怒ったペシェが、ズカズカとバッターボックスまでガニ股で歩いてきた。


「なにをおっしゃってますの!? 防御率はわたくしの方が上ですのよ!」


「それは、カーブがあってのことだろ? ストレートはカウントに入っていないはずだ。お前のストレートなんざ、敵ではない」


 あくまでも、技術は自分のほうが上だといいたいのだな?


「いや。今のペシェなら、満足のいくストレートを投げられるはずだ」


「なんだと!?」


 オレの発言に、ムロンが噛みついてきた。


「こいつはもう、弱点を克服している。見事なストレートを投げられるはずだ。打ち取ってみるか?」


「本気で言っているのか、お前は? では見せてもらおうじゃないか。ペシェのストレートとやらを」


 二人を引き剥がす。


「ふん。たった一日で、劇的に球種が変わるものか」


 左打ちのバッターボックスで、ムロンがバットを構える。

 ムロンは、サウスポーなのか。所持していたグローブも、左利き用だったし。


「まあまあ。とにかく弾を見てみてくれ。ペシェ、プレイ!」


 キャッチャーの横から、オレはペシェにサインを送る。


 どういうわけか、ペシェが顔を真っ赤にした。頭を振って、大きく振りかぶる。豪快なトルネードから、ストレートを繰り出した。危なげない、フワリとした球が放たれる。


「なに!?」


 ムロンはバットを振れない。


 ボールはストレートに、オランジェの手に「ポスッ」と吸い込まれていった。


「うそだ! 私が反応できないなんて!」


「いや。あれこそ正真正銘、ペシェのストレートなんだ」


「あれがストレートなもんか! 弾が届くまで、遅かったじゃないか!」 


 たしかに。

 ペシェの強肩を知っているものなら、豪速球を警戒するはず。

 

 しかし、オレはあえて遅い球をサインでリクエストした。


「ストレートだよ。腕の振りだけはな」


「……チェンジアップか!」


 そう。


『緩急のついたストレート』、チェンジアップこそ、ペシェの本当の武器だったのだ。

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