第3話 この物語はつまりはこういうストーリーである
「出来た、これで魔剣クラスの代物は三本か」
グレジャさんの店に置いておかれるようになってから俺は百品の武器防具すべてにスキルを使ってみた。その結果、3%の確率で魔剣フラガラッハ級の代物は産み出せていた。
ランクはSSRが最高品質らしく、Eが最低品質のようだ。
俺のスキルは失敗すると品質を維持した代物が戻って来る仕様らしい。
早速、三品のSSRを店主のグレジャに納品しようとすると。
「――っ……」
グレジャさんは腰を抜かした様子で、その場に尻もちをつき呆然としていた。
「ハイドの言ったことは本当だったようだな。まさか魔剣クラスの代物を本当に生み出せるとは思ってなかった……普段のお前たちを何気なく見ていたが、普通の一般人にしか見えなかった、俺の目は節穴だったようだ」
「とりあえず、これ受け取ってください、約束の品です」
「あ、ああ、ありが――」
グレジャさんは声を震わせて約束の品を受け取ろうとすると、俺の背後から声があがった。
「グレジャさん! 今月の納品になります!」
背後から現れたのは赤毛を後ろで一本結いにした鍛冶師のような服装の女性だった。年齢は俺と同じくらいで、利発的な丸い目は紺碧色をしていて、一瞬見惚れてしまった。
「お、おお、すまねぇリリィ、ちょっと俺腰抜かしちまってて」
「大丈夫? お得意先のグレジャさんに死なれたらこっちまで生きていけなくなるんですから」
グレジャさんはリリィと呼んだ彼女に手を差し出され、起こされる。
すると彼女はSSRの代物を手にした俺を目を細めてじろりと見つめる。
「……グレジャさん、この人は?」
「そいつの名は天草、お前と同じ鍛冶師だよ」
「つまり競合相手ってわけですか、グレジャさぁん、困りますよ」
彼女は猫なで声でグレジャさんにすがりつくように言うと。
「泣き言なんざ聞きたくねぇ。こっちも商売なんだ、よりいいものを他よりも安く提供してこそ客がつく。悔しかったらリリィも天草に負けないよう頑張るんだよ」
そんな彼女をグレジャさんは一蹴すると、彼女は俺を睨みつけた。
「天草って言ったっけ? 職人歴はどれくらい?」
職人歴? えっと、正直に答えた方がいいのか?
「たぶん、三か月ぐらいかな」
「三か月!? 三か月で今手にしている代物を作れるようになったの?」
「えぇまぁ」
「……グレジャさん、今日はこの辺で私帰ります。納品物の代金はのちほど受け取りに来ます」
リリィさんは落ち込んだ様子で店をあとにしてしまった。
三か月は言いすぎただろうか、せめて五年とかもっと数字盛ればよかったかもしれない。
グレジャさんは納品物を持ち、店のレジカウンターにおいて査定をし始める。
「気にするなよ天草、あいつは才能はある方だが、お前ほどじゃねぇってだけの話だ」
「いや、俺は他人が造ったものを改造することしかできないので、0を1にすることは出来ませんので」
「そうなのか? だが見てわかる通り、今のあいつはプライドが粉々になったな。今から追いかけてみちゃどうだ? 今後恨まれるかもしれねぇぞ」
「……グレジャさんがそこまで気に掛けるのなら、彼女とちょっと話してきます」
グレジャさんは、じゃあ後は頼んだぞといい、目の前に侍られたSSRの武器を宝石でも見るような瞳で見つめていた。気分高揚している彼を尻目に、俺は件の鍛冶師リリィの後を追っていった。
リリィは大通りの途中から迂遠とした裏道に入っていった。
急いで俺も裏道に入り、多少混雑している中、リリィを追っかけた。
リリィは裏道の一角にある工房の前で足を止め、鍵を解除して中に入っていった。
リリィの家の周りでは煙草の煙が鼻につくし。
地面の岩畳みにカビが自生しているほど、暗い雰囲気の家だった。
その家の扉を――コンコンコンと三回ノックすると、リリィは扉を開けてくれた。
「誰かと思えば天草じゃない、私に何か用?」
「ちょっと中に上げてもらってもいいでしょうか?」
「粗茶ぐらいしかもてなせないけど、どうぞー」
工房内に入ると、鍛冶仕事で使う道具が所狭しと並んでいる。
鉄に熱を加えるための釜戸や、熱くなった鉄を機械的に叩く道具だとか、色々ある。
リリィさんはそんな鍛冶道具に囲まれた中で生活しているようだった。
「ねぇ、天草くんはわずか三か月であの綺麗で切れ味も高そうな剣を作ったんだよね? 何かコツとかあるの? 同業者なんだし、情報は共有しておきたいなー。なんてね。さすがにこれは天草くんも部外秘だよね」
リリィは粗茶を俺に渡しつつ、素直に俺が手にしていた武器がどう生成されたのか知りたがっていた。なら粗茶の例として、俺は素直に神様から貰ったスキルのことを教えてやろうと思う。
「神様から貰ったスキルで作れるんですよ」
「神様から貰ったスキル? それってどんなの?」
「例えばここに置いている鉄の棒をですね、手に取ると」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・鉄の棒(RANK D)
この鉄の棒にスキルを使用するには以下の素材を要求します。
1:砂鉄30グラム
2:水2リットル
3:玉鋼2キログラム
4:宝石2カラット
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今回、俺のスキルは四つの素材を要求してきた。
砂鉄30グラムと水2リットルまでは楽にそろえられそうだ。
「すると脳裏にこの鉄の棒を昇華させるための素材を要求されるんですね? 今回の場合で言いますと砂鉄30グラム、水2リットル、玉鋼2キロ、あと2カラットの宝石を一つ、この四つの素材が揃えば鍛冶ガチャが発動できます。成功すればグレジャさんに贈答した同等の代物が造ることが可能です」
「何それ? 本当に? 実際の鍛冶仕事はしないでいいの?」
「ええ、神様から貰った唯一の役得ですからね。もし今提示した四つの素材を頂けるのなら実演可能ですが、どうしますか?」
「え、ええっと……わかったわ、用意する。実際に目で見て見たいからね」
リリィさんは工房にあった貴重品箱を開き、その中から輝かしい一つの青い宝石を取り出した。そして工房に置いてあった砂鉄と近くの井戸から水を汲んできて、この世界でも貴重な玉鋼を少し悩まし気に俺に託した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・鉄の棒(RANK D)
にスキルを使用しますか?
YES/NO
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「イエスだ」
スキルを実行させると、鉄の棒は集まった素材と一緒に光となって集合し。
光は周囲に弾けるように煌々と瞬くと、次の瞬間に一振りの槍が地面に突き刺さっていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
大成功
・鉄の棒(RANK D)は無事に処理され
・魔槍ゲイ・ボルグ(RANK SSR)に昇華されました
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今回も低確率の大成功を引き当て、SSR相当の槍が出来上がった。
リリィは俺のスキルを目の当たりにして、目を輝かせては言うんだ。
「凄い! なんて便利なスキルなの、これじゃあ鍛冶師も顔負けね」
「でも、俺はこういった素材がないとスキルとして使えないので」
「そうなの? だったら私たち、手を組まない? 私が基礎を作って、貴方のスキルで凄い武器防具をたくさん作って提供すれば、きっと大金持ちになれるよ!」
唐突だったが、彼女の提案は俺にとって美味しい話だと思える。グレジャさんの力も借りて、鍛冶師のリリィと一緒に最高の武器防具を作って商品化すれば、魔王の勢力がいるこの世界では打ってつけの商売となる。
神様は俺たち三人をこの世界に送る時、ちょっとしたテコ入れをしてくださったらしいが、本当にナイスだと思えた。
◇ ◇ ◇
という訳で、俺はスキル、鍛冶ガチャを使ってリリィとグレジャさんの協力と共に商店を構えるようになった。表向きはグレジャさんの店の二号店という扱いではあるが、この店には帝都をあっと驚かせる神話級の武器が勢ぞろいしている。
そのために抱える問題もあるにはあるが、それでも商店は連日大盛況の賑わいを見せていた。
そんなある日のこと、俺たちの商店に魔王や勇者がコネクションを持とうと来店し始めてから、大商店では日夜目まぐるしく事態が動き廻っている。
これは大学試験に合格した天草が不慮の事故によって死に、異世界に転移し、神様から貰った鍛冶ガチャスキルにより、ゆくゆく世界の中心人物となっていく、成り上がりストーリーである。
<了>
異世界転移して鍛冶ガチャを手にいれたので、大商店でなり上がろうと思います サカイヌツク @minimum
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます