第4話

 ○○ゴルドと空中に表示された小さな数字を見ながらコノルはとぼとぼと道を歩く。


「はぁ……今日宿代すら稼げなかった……ここはまたあの手で凌ごう……御飯は……いいや、また後で考えよう」


「野宿かぁ?また4界に行くのかの?」


 そんなコハルの歩いている横からニュッと顔を出して、黒猫は何にも考えてないような気楽な表情で聞いてくる。


「猫さんのおかげでね」


「照れるのじゃぁ~」


「皮肉よ。照れるな。それにしても、まぁ毎度毎度暴れる元気があるわよね猫さんは。体力無尽蔵なの?」


「……うむ。今度こそ褒めてるのかの?」


「皮肉よ」


「皮肉ばっかじゃな……」


 悄気る黒猫を余所目に、コノルはとある小さな祭壇を見つけるとそこに近寄り、目の前でパソコンの画面のような半透明の表示を出現させる。


「ここから4界への転移素材は確か【毒蛙のしっぽ】×4と【空蛇のしっぽ】×4……あ、嘘、蛇が足りない」


 コノルはメニュー画面に表示されている素材が足りない事に気が付くと、間違ってないか何度も見て確認するが、やはり素材が足りないので、ガクッと首を垂れる。


 今コハルがしようとしている事は今いる界から別の界への転移だ。界を跨いでの転移には決められた素材が必要で、その素材は今現在滞在している界にいるモンスターのが必要なのである。


 そして下の界に行く程少ない材料で済む。


 休憩界にも一応町外れに、転移用の材料を落とすモンスターが数種類いる。しかも休憩界という事で他の界より更に低レベルで配置されている救済処置が施されているのだ。


 だがそうは言ってもここは101界。救済処置で弱いと言ってもそこそこの強さではある。


 しかし普通より弱いので倒せない事もない。


 というか101界まで来れるプレイヤーなら難無く倒せて当たり前だ。


 が


 この二人に関しては別だった。


「……私がまた1人で頑張らないといけないのか……はぁ」チラリ…


 コノルは深い溜息をついて、黒猫を見る。


 黒猫は道の端に置いてある樽を、何を考えているのか何度も勢い良く蹴っていた。正義の鉄槌じゃあ!とか言って。


 いや本当に何してるの猫さん?


「……せめて猫さんが強ければ……いやいや!何を言ってるの私!バカなの!死ぬの!私が頑張らないと!」


 そう一人言を呟くとコノルは両手で頬をパチーンと赤くなる位強く叩いて気合いを入れる。


 そんな事をしてると不意に後ろから、


「逃げるのじゃ!!」ダッ!


 黒猫がそう言ってコノルの横を走り去っていった。


 そんな黒猫の挙動にコノルが首を傾げて後ろを見てみると、先程黒猫が蹴っていた樽が割れており、中から生臭い謎の赤い物体が出てきていた。


 臓物に似たような臭いと見た目に、コノルは額から脂汗を滲み出る。


 普通はただのオブジェクトでこんなエフェクトは出ない。ならばこれは他のプレイヤーが作った何かで、そこに生物の臓物を入れていたという事になる。


 このゲームはかなり現実に近い事が出来るので、初期配置されてるオブジェクト以外にもプレイヤーは素材さえあれば色んな物を加工して作れる。


 それはもう何でも。


 そして話を戻すが、臓物が入ってある樽……それだけならまだいい。雰囲気作りで置かれてる可能性もある訳だから。そう、そこで一番の問題は、置かれている場所。


 こんな商業施設や倉庫でもない、本当に何もない普通の通りに、臓物が入っている樽だ。仮に食べ物の保存用だとしても可笑しく不自然である。しかもその臓物は動物とかモンスターの物というより……人間の……いや、その臓物がなんの生物のものかは知らない方が良いだろう。


 そんな樽の中身を知ったコノルの脳内には、関わらない方が良いという危険信号が鳴り響き、直ぐ様黒猫の後を追うようにコノルも走り出す。


「な、な、な、なんてもの発掘してるのよ猫さん!?」


「知らぬ!なんなんじゃあれは!?」


「私が聞きたいよ~」


 情けない声を上げながら2人はさっきの樽からかなり離れた位置までくると、手を膝に当てて「……はぁはぁ」と息を整える。


「ふぅーなのじゃ。普通街中にあんな物置くかの?気がしれぬのじゃ。気が触れておるのじゃ。まったく」


「はぁはぁ……あれ多分……ブラックギルドの犠牲者でしょ。最近良く噂になってるやつ。ブラックギルドの縄張りで上納金を払えない人がいたらギャングみたいに見せしめに、関係者をあの状態にして上納金を払わない店の前に置くって」


「頭おかしいのかの?しかし……やはりあれは……うむ?おかしいのじゃ。ならば何故消えぬのじゃ?プレイヤーがあの状態じゃとゲームオーバー扱いで消える筈じゃろ?ましてや内蔵なぞ残らん筈じゃが?」


「分からない……けど、ブラックギルドの一部には私達の知らない技術を持ってる連中がいるって噂だから、あまり深く考えないでおこうよ。普通に暮らしてたら関り合いにならないしさ」


「……ふむ……そうじゃな」


 この世界にはギルドと言われる組織があり、1ギルド最大30人まで入る事が出来る。


 そのギルドの主な分け方をすると、一般の人達がコミュニティの為に作る一般ギルドと、病院や依頼の斡旋等の役割を果たす公共ギルド、そして界攻略を主な目的とした攻略ギルドの3つがある。


 その一般ギルドの中には危ない思想を持つ連中が集まった犯罪者ギルドがあり、強盗や電子ドラッグ、人殺しといった、現実世界でも一発アウトな行いを生業としてるギルドがブラックギルドと言われている。


 コノルと黒猫はそのブラックギルドの話をしているのだ。


 そして息を整えた二人は再び歩き出す。


「猫さんはこのままいくとブラックギルドに勧誘されそうだよね」


 黒猫が少し前の道を意気揚々と歩くのを眺めながらコノルはふと思った事を口に出す。


「何故じゃ?」


 黒猫はくるりと180度回って後ろ向きに歩きながらこちらを見る。


「勝手に人様の物盗むし、無銭飲食するし、物壊すし、よく世の中のルール無視するし……ってもう立派な犯罪者じゃないの!自重して」


「反省するのじゃ……反省!」


 猫はコノルの肩に手を置くと大きな声で「反省」とだけ言う。


 黒猫なりの反省の仕方らしいが、どうにも反省しているように見えない、ふざけた反省の仕方である。


 コノルはそんな黒猫の態度に慣れているので、特に何も言わずに、ヨシッ!とだけ頷くと、街の外へと出られる門を超えて目的の素材を落とすモンスターを狩りにフィールドへと赴くのであった。

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