第52話 ネガ Lament Now
「ねぇ……。こういう時って、勝手に座っちゃって大丈夫なんだっけ?」
俺に耳打ちする。
「いいだろ、堂々としろよ、俺たちは勇者なんだからよ」
そう言って、俺たちも座る。
「まずはお名前からがいいのではないでしょうか」
「分かってる」
少し語気を強めて言う。
「も、申し訳ございません……」
別にそんなことで怒る必要もないし、謝る必要もないと思うが。主従関係ってのはこういうもんなのか。
「私はスエラドルク、ドルクと呼んで構わない。こっちは私のメイド、エーテルだ」
「ふ〜ん、メイドって一人ひとり名前があるんだな」
バコッ!
「当たり前でしょうよ!」
ルシアに小突かれた。なんだかメイドって名前が無いイメージが勝手にあったもんだから、自然と口に出てしまった。
「私の館には3人しかいないからな。覚えるのも容易い」
もっと居るようなものかと思っていたが、そんな事は無かったな。
おっと、こっちも自己紹介が必要か。
「俺はレイズ、こっちはルシア。本来勇者ってのは四人組なんだが、なんやかんやあって今は二人だけだ」
「あえてその理由は聞かないでおこう」
「さて、研究について聞くが、お前はどんな研究をしてるんだ?」
「私の研究は主に、生物がどのように生まれ、どうやって生きているのか、その他にも、魔法の仕組み、その他諸々だな」
別に変わった事は無いと思うのだが
「ほう、で、どんな結果が出てるんだ?」
「ああ、それを言う前に、お前たちはモンスターと魔物の違いを知っているか?」
「それくらいなら知ってるぞ。モンスターは元々いる生き物だが、魔物は魔王が作り出した化け物、そうだろ?」
これも最近ヴェルに聞いて知ったことだが、本にも載るような常識なんだろう。
「ああ、そうだな。他にはどんなものがあるか、分かるか?」
「他に、というと、モンスターはどこにでもいるが、魔物はダンジョンに多いとかか? サウスドレシアがそうだったが」
「それと、魔物は倒すと消えるけど、モンスターは倒してもそのまま死体が残る、とか」
「ああ、そうだな。ざっと分かるのはそれだけだが、その二者の違いをさらに詳しくするのが私の研究の一つだ」
なるほど、かなり役に立つ研究だ。
「私が最初に不思議に思ったのは、動物や昆虫の存在だ。それと、モンスターとの区別はどのように行うのか」
「確かに、あまり考えたことなかったかも」
「しかし、それは簡単に理解することが出来た。モンスターと呼ばれるものは、いずれも動物や昆虫の雑種、もしくは突然変異したものだ」
「そこまでは考えたこと無かったが、確かに、モンスターを思い浮かべるとそんなのが多かった気がするな」
そう考えると、モンスターではないが、例えばミロルは猫のような特徴を持っている。今までそんな人種だからとしか考えていなかったが、人間と猫との雑種ってことか?
「そして次に目をつけたのは魔物とモンスターの違いだ。魔王が作り出したとされる魔物はモンスターとは違い、見た目が似たような生物は他に存在しない。スケルトンやゴブリン、スライムなんかがそうだ。スケルトンは、見た目こそ人間の骨と酷似しているが、体をどうやって動かしているのか、そして、どうやって生命維持をしているのか、全く分からない」
「魔力という可能性は?」
「ふん、魔力など、この世に存在しない」
異端研究者の片鱗が少し垣間見えた気がした。
「魔法は全て、科学で証明できる範疇のものばかりだ。ただ、魔法と呼ばれる所以は能力発動のきっかけが分かっていないからというだけだ」
能力発動のきっかけ? 要するに、火を出す魔法は、火を出すということ自体は火打ち石なりで可能だが、それをなんの道具も用いずに操る方法が分かっていないということか。
「そう、それこそが、科学である魔法が魔法たる所以なのだよ」
ドヤ顔でそうつぶやく、いまいち言っている内容は理解出来ないが。
「なるほどな、お前の言ってる内容は理解出来るぞ。俺もお前と話せるくらいの知識は持っている自信がある」
「私全く分からないけど……」
「珍しいな、私の研究をまともに聞くような人間は他に一人しかいない。少し語らいたいものだ……。よし、今日はここに泊まるといい、幸い空き部屋はある」
「おお、それは助かる」
「本当に良いんでしょうか? でもまあ、ここはお言葉に甘えて……」
「レイズ、といったか、お前は私の研究室に少し入れてやる、そっちの女はエーテルに世話を焼いてもらえ」
なんだか上から目線のやつだ。俺たちは勇者だぞ! まあ、俺自身、勇者だからどうというのは別にそこまで思っていないが。
「了解しました」
「よ、よろしく」
「はい、それでは早速こちらに……」
エーテルはルシアを連れて部屋を出ていった。
「さて、余計な人間はいなくなった。さあ、二人でディベートでもしよう」
かなり気に入られたようだ。にしても余計な人間って……。
「一般人目線からの意見と言うのも重要だ、浅くはあるが、その知識は広いからな」
「まあな」
「さて、勇者というと、やはり魔物には積極的に襲われたりするものなのか?」
「ん? なんだか聞き方に違和感があるな、勇者に対しては攻撃的になるとかあるのか?」
「そんなことも気づいていなかったのか。 その通りだ、魔物は基本的に一般人には積極的に攻撃しない、攻撃すれば、勿論反撃するが」
かなり衝撃だ、全く知らなかった。
「生物が他の種を襲うのは、種の繁栄のために他の種を駆逐するか、食料の確保、そして攻撃から身を守る防衛。そのあたりだよな」
俺も自分なりに意見を投じる。
「そうなると、魔王に作られるあいつらは自ら増えようとする理由はないし、栄養を摂取する必要もない。自ら攻撃する必要は無いってわけだ」
「全くもってそのとおりだ」
よし。
「そして、勇者だけを狙うということは、魔王の狙いも見えてくる。俺たち人類というよりは、勇者を敵と見なしている、ということだ」
「なるほどな」
それからもしばらく話をしていた、一段落ついた所で小屋に入れてもらったが、その中にあったものに驚いた。
「おぉ、なんだか色々と動いてるな」
壁にはメーターのようなものや時計のようなもの、色々なものがついている。
ここまでの物を自作出来るとは、それに、ある程度財力はあるだろうにしろ、周りからなんの支援もないのに、ここまで……。
それに、写真がある、全体的に青っぽく、モノクロの、幼い二人の写真。
「一体誰に頼んだかは知らないが、もう少しうまいこと出来ただろ……。魔法でやったのかは知らないけどよ」
「いや、それは私が幼い頃に自作した物で作成した。絵でも魔法で映し出したものでもない、それも科学だ」
「おいまじかよ、そんなことできんのか」
「ガラスを用いた道具だ」
そう言うと、かなりみすぼらしい道具を棚の上から取って見せてくれた。
「こんなもの、所詮子供の玩具に過ぎないがな」
しかし、俺はすぐに写真の方に目線を戻していた。
「すまねえ、話は逸れるが、この二人は誰なんだ? その道具を使ったってことはお前の子供ってことでもなさそうだ」
「ああ、それは私とエステルの幼少期のものだ」
装置を棚に戻してそう言った。
「え? 幼なじみなのにメイドなのかよ」
「なにかおかしいか? それにしても、お前はさっきからメイドに対して興味ありげな言動だが」
メイドってのが見慣れないものだから確かに興味があるのはそうだが、それよりも。
「普通幼なじみって言ったらもう少し一緒の立場というか、付き合うとか気のいい友達みたいなもんなんじゃねえのか?」
「ふん、これだから子供は」
こ、子供だと?
「大人の関係というのは、常に金が介在するものだ。幼なじみだから雇わないということも無ければ、幼なじみだから無償で働くということもしない。そこにあるのは、働くか、それを雇うかの関係のみ。出世のために周りに諂うこともあるが、いずれにせよ、働く人間に過去は必要ない」
「どうした急に、もしかしてアイツが好きだったりするのかよ〜」
少し馴れ馴れしく言ってみる。
「相変わらず子供だな、私が愛するのは自身の研究のみだ」
そう言っているし、自信ありげな発言から、嘘ではないことは分かる。しかし、顔が少し紅潮しているようにも見える。
「さあ、そろそろ時間だ、晩餐と洒落込もう」
ドルクが壁に設置された時計らしき物を見てそう言う。
今日は朝昼と、ルシアがケインに呼ばれて宝探しをしていたらしいが、久しぶりに刺激的な一日だ。
俺はドルクと共に、部屋をあとにした。
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