第51話 科学者 Kaleido Scope


「で、結局カヌレってのがキノコ探しを諦めたと」


「結局、何も見つからなかったからね。時間も無いって判断して、急にあんな感じに……」


俺は、ルシアが集められた時の話をしていた。


「で、そっちはどうだったわけ? なにかいいアイテムが手に入ったとかは?」


「それが、全くだ。一日ってのは早いもんだよな、気づいたらお前が帰ってきてた」


「あっそ」


そっちから聞いておいて、何だその態度は。


「ところで、二人だけで、魔王なんて倒せると思う?」


「いいや、二人だけじゃない。きっと今どこかで旅をしてるあの二人は勿論、セイトやグレア、共に戦える味方はいるだろ?」


「でも、勝手に巻き込むのは……」


「いや、巨悪に立ち向かうためにきっと力を貸してくれるはずさ」


「そうかな?」


さて、さっきから全く中身のない会話が続いている。


それも仕方ない、正直、二人だけの旅というのは少々気まずい部分があるからな。


別に俺はルシアを意識していない。チームの回復役、そして男ばかりのチームの紅一点役……。それは言い過ぎか? まあとにかく、いざ二人だけになると、お互いどう接すればいいのか急に分からなくなるのだった。


そんなことを考えながら歩いていると、大きな館が見えてきた。


「おぉ、なんだあの館は、気になるな」


「別に、ただの館じゃないの?」


「ああいうところには大体、変な家主がいて、なにか重い悩みを抱えていて、俺たちが解決したら、なにか素晴らしいアイテムをくれる、そんなテンプレがあるもんだ」


「ないです」


「まあ、気になるじゃねえか、だだっ広い大陸を自分の足で歩いてるだけじゃ、退屈なんだよ」


「馬車に乗せてもらうとかあると思うんだけどなぁ」


「馬車に乗るとすると、今より自由に動けなくなるだろ?」


また中身のない会話が始まったところで、館の前についた。


門の前に立つ。


…………。


「こういう所って、どうやって中に入るんだ?」


「そこのドアベルを鳴らしたらいいんじゃない? でも、本当に大丈夫? 一応私達勇者だけど、馴れ馴れしくない?」


「好奇心旺盛で傲慢なのが勇者の器だぜ。他人の住家に無断で入って中の物を壊していくくらいにはな」


少し盛ったが、実際のところ、勇者万歳の奴らにやったところで全然大丈夫なんだろうな。やらないが。


早速門についていたベルを鳴らしてみる。


少しの静寂が流れる。


しばらくすると、中からイメージ通りのメイド服を着た女性が出てくる。


「ダルカリア、本日はどういったご要件でしょうか?」


「おう、俺たちは勇者だ。近くを寄ったんで気になってな、ちょっと入ってみたい」


ルシアがさっきから俺の方を見ている。勇者ってだけで見知らぬ館になんの用もなく入ろうとしてるんだからな、職権乱用も甚だしい。


「はい、勇者様であることは承知しております。それではどうぞ」


そう言って、門を開ける。


外からも見えていた景色だが、館までしばらく小道のようなものがあり、右側には池。左側には小屋がある。なんだか豪邸に似つかわしくない建物だ。


「あの小屋はなんだ? 周りと雰囲気が違うな」


「あちらは御主人様の研究部屋でございます。あのように窓が閉まっている時は研究中だということになります」


「ふーん、挨拶していいか?」


「申し訳ありません。御主人様は研究の邪魔をされることを極端に嫌っておりまして、研究中は誰も入れるなと厳命されております」


「研究って、珍しいですよね、魔法とかについてとかですか?」


「いえ、生命や魔法以外の動力についてなどです」


「魔法以外の動力って?」


「それは……。私にはあまり理解出来ません。他の科学者には異端なオカルト科学者とまで言われていて、御主人様にしか理解出来ないような高尚な研究でございます」


それは高尚と言えるのか。


「あ、ちょうど研究に一区切りついたようでございます」


小屋の方を見ると、窓が開かれ、ドアから一人の男が。


「む、見かけん顔だな」


年は俺より少し上か? その顔は研究者特有の頑固さのようなものが見て取れる。


館からメイドがもう一人、上着を持ってきた。男はそれに袖を通すと俺たちに話しかけてきた。


「いや、勇者だな。見かけはしないがそれは分かる。今日はどういった要件だ」


「近くを寄ったんでな。興味があって寄っただけだ。お前の研究、気になるな」


「えっと、私はついてきただけというか……」


「ふん、年上に対する態度が気にならんが、まあいい、せっかくだ、私の研究を広めるためにも一席ぶつとしよう」


おお、周りに異端とか、オカルト科学だと言われている奴の話か、かなり面白そうだぞ。


そう言うと、俺たちについてくるように目配りをしながら館に入っていく。


俺たちも後ろについて歩いていく。


「ところでお前、他人行儀なのは嫌いだったりするか?」


「あ? 別にどっちでも構わねぇが、どっちかと他人行儀は街の奴らにいつもされてて十分だ」


「そうか。らしいぞ」


メイドの方を見てそう言った。


「了解しました」


そして、少し息をはいた。少し肩から力を抜くように。


「えっと、それではこちらにどうぞ」


なんだか、謙譲から丁寧になったような、そんなレベルで対応が変わった、ような気がする


まあ、そんな事はどうでもいいな。


館の沢山ある部屋の一つに入る。


男は足を組んでドシン座ると俺たちの方を見た。


「さて、語り合おう、この世界の謎と、その真相を」

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