第50話 違和感と疑惑 Jam Up
「結局グルイルフは見つけられませんでしたね」
「えっへへぇ、あれは全部演技だよ〜」
「なんですと!? のじゃロリっ娘だと思って期待してたのに! 鬼! 悪魔! ケイン!」
「呼んだか?」
うわ、なんだかヌルっと木の陰から出てきた。
「ひっ……。ひぃぃぃーー!!!!」
「お、ロゼ、久しぶりだな」
って、他の木からレイも出てきた!
「1日も離れていないのに、久しぶりとは言わないと思いますが?」
「まあそんなカリカリすんな、ほら、結果発表が終わったらさっさと帰るぞ」
「帰るって、どこへ?」
「んなもん、とりあえずここを離れるんだよ、俺たちの旅に戻るってこった」
「そうですか、そうですね、私は過去を探さないといけないんですもんね……」
私の失われた過去……。
なぜだろうか、今、近くにその答えがあるような気がする。
ふと、さっきまで勝負の敵だったチームを見てみる。
5人。
……。
3人。
はっ!?
急に頭の中に景色が浮かんで……。いや、流れ込んでくる。
その記憶は濁流のように、はっきりとしないのに、勢いだけはどんどんと増していく。
何も分かっていない、分からないのに、確実に頭の中から何かが……。
「おい、ロゼ」
今は放っておいてください。あともう少し、もう少しで何かが!
「何も考えるな」
……。
あぁ、濁流が少しずつ穏やかになっていく。
やがて、いつもどおりの思考になる。
「もうっ! 何か思い出せそうだったのにー! レイー!!」
「元気ならそれでいい」
……。
元気ならそれでいい、か。
確かに、過去のことを思い出そうとして、この"今"が失われるよりはいいのかもしれない。
どうやら私に、現実を見る勇気はないようだ。
「さぁーて! ここにいる両者とも何も持っていないぞー! 一体なにをやっていたんだー!?」
頭は勝負の結果に傾いていった。
確かになにも持っていないけど、これも作戦のうちですからね、勝ちは貰いました!
「あ! ルシアお姉ちゃーん!」
「あ、ヴェルちゃん。えーっと、ごめんね……」
ごめんねって?
「価値のあるキノコなんて、そんなの大した額にならないわ、そうよ! これが答えだったのよ!」
そうすると、カヌレさんが仲間の二人の肩を抱く。
「そう、この絆こそ最高の価値なのよ!」
…………。
……。
「両者引き分け〜!」
「なーにやってるでございますの! カヌレさん!」
「あんたこそ、なにも持っていないけど? 絆を見つけた私と違って、何一つ持ってないじゃない」
「わたくしの方はいたって作戦通りですわ! 敵部隊の妨害をしましたの! あなた方が何か一つでも拾っていれば勝てたんですのよ!?」
「なら、あんたがそこらの葉っぱでももいでおけばよかったじゃないのよ」
「わたくしは! あなたを信じ……。あ゛あ゛ーーー!!!」
そうして、この不毛な戦いは……。
「楽しかったね、ロゼさん!」
……。
楽しかった。勝てはしなかったし、勝者は出なかったけど。
「ですね、色んな人とお知り合いになれた気がします」
「やっぱり、大人になっても、こういう遊び心は大事だよねー!」
うん、不毛なんかじゃなかったですね。
有意義な戦いは、幕を閉じましたとさ。
………………。
…………。
……。
煮えない結果発表に盛り上がっている中、俺は一計を講じた。
「なぁ」
「はい? なんですか?」
「お前、どんな数字でも出せるんだろ? ちょっと手を貸してくれよ」
「あ、良いですよ? 何についてですか?」
「そうだな、嘘をついた回数だ」
「別にいいんですけど……。悪用厳禁ですよ?」
「そりゃ、証明は出来ねえな。まあ、誰にも迷惑はかけないだろ」
「ふふっ、その通りらしいですね」
そうすると頭の上を指差す。
どうやら、早速能力を使っているらしい。
さて、早速ケインの元へ行く。
「なあケイン。今は嘘を吐けねぇ、逃げればそれはそれでヒントになるから、別にそれでもいいがな」
「なんだ気持ち悪い、お前の考えている事は分かってる。まあ、とりあえず口に出して聞いてみるか?」
「あぁ、そうさせてもらうぜ。お前に聞きたいことはいくらでもあるが、とりあえず」
とりあえず、今真相に近づいている中で、鍵になりそうなことを聞くとする。
「サウスドレシアに置いていた魔法陣、ありゃお前が作ったものだろ?」
「ああ」
即答だった。
頭の上の数字は変わらない。
「その目的はなんだ。お前がダンジョン攻略に使ったものを、たまたま俺たちが踏んじまったって線も考えたが、お前が最奥部まで行ったって報告はその後に聞いたからな。他に目的があるんじゃないか?」
「……」
先程とは違って、妙に深く考えている。
「それは」
……。
「レイズ、お前を殺すためだ」
……。
頭の数字は変わらない。
「えっ? こ、殺すって……」
力が無ければこの交渉は成立しないが、当事者じゃないメイミに聞かせていい話じゃなかったかもしれない。
「メイミ、助かった。今のことは忘れろ。これ以上巻き込む訳にはいかないな」
「は、はい……」
そう言うと、そそくさとみんなの元へ行った。
「俺自身、これだけ他人を気遣えるまで成長するとはな」
「ノーコメントだ」
「さて、真偽も分からない話し合いなら、いつでも出来るからな、とりあえず今日のところは重要な質問はこれだけだ」
……。
「さっきから気になっていたが、何故怯えない? あいにく、その辺りは読心術でも分からないものでな」
さっきは未来を見てビビっちまったが……。
「なるほど、それだけ覚悟を持ってさっきの質問をしたってことか、予想もしていなかったさっきの本とは違って」
「あらかじめ悪い結果を想像してりゃ、それだけショックも少ないってことだな」
「なるほど」
……。
「さて、お前には色々知ってもらう必要があるからな、さっさと図書館に来て欲しいところなんだが」
待て、そういえばそうだ。
俺たちを操ると豪語するくせに、なんで俺たちが図書館に入れないことに気づかなかったんだ? そして、俺たちは今でも図書館に入れないでいる。
それに、後からその力を手にしていたとすればさっきの言葉はおかしい。
やはり、何かしらのハッタリ……。
「ほう、なかなかの推理だな」
「しまった! お前!」
「まあいい、お前が思った通りに動くんだな、俺のことは忘れろ」
忘れろ、か。そうだな、ケインが俺たちを操ってるってのが本当にしろ嘘にしろ、俺は目的に向かって進むだけだからな。
「ああ、そうさせてもらうさ」
俺はケインに背を向け、歩き出した。しかし、ある程度離れた時、声が聞こえて、不意に振り返った。
途切れ途切れで何を言ってるのか全く分からない。
「俺…。口……った。今日一日、俺に…しての記……シ……ンに頼……忘れ………く…。……く…い容易……とだろ?……。なぜ全……れ……ないのか? レイズ…………か……必…があ………だ。あ…、分か……、頼……ぞ。」
「おい、何話して」
「3」
「2」
「1」
……。
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