第49話 参謀 Ideal Boss


「わたくし、分かってるんですのよ」


歩いてたら早速エクレールさんが独り言を始めた。いや、私達にむけて話しているのでしょうか?


「カヌレさんは視野の狭い人ですから、どうせ今頃、『キノコならきっと金になるわ、探すのよ!』って言ってるに違いありませんの」


「は、はぁ……」


「カヌレさんとエクレールさんって仲悪いよね、なんで?」


ちょっと!? 直球すぎやしませんか!?


「毛嫌いしているわけではありませんわ。ただ、意見が合わないだけですの。あの人は昔っから独りよがりで……。会議の時も真面目に参加しないんですのよ?」


聞く限り、カヌレさんサイドに非があるように聞こえますけど。


「そうなんだー」


「会議にはもう一人いらっしゃるんですけれど、結局は私とその人とで話すばかりで……。って、そんな愚痴を言ってる場合ではありませんわ!」


うんうん、その通り。


「とりあえず、お二人の特技など、なにかありませんの?」


「わたしこの森に詳しいよ? それと、本で読んでるから魔物とかモンスターについても!」


「私は、ですね……。」


どうしようか、言ってもいいんだろうか。


周りの人には内緒にしてた能力なんだけど、別に悪い人でも無さそうだし、べつにいいかな。


「えーっと、他の人のスキルを使えなくすることが出来ます」


「えー! そんな力初めて聞いた! すごーい!」


「わたくしも初耳ですわ。本当は詳しく聞きたいところですけれど、あまり初対面の方に色々と聞くのも野暮というものですわね」


二人とも優しいなぁ。


「とにかく、作戦を立てますわよ。わたくしはカヌレさんとは違って、役割分担に長けてますの」


「まず、先ほど聞いたお話ですと、グルイルフは長い間この森に住んでいたのに、出会ったのは5日ほど前が初めてということで、情報はそれ以外にないと言うことですわね?」


「うん、役に立てなくてごめんね」


「気にする必要はありませんわ、なら他のアプローチを考えるまでですの。要するに、今回の勝負はお相手よりも良いものを手に入れればいいんですわ」


相手よりも良いものか……。見つけるものが決まってないなら、作戦の自由度はかなり広がりますね。


「と、いうと?」


「あちらが何も見つけられないよう、妨害すればいいんですの。カヌレさんのチームが私に対抗心を燃やしてなにかしらは持ってくるハズですから、私達はただ、お相手が何も見つけられないようにだけすれば、勝ちは私達のものですの!」


自分で言うだけあって凄い人だ。チーム内で分裂したライバルを利用して、結果的にチームの勝利を勝ち取るなんて……。


「そこで、キーパーソンになるのはあなたですのよ。えっと……お名前は」


「え? 私ですか? 私はロゼって言います」


「私としたことが、自己紹介を忘れてましたわ……」


「わたしはヴェルだよ〜。エクレールさんは知ってる!」


あれだけカヌレさんと口論してたらね……。


「いえ、一応わたくしも。わたくし、エクレール・フォンダンと言います。以後お見知り置きを」


「ま、まあ今更感はありますが……。ところで、私がキーパーソンというのは?」


「はい、あなたのスキルを封印する能力で、メイミさんの能力を防いで欲しいのですわ」


と、いうと、あの能力か……。


どんなものの数値でも表示してしまう。


あれを使われれば今回の勝負、優勝確定ですよね……。


「じゃあ、わたしは〜?」


「ヴェルさんには、良いタイミングでお相手の前に出ていただいて、森の何もないような所を道案内して、時間稼ぎしていただきたいんですけれど……」


「うん! 出来るよ! この森には詳しいからね!」


「ありがとうございますヴェルさん。よし、これで意見はまとまりましたわね、早速行きますわよ!」


「「おーーー!!」」


けど、よくよく考えたらイノセントガールズの場所が分からないんじゃ?


と思ったんですけど、ヴェルさんが見晴らしの良い木に登って見つけてくれました。


すぐに近くに寄ってスタンバイ。


「うにゃ〜! この頭の上にある数字はなんなのにゃ?」


「えっと……。ここにいる全員についてますね……。8を横にしたような」


「こ、これは! メイミ殿にとって、私達の価値はプライスレス、ということですな!? きっとそうだ、そうに違いない! 絆最高〜!」


「ちょ、ちょっとー! これはそういう意味じゃないよっ! 盛り上がるのやめてー!!」


「メイミ様、そういう所も可愛らしいでございますよ」


「かわいいにゃ〜。食べちゃいたいにゃ〜」


「う、うぅ……恥ずかしい……」


「何を言ってるんでございますか〜。恥ずかしがることないでございますよ〜?」


「カリン様がおっしゃられると囃し立てているように聞こえますが、それは本当の事でございます」


キャッキャキャッキャ……。


さて、現状を見て一言。


「別に妨害するまでもなく勝てるんじゃ?」


「油断は禁物ですわ……。それでは作戦通り、よろしくお願いしますわよ……」


「了解……」


早速、両手の人差し指と中指で四角を作る。そして、メイミさんをその中に入れる。


入れるって言っても、勿論私の手はそんなに大きくない。ただ、私の手で作ったフレームをかざすだけ。


「あれ? 数字消えちゃいましたぞ?」


「恥ずかしいからって消すこともないにゃぁよー」


「あれ? 能力は使ったままですよ? おっかしいなぁ?」


よし、成功。相手側にスキルを使う人が一人だけで良かった。これは一人にしか使えない能力だから。


この能力は、もしかしてギーチェさんみたいに、普通のスキルとは違うんでしょうか……。


レイがこんなスキルは知らないって言ってましたけど……。


とりあえず、その後は全部上手く行った。


能力が使えなくなった事に気づいて、普通に探し始めたのに気づいた私達は、早速ヴェルちゃんに嘘の森案内をしてもらった。


「怪しいニャ……。なんで私達にその魔物の場所を教えてくれるのニャ?」


「あんな小童に味方した所で、勝てると思うかい? あんたたちみたいな連携の取れたチームじゃなきゃ、勝利は狙えないよ! とにかくあたしについてきな!」


ん? ヴェル……。であってますよね……?


「この子……。本当は大人みたいな人だったんだ……」


「ミロル様よりも猫を被っていらっしゃいますね」


「なんか言ったニャ?」


「いえ、何も」


まさかあの子がここまで演技派だったとは……。


ヴェルさんがこっちに向かってサムズアップして見せる。


本当に私達が裏切られたんじゃって思うくらいの迫力だった……。


そして、道を歩いていく……。


メイミさんは何度も能力を使おうとしてるけれど、何回やっても上手く行かない。私は両手で作ったフレームを一時も外さないように注意しながら移動する。


「あれ? 何か落ちてるでございますぞ!」


指差す方向を見ると、変な木彫りの……。なにこれ?


「なんだいこれ? こんなガラクタ要らないよ!」


そういうと、遠くに投げてしまった。


「ちょっと待つニャ! 今の何か良いものだったんじゃないかニャ!?」


「うるさいねぇ、あたしがガラクタって言ったらガラクタなんだよ! 探すのはグルイルフだけだろう!?」


「は、はいぃ……」


そう言うと、その人のケモノ耳が垂れた。なんだか萎縮しているらしい。


「ロゼさん……。ヴェルさん、なんだか演技に熱が入りすぎて暴走してませんこと?」


「ええと、とりあえずいいんじゃないですか? 妨害という意味では上手くいってると思います……」


「そう言えるのでございますでしょうか、あれは……。」


そして、しばらくして。


「ゲーム終了ーー!!!」

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