第45話 やりましょう! Do!!

男女間の友情というものは、成立するのだろうか。


異性に対する好感度は、友情から、いつかは恋愛に発展する一本道なのだろうか。


分からない。産まれてから誰にも愛されず、愛さなかった俺には分からない。


俺はロゼに対して、どんな感情を持っているのだろうか、愛情? 友情? 愛情の中だけでも、家族愛のような性愛には繋がらないものも、そうでないものもある。


なら、友情こそが一番好ましい感情だろうか。しかし、一体……?


「ほーら、何ボーッとしてるんですか、ここまで考えたんですよ? もうちょっとすれば多分成功しますって」


「あー、そうだな」


「ほら、また二つ返事です。なにかモヤモヤしてるんですか? それともなんにも考えてないんですか?」


やはり、女には女の勘というものがあるのだろうか。そのとおりだ。


「どっちでもない」


「いーや、なにかあります。どっちなんですか?」


いっそ、話した方が楽になるかもしれない。わざわざ反抗しないで、言う通りにしたほうが……。


「どっちかといえば、前者の方だな」


「なら私に相談してください。相談するだけでもスッキリしますよ?」


相談か、以前レイズに聞いたときは、全く参考にならなかったが、いっそ本人に聞いてみたほうがいいのか。


「お前は拾われてる身だってのに、相変わらず傲慢だよ」


「そりゃー、感謝してますよ。でも、だからって気を遣いすぎたりするのはまた違うでしょう?」


「まあ、それは同意だ」


「なら、話してくださいよ。ほら、ほら〜」


「なら……言うが」


宣言してしまった。もう後はなるようになれだ。嫌われようと、ドン引きされようともう仕方ない。


「俺とお前の関係は、これ以上続くとどうなる」


「えーっと……。はいっ!?」


「いや……。その恋愛とか、友情とか、もう、分かんないんだ」


なんて女々しい……。恥ずかしくなって死にそうだ。こんな弱みを見せてしまって、これからどうすりゃ……。


「いや、あの。別に悪いわけじゃないんですよ? ただ、いきなりそんなこと言うもんでビックリして……」


「はぁ、もうダメだ」


「まあ、確かに、異性との付き合いなんて、レイみたいなオクテには分からないでしょうね〜」


「オクテってなんだ?」


「恋愛に疎い人のことです」


「じゃあ、この関係はいつか恋愛に発展するってことか?」


「まあまあ、落ち着いてくださいよ。レイはどうしたいんですか?」


俺が、どうしたいか? そんなもの決まってる。この関係のままでずっといることだ。だが、これ以上に一緒にいると、この先どうなっていくのか、それが分からないから俺は困っているんだ。


俺はこのままでずっといる。恋愛感情を抱くわけがない。だが、それは俺だけなんじゃないのか? ロゼはどうなんだ? 俺に恋愛感情を抱くものなのか?


「俺は、ただこの関係のままでいたいだけだ。お前を恋愛的に好きになるなんて絶対にない」


「そうですか。それじゃあ、レイは私が自分を好きになるんじゃないかと思ってると……」


言葉にすると、とても情けない悩みだ。


「ぷっ、アハハハハハハ!!!」


すると、笑いのツボを強く押されたかのように、突然笑い出した。


「何笑ってるんだよ」


「いや……。まさかそんな乙女チックな事を考えてるとはと思っただけです、それに、ナルシストにも程がありますよ!」


「そうか?」


「これは確かに、私に相談しないと困る問題ですよね。逆に、相談したら簡単な問題です」


「なら、答えは出たのか?」


「はい! 私はレイが大っ嫌いなんで、心配ないですよーってことですね!」


嫌い……。嫌いか。


「俺のことが、大っ嫌い……」


「でも、傷つかないでくださいよっ。世の中の家族ってそんなものです。お父さん、お母さんが嫌いな子供は沢山いるでしょ?」


「いきなり会話が家族にズレてると思うんだが」


「つまり、言いたいのは、きちんと恋愛感情以外の愛情も、異性間に存在するってことですよ」


「でも、それは家族との間での話であって」


「細かいことはどーでもいいんです。じゃ、私はレイの飼い犬ですかね。私は拾われた身ですし、まさにいい表現です。ペットに欲情はしないじゃないですか?」


「犬……?」


「そこはどうでもいいんですけど……」


俺は思い返していた。ロゼと出会った時の事を。ロゼは忘れてしまった、いや、忘れるべきだった思い出を置いて、俺との新しい旅を始めたんだ。


俺は、一人だったロゼを見て、自分を重ね合わせた。決して、可愛いからだとか、そんな感情ではなかった。それが、男だとしても、同じことをして、今こうして旅を共にしているだろう。


「なんだか、なんとなく分かった気がする」


「なら良かったです。他に聞きたいこととかありますか?」


「なら、俺たちは、これからも仲を深めて良いんだな? 仲を深めても、結婚とからしないんだな?」


「つくづく気持ち悪いですね……。そもそも、そんなに嫌がってるなら私が仮にレイを好きだったとしても、その気無くしますよ。ま、とにかくはあり得ないとだけ言っておきます」


「そうか、なら良かった」


「じゃ、これで集中して新技出来ますね?」


「ああ、問題ない」


「それじゃあいきますよ?」


「ああ」


よし、集中して、さっきの口上をしっかりと声を出して言うだけだ。動作も、スキルの発動も忘れずに。


「行きましょう!」


そう言うと、ロゼは腕を高く振り上げる。


「やりましょう!」


そして、俺も同じように腕を振り上げる。


「「一つど派手に!」」


右腕を、左から勢いをつけて。


「「ダイナミックに!」」


思いっきり腕を打ち付ける。


一体なにが派手で、ダイナミックなのか、こんな地味な技なのに。だが、言葉の内容なんてどうでもいい。大切なのは心を合わせることだ。


そう、心の垣根を取り払った俺たちに、失敗する道理などあるはずが無かった。

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