第40話 Go Future

巨人を倒してから、この町に少しの間お世話になっていた。


「勇者サマ、本当にありがとうね……」


「それを言うのも今回で6日目だぞ。いい加減しつこいっての」


「あのね、勇者サマがこの居酒屋に来た日、巨人をどうしようかでずっと葬式みたいな雰囲気だったのさ」


……。記憶がかなり薄れて来ているが、あの日、確かに俺が入った時は静まり返っていた気がする。


居酒屋なんだから、もっと楽しそうな雰囲気でもいいハズだからな、今考えると確かに、少し異様な光景だったのかもしれない。


「にしても……どこいったんだろうね……あの二人は……」


「いいや、いいんだ。いつか会える」


「この町で待ち続けるのかい?」


「いや、6日経っても帰ってこないんだ。きっとここには来れない理由があるんだ」


「そ、そうだね」


「そろそろ、旅をまた始めないとな」


…………。


……。


「レイズ、そろそろ旅の続きを始めない?」


「おお、全く同じことを考えていたとは」


「流石ね、気が合うのかな?」


「どうだか」


「……」


「二人になっちまったな……」


「ぐすっ……」


「何泣いてんだよ。急いでいたとはいえ、スレイが攻撃されたところは見てないし、ギーチェなんてもっと遠くにいたんだぞ? 死んでるわけねぇだろ」


「もっと……言葉は考えて欲しい……」


「ああ、そうだな。どこかで楽しくやってるよ、二人は」


「だよね」


……。


「ほら、心機一転、バッグの中身もぶちまけて全部失くすし、一回リセットされた感じがして新鮮じゃねぇか?」


「ホントにごめん……大切な人に貰った大切なものも失くしちゃって……」


しまった……。心の傷を抉りかえしてしまった。


「とにかく、心機一転なんだ、過去のことは忘れようぜ。あ! レベルも巨人討伐で上がって一気に58だぜ!? お前も56だし、この力はリセットしないから、強くてニューゲーム状態だ!」


「ちょっと何言ってるか分からないけど、そうだね、レイズの言うことなんだから正しいよね」


「ああ、そうだよ。にしても、お前だってすぐ弱気になる癖に俺に説教しやがって」


「あれはね! 説教じゃなくて!」


「そうそう、お前はそんなキャラが似合うな」


……。


「もういいっ、レイズ嫌い」


「それで結構。ほら、さっさと準備だ」


………………。


…………。


……。


「本当に行くのか? 俺たちの英雄」


「いいな、英雄。勇者よりランクアップだ」


「あのデカいのに会えたら言ってくれよ。俺はいつでもあそこで店を構えてるって。いつでも待ってるって」


「ああ、分かった」


「ありがとう」


「こっちも、弓やら矢やら貰ったからなこちらこそだ」


まあ? その弓も矢も使い切っちゃったんですがね?


「ありがとう」


「巨人の依頼くれてサンキューな。おかげでレベルアップした」


……。


「それでは、行きますね。短い間でしたが、ありがとうございました」


「じゃあな」


「「「ありがとう! 町の英雄!」」」


  第四部 The countdown began 完


………………。


…………。


……。


「嘘……私がいない間にそんなことになってたの?」


「うん、そうなんだ。それでギーチェちゃんもどっかに行っちゃって……」


「……そう。せっかくお洋服も準備したのに、残念だわ。」


…………。


「まあでも、時間に余裕が出来たわけでしょ? なら、もっとゆっくりおもてなしの準備が出来そうね」


カヌレちゃん……!


それで、遠征の疲れからなのか、頬杖をついたまま眠っちゃった。


窓からの日の光で可憐さを増して、まさにお嬢様って感じ。


「いぇーい………」


ん?


「しぇきしぇき〜〜」


え?


「ろっけんろーる……ロケンローッッ!」


…………。


「あ、ごめん。ちょっと寝ちゃってたわ。二日くらい寝てないの。許してくれると嬉しいわ」


「あ、気にしないでね。お仕事お疲れ様です」


寝言って……指摘しづらいなぁ……。


「全く、魔王もまだ眠っててくれたらいいのに」


「え? 魔王?」


「そうよ、ここだけの話、魔王が少しずつ動き出してるらしいわ」


「え……嘘……」


「まあ、それをなんとかするのが私たちとあのエセお嬢様ってわけ」


相変わらず嫌われてるエセお嬢様? 気になるけど……。


「まっ、それはさておき。旅の続き、頑張ってね。ところでお仲間は?」


「あ、今はホームシックだから元の町に戻りたいらしくて。今はオートラルスにいる」


「頼りないわね。私の方が強くて頼もしいわ」


「そ、そんなことないっ!」


「え……?」


「いや……なんでもないよ、ごめんね」


「ふ〜ん。そういうことかぁ〜」


そういうことって……なに!?


「その男、一回締めないとね。ルシアは私のものなんだから〜」


急に椅子を立って抱きつかれちゃった。


「あははっ! くすぐったいよぉ〜!」


「こんな風に、一度触れ合ってみたかった……」


「そうなの? 私で良ければいくらでも〜?」


「なら……甘えちゃお〜」


「あははっ……」


………………。


…………。


……。


6階


確か……この辺だった……。


まず、この転移魔法陣は相変わらず残っている。


恐らく……ケインの仕業だったんだろう。


『はい、ケイン様のスキルは『スタートダッシュ』『全パラ2倍』『同時魔法補助』『魔力回復強』『転移魔法上級』等々……』


あのときのシスターの言葉を思い出す。


『転移魔法上級』


さて、これは、シンプルに攻略に使ったのか、俺たちへのトラップなのか。


転移魔法陣に乗って、下の階へ行く。


30階


31階


ケタ……ケタケタケタケタ………!


「すまないが、今はお前に構っている暇は……あるか。まあとりあえず、邪魔だ」


スッ……。


俺の剣は、大きな音も鳴らさず骨の体を切り裂いた。


ケタ……ケタケタ…………。


32階


さて……ここか……。


あの時拾おうとした何か……。残っているだろうか。


すると、骸骨将軍が現れた。


巨人を倒した俺に、勝てるわけ無いだろうが!


素早く懐に入り込み、胴体を真っ二つにする。


ガガガ…………。


骸骨将軍さえ倒せば湧いてくる敵もいない。これでゆっくり捜索できる。


………………。


…………。


……。


キラン……。


ん!? 何か落ちてるぞ!


それは鈴のようなものだった。


俺はあの時、確かに感じたんだ。これは、俺が持っていたものだった。元々落ちていたものじゃない。


これがなんなのかは分からないが、なにか、重大なものの気がする。


俺はそれをポケットに入れ、地上へ戻った。


…………。


ん!? 待てよ……。


もう一つ確認したいことがあるっ!


俺は急いで大聖堂に入った。


「簡潔に聞く、勇者は新しく生まれたか!?」


「勇者ですか……」


「えっ、僕以外に勇者が生まれたんですか?」


「いいえ、待機中の勇者はこの方お一人です。今はあなた達の代ですよ」


代……。口を滑らせたな。やはり、勇者は生まれつきなんかじゃないはずだっ……。


しかし、それよりも重大なことは。


勇者は"生まれて"いない。


勇者が代わる代わる受け継ぐものなら尚更……。


いつか、また会える日まで、お前たちのこと……。


「待ってるよ。スレイ、ギーチェ」

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