第39話 Film Makers
俺たちは走りながら話していた。
巨人とセイトは戦いながら、少しずつ街に近づいている。
「なあ、巨人はなんで町を壊すんだ?」
「それはそういう習性だからとしか言いようがないね」
「なるほど……」
「町を破壊する習性……。これがなにかのヒントにならないか……」
「で、そうなると気になってくるのは町の判断基準だね」
「いや、町だから壊すんじゃない。目の前にあるから壊すんだ」
そう言ったのはグレアだ。
スレイがいれば、もっと詳しい情報が手に入るのだが……。泣き言は言っていられない。
「巨人は破壊を目的として生きている。それは目に入るものすべてを破壊し尽くすまで落ち着かない」
「なら、両目を潰せばいいんじゃねえか!?」
「確かに! 目に入るものを壊すなら、何も見えなくしちゃえば良いんだっ!」
さっきから、気になる巨人の行動。やけに目を守る手の動き。
「でも、それで合ってるのかな……?」
「あいつは目を潰される事をやけに嫌がっている気がする。かなり信頼できる仮説だ」
「え? でもなんだかおかしくない? 目に入るものを壊すんだったら、それは、"見えるから"壊すんじゃなくて、"そこにあるから"壊すんじゃないの?」
「いや、これも仮説だが、魔王の設定したかぎ刺激なんじゃ無いかって俺は考えてる。要するに、破壊を目的として作られた巨人は目に入るものを破壊する。それは一つのプログラ厶のようなもので、巨人の意志とは別のもので動いているんだろう。ついでに、それを活用するために、見える状態を維持せよという命令が、生まれつき備わっているんじゃないか?」
細かい説明は割愛するが、体がボロボロになって、それこそ歩けなくなりそうになっても守っているのは目だ。
視力こそが巨人の活動の源である破壊衝動を生み出すルーツで、痛覚なんて二の次に、生まれつき持った命令、「目を守る」を実行しているのだろう。
目を失えば、電池を抜いたおもちゃのように、原動力を失い、ゾンビのような巨人にも死をもたらすことが出来るんじゃないだろうか。
「全く分からないよぉぉぉ……」
いつもの反応だ。無理もない。
「でも、レイズがそういうんだから、そうなんだろうね。理由は分からないけど、結論は目を狙って倒す! ってことね!」
ルシア……。
「誰か矢は持ってるか?」
「俺が射ち損ねたのが一本だけ……」
「私はもう全部使っちゃった……」
町の全ての矢を集めたんだ。町に行ったところで、もう残っていないだろう。
「一本か……いや、大丈夫だ。必ず当ててみせる」
外したら責任は俺がとる。単騎で飛び込んで見せる。
「ダメだっ! そろそろグラゼライナーの活動限界だっ……」
「おい! 聞こえるか!」
「あぁ! 聞こえる!」
「ソイツは目が弱点だ! 目を狙う!」
「すまないが、どうやっても目への攻撃は防がれる……。無理だ!」
「いいや、攻撃するのは俺たちだ。お前はなんとかソイツを抑えててくれ!」
「分かった! ……って! もう町なのか!? 抑えられるのはほんのちょっとだけだ! 頼むっ! 急いでくれ!」
気づけば町がすぐそこにあった。
住民たちは、こちらを見ているが、何も言わない。
信じてくれているんだ。
信じているんだ。俺たちを。
……。
弓を構えた。
セイトは俺の指示した通り、巨人を抑えてくれている。それも、羽交い締め。俺たちが目を射やすいようにしてくれている。
……。
何十本とあった矢で、目に当たったのは一本だけ。普通に考えれば当たる確率は限りなく低い。
だが、俺には勝利の女神がついてる……。
「なあ、俺の勝利の女神」
「それは私に言ってる? それとも独り言?」
「どっちだろうな」
俺の弓を持つ手に、ルシアが手を添える。
いつもなら邪魔だと言うところだが、不思議と安心する。
手の震えが止まり、狙いをより正確に定める。
深く息を吸い込む。
そして、グレアから受け取った矢をつがえる。この矢には、町の人達の想いの全てが詰まってる。
そして、スレイ、ギーチェ。俺の仲間たち。共に戦い、ようやく巨人をここまで追い詰めた。
強く引き絞り。
「さあ……」
「行こうか……」
「俺たちの想いを乗せた、この攻撃!」
「喰らいなさいよぉぉーーー!!!」
「「いっけぇぇぇーーーー!!!」」
矢は放たれた。
もう、後戻りは出来ない。
矢をもう一度放つことは出来ない。
俺たちはその矢を見ていた。
…………。
……。
「まずいっ!! 力がッッ!!!!」
その時、セイトが思いっきり跳ね飛ばされた。
すると勿論、巨人は動き、狙った場所とズレる。
…………。
……。
巨人は急いで目を防ごうとする。
「動けッッ! グラゼライナァッーー!!」
だが、俺たちは決して動揺しなかった。
それは町の人も同じだ。
「このままだとっ! このままだとぉぉーー!! 俺しかいないんだっ……俺しかっ……!!」
セイトが焦る。
だが、俺たちは変わらず、動揺なんてしなかった。
それは町の人も同じだった。
その時、矢のスピードが上がり始めた。
さらに、矢は方向を曲げ、巨人の目を目がけ、目の元へ、真っすぐ……。
「「おやすみ」」
矢は、巨人の目を……。
グサ
グァァアアァァア!!!! グエエエオオオァァァァアアアーーー!!!!!
そして、巨人は膝から倒れ、その姿は粒子となって消えた……。
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