第38話 Emergency Emergency

ーおいっ! 諦めるんじゃない!ー


俺はただ、立ち尽くしていた。


一体誰の声だろうか。


俺の目は再び、ただ、目の前の情景を映すだけになってしまっていた。


グレアの元に巨人が走っていく。


走っているグレアを、誰かが助けた……。


助けた?


助けた!


一体誰が……?


その姿は徐々にこちらへ向かってくる。


「とにかく! ここは一度逃げるんだッ!」


バイクに乗った青年がこちらに手を伸ばす……。バイク?


あれ、なんだか不思議な気分になった。そして、それと同時に少し頭痛がした。


クソっ! バカか俺! こんな時こそ冷静に、熱血でいないといけないだろうがよ!


「あぁ! 俺も乗せろッ!!」


…………。


……。


青年は俺、ルシア、グレアを拾い、バイクで町に向かっていた。


しかし、巨人も凄まじい勢いでこちらへ向かってくる!


「あなたって、温泉にいた!」


「俺はセイト、とりあえず名前で呼んでくれ。そして、今乗ってるのは愛車のスクレイザーだ」


スクレイザーというのか、このバイクは。


「急に地響きがしたからな、向かってきてみればこの有様だ」


「そんなことより! スレイはどうなったの!? それにギーチェちゃんは!?」


「心配になる気持ちも痛いほど分かる。だが! 今はとにかく俺たちが巨人を止めないといけないんだッ!」


「俺たちが……? そうだ、そうだよな! 諦めてたまるかよッ!」


巨人が町へ走っている今、ギーチェは大丈夫だろう。


「だけどよ、どうすんだよ! このスピードだとあと3分もあれば町に到着しちまう!」


「キミが考えるんだレイズ! 俺はしばらくの間ヤツを食い止める!」


食い止める? 食い止めるってどうやって……。


よし、三人は降りてくれ! そして、俺が巨人を食い止める。長くは持たない、早くっ!


そう言って、バイクは急に停止し、俺たちを降ろす。


どうする……。どうやって……。俺たちは暴れている巨人を……。


「カモン! グラゼライナァッーー!!!」


パチンッ!


セイトが雄叫びをあげ、指を鳴らす。


一体どうやって戦うんだ……。


そう思った次の瞬間。


宙に不思議な空間が生まれ、そこから巨大な物が地面に落下した。


「おいおい、あれって……」


その答えが出る前に、セイトの乗っているバイクが跳び、"それ"の"胸部"に格納される。


「巨人ッッ!! 勝負だッッ!!」


巨大な人のような体、背中に着いたロケットのようなもの、鉄で覆われたその姿は。


巨大なロボットだった。


いや、感嘆している場合じゃない! とにかく今は作戦を考えなくては!


思考を巡らせる。


まず、あのロボットを使う方法。だが、ロボット単体では無理だろう。本人が食い止めるとまでしか言ってないため、倒すには力がないと見た。


なら、ギーチェに戦ってもらう方法。だが、ギーチェはここにはいない。呼びに行くにも時間がない。来てもらえるというのはあくまで希望的観測、やはり、俺たちがここで出来ることしか、方法はない。


ならどうやって? 俺たちに残された力は一体……。


「ルシア! とりあえずお前が持ってるものを全部出してみせろ! 何か使えるものがあるかもしれないッ!」


「わ……分かった!!」


そして、バッグの中身を地面に広げる。


あるのはガラクタ……。


そして、猪の肉。


後は、ヴェルの母親に貰ったお守りという名の鈍器。


そして、レイ達に貰った壊れた銃。


俺たちが持てる道具だ……。どれも巨人を倒すほどの力は持っていない。


「喰らえッ! グラインバードッ!」


ロボットの腕から炎の弾が発射される。


その炎はまるでフェニックスのようだ。


グァァ……。グルァァァ!!!


「クソッ! ダメだ! コイツは痩せ我慢している! とっくに倒れてもおかしくないハズなのに! 町を破壊するまで生き続ける……。まるでゾンビだッ!」


セイトの声がロボットによって拡声され、こちらまで聞こえる。


ヤツの姿を見る限り、俺たちの攻撃は無駄では無かった。目は潰れ、片目しか見えていないはずだ。さらに、足ももつれている。体は既にボロボロだ。


しかし、もう片方の目は戦う様子を見る限り、手で庇うようにしていて、かなりガードは固い。


「ビルゲイドシンガンッッ!!」


今度は指先から何やらエネルギーの塊のようなものが発射される。


それも直撃するが、巨人は全く勢いを止めない。


「クソッッ! これだけ動きが早く、すぐに接近されると、必殺技も撃てないッ!」


どうすればいい……。


頭の中で、パズルがぐっちゃぐっちゃになる。


どうすればいい……。


どのピースを当てはめようとしても、上手くいかない。


どうすればいい……。


焦って、手が震えて、上手くピースを掴めない。


「レイズ落ち着いて!」


……。


……。


「私は……頭がレイズほど良くないし……。強くない……。でも、私だって考えるからッ! だから、最後まで諦めちゃダメ!」


……。


「すぐに落ち込んだり、焦ったり、そんなんばっかなのに、いっつも強気で! 自分一人で解決しようとするから自身が無くなるの! 私たちに弱さを見せてよ! 弱さを受け入れてよ!」


……。


「ねぇ! 私じゃダメなの!?」


……。


「ふっ……。告白なら後でするんだな」


ダメだ、俺は強気なキャラじゃねぇとやっていけねぇや。


「こっ……告白って……」


だが、もしかすると、お前と二人きりなら……。


「冗談は今はいい、そうだな。一緒に考えるぞ! この町を救い、巨人を倒すために! ルシアッ!」


「冗談……か……。うんっ! 一緒に! 救うのよ! 沢山の人達を!」


「おお……流石勇者だ……!」


「勝利の女神は俺に微笑む!」


その女神は……一体だれなんだろうな。


「さあ! 行くぞ! プランZ! 最ッ高の逆転劇を! 今俺たちが幕を開ける!」

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