第37話 Nifty Idea B
プランBは、弓での攻撃。
何年か前、試しに使って以来、使うのは今回で二度目だ。しかし、結局は初心者、なので、数撃ちゃ当たる戦法で行く。
狙うは引き裂いた左脚、右腰、右腕、そして急所の目だ。プランBではギーチェを除く全員で攻撃する。
このプランの問題点は矢が飛んでくる方向から、俺たちの場所が勘付かれるという所にある。しかし、4方向からの攻撃は、ヤツの狙いを一人に集中させない。
プランCに繋げるために、ここで出来る限りのダメージを与える。
俺も弓に持ち替え、すぐさま攻撃に移る。
矢の本数は決して多くないが、弓含め、町から出来るだけかき集めたものだ。
………………。
…………。
……。
「おい、金は払うって言ってるだろ」
「いーや、私たちに手伝えることはこれぐらいしかないんだよ」
朝一に宿を出ると、待っていたのは居酒屋のマスターと、町の人達だった。
「ひっひっ、こんな町だけどね、私達が生まれ育った町なんだよ。巨人から守ってくれよ、勇者御一行」
「おばさん……」
「お前さんがいなくなったら、誰がワシの芸術を理解してくれるんだ! この弓はな、お前さんの事を想って作り上げたんだよ。この町を守るのも大事だが、無事に帰ってきて欲しいんじゃ!」
「屋台のおじさん……」
「今まで、人のことを想って作り上げた物は無かった……。おかげで気づいた……。お前さんが気づかせてくれたんじゃ! 想いは必ず力になる!」
そして、四つの弓と、ありったけの矢を受け取り、戦いに向かったのだった。
……。
…………。
………………。
この矢一つさえ、絶対に外さないし、無駄にしねぇ!
まずは一射、当たったのは頬。
違う、もっと上だ。
巨人は、その場から一歩も動かず、しかし、手を振り回し、攻撃から身を守ろうとしている。しかし、構わず俺たちは弓を引き続ける。
二射、今度は顎。
クソっ……。さっきから巨人が動いて狙いが定まりにくい……。
俺の担当は顔だ。高いところにある分、近づかなければならない、危険な担当。
しかし怯まずに、町の人達の想いを纏った矢を、確実に一発ずつ打ち込んでいく。
本来なら、矢が巨人に当たったところで大したダメージは与えられないだろう。そこで、プランAで刻んだウィークポイントが鍵になる。
に、しても、先ほどから巨人はやられてばかりで、全く攻撃をしてこない。
姿を消していること、緻密に練られたこれらの作戦に為す術もないからだろう。慢心はいけないが、勝つことを、勝てることをイメージしてひたすら矢を打ち込む。
最後の一発ッ! 絶対に当ててみせる!
俺の放った最後の矢は……。
まるで、誘われるかのように。
まるで、的の中心を射抜くかのように。
まるで、目指す場所へ一直線に進み続けるかのように……。
巨人の左目に命中した。
オアァァ……。オアアァァッッッ!!!!
よっしゃぁあ!!
よし! 早速プランCに!
グルルァァァアアアッッ!!!!
巨人が……。突然地団駄を踏み始めた。
それは、確実に今までの苦しむ姿とは違う……。
そして、突然スレイの方向に走り始めた!
「なっ!」
スレイが巨人が自分の方向へ走ってくるのに気づいた時には、既に遅かった。
グルァラッ!
走りの勢いを殺さず、その勢いをそのまま足の力に加え、二つの力が一つに重なり……。
ラァァッッ!!
地面を抉り、蹴った。
俺は、一瞬のことで……。いや、それは体感の時間だ、本当は一瞬なんかじゃなかったのだろう。
目は、今起きた出来事をただ、映写機のように網膜に映し出す。俺の脳は、ただの鑑賞しか許さなかった。
思考が鈍った。
そして突然、思考が取り戻される。
そして、自分の腕を見る。見えなかったものが見える。
俺たちの姿は、とっくに透明じゃなかった。
巨人がいた場所から、円のように、草が枯れ始める。これが、破壊者が、破壊者であることを誇示する。
そして、思考の回転がいつもより速くなる。
スレイが狙われたのは、目に入った最初の敵だったから。近くにいた俺は、逆に死角に入っていたんだ。
俺たちの姿が見えるようになったのは、巨人の咆哮によって、植物が枯れ始めたから。特にデリケートなこの花が真っ先に枯れてしまったから。
そして、蹴られたスレイは……。
既に見えているはずの姿は、消えていた……。
嘘……だろ?
そして、次に巨人が走り出した先にいたのは、グレアだった。
「グレアァァーー!!! 逃げろぉぉー!!!!」
しかし、逃げろったって、一体どこへ!?
あわよくば、巨人がこっちに進行方向を変えないだろうかと考えたが、その考えも虚しく、グレアの元へ一直線に向かっていく。
クソっ! まさか、こんなの……考えて無かった!
そうだ、俺たちは戦力を分散させることによって巨人を抑え込もうとしていた。
しかし、それは巨人側からすれば、一人でも倒せられれば俺たちのフォーメーションが崩せるということだったんだ。
だから、痛覚を忘れ、確実に一人を狩りに行った。
完全に盲点だった。チームの団結という考えが、一人の力がちっぽけなことを忘れさせていた。
くっそ……。もう終わりだ……。
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